十三話 フレンドリーちゃん再び
さて、アースガルドに向けて出発したはいいものの、俺の服はまだ真っ赤なままだ。
「おいハジメ血生臭いぞ」
とオルタス。
「服洗っとけよ」
とロザリンド。
「さすがに全身赤はファッションセンスが無いと思うよ」
とハル。
「裸になると気持ちいいぞ!」
うるせーマイケル。
はあ、どうしようか、服。
「しょうがないじゃんかよー。命のやり取りしてたんだぜー?」
「臭いもんは臭い」
「なぜ洗わなかった」
「だって服これしかねえもん!」
「「「「旅するのになんで着替え持ってこないんだよ!!」」」」
「あ、いやだって荷物になると思ってたし」
そのとき、遠くで地響きのような音が聞こえた。
「あれ?なぁ、なんか聞こえないか?」
「え?そういやなんか聞こえるな」
音の方を向く。小さな影が轟音とともに土煙をあげながら近づいてくる。
「おいおいおいおいおい!なんだあれ!?敵か?」
俺はすぐさま抜刀した。マイケルは構えをとる。オルタスはナイフに手をかけたまま抜かずに言う。
「少し様子をみようか」
マイケルも構えを解いた。俺は刀を一旦納めるともう一度抜くのが遅くなるから抜き身で待機。
「なぁ、あれバイクじゃねぇか?」
とオルタス。
「バイク?今時ガソリンなんてめったに手には入らないし、乗る奴なんて居るのか?」
とマイケル。
「一部の大金持ちが道楽で乗ることはあるが…」
バイクはすぐそこまで来ている。俺はようやくライダーの姿をしっかりと捉えた。白いYシャツに黒いスウェットを履いた女性。赤いチェックのネクタイが風になびいている。
土煙をあげながらバイクが止まる。ライダーがヘルメットを取った。そこから現れたのは見たことのある顔。
ふ、フレンドリーちゃん…?
フレンドリーちゃんは
「やあみんなひっさしぶりー!!!」
と叫びながらバイクから飛び下りる。
「わぁー!!バイクかっこいいー!!!」
とハルも叫ぶ。
「分かってんじゃないハル!さっすが!さっすがハル!可愛いだけのことはあるぞ!」
とフレンドリーちゃんが大はしゃぎ。オルタスは状況を飲み込めていない。ロザリンドはボケッと二人の様子を眺めている。マイケルは脱いでる。脱いでポーズ決めてる。オリバーポーズ。俺は疑問をそのまま口にする。
「ど、どうしたんですかフレンドリーちゃん?しかもバイクなんかに乗って、ガソリンは?」
「知らないの?最近はバイクも大酒飲みなのよ」
フレンドリーちゃんによると、捨てられていたバイクを拾ってアルコールで走るように改造したらしい。すごいですね。
「で?なんで来たんですか?」
「なに?忘れ物したから届けに来たんだけど?悪い?なんか文句あんのか?あぁ!?」
フレンドリーちゃんが全然フレンドリーじゃない!ハルを含めみんな少し離れたところに移動して、何かを期待するように俺を見ている。
「いやいや文句なんてとんでもない」
「うむ、なら宜しい。あとハジメお前臭いぞ赤いぞ生臭いぞ」
「あ、ちょっといろいろあって」
「あそう、で、こいつは誰?」
フレンドリーちゃんはオルタスを指差す。
「あ、この人はマウロイでいろいろあって仲間に…」
フレンドリーちゃんは俺が言い終わる前にオルタスを蹴った。蹴られたオルタスは吹っ飛んでった。20mくらい。後ろで静かな歓声が聞こえた。あれ?速くて蹴りが見えなかった。もしかしてフレンドリーちゃん強い?
「え?あの…え?」
「なぁにあれ?あんな弱いのが仲間?男のクセに軽く蹴っただけであのザマとはね、呆れるわまったく」
え?試したの?オルタスを試したの?死んでるんじゃないあれ?
オルタスは足をピクピクさせている。フレンドリーちゃんが口を開く。
「ま、とりあえず、ハジメに渡す物があったのを思い出したんだ」
はいこれ、と言って小包を渡してきた。開けてみると服が入っていた。赤い着物と黒い羽織。帯も黒だ。
「あ、あのフレンドリーちゃん?これって?」
「それ?服だよ」
見りゃ分かるよ。そんなことを聞いてるじゃないんだよ。
「ほら、お前勇者だし、返り血いくら浴びても大丈夫なように濃いめの色の服持ってきてやったんだよ」
ああ確かに赤や黒なら血も目立たないな。うん。
「ありがとうございます」
「おー良かった良かった。文句言われたらさっきみたいに蹴り飛ばすつもりだったからさ」
えぇ!?
「じゃ!またねー!!!」
フレンドリーちゃんはそう叫んでバイクに飛び乗り、土煙を巻き上げながら走り去っていった。嵐のようだった。
マイケルロザハルが走り寄ってくる。
「なに貰ったの?金?」
とロザリンド。
「なんだ服か残念だ…」
とマイケル。
「バイクかっこよかったね!」
とハル。
「着物さ、東洋の服だよ」
「着替えて見てよ!」
とハル。
「え、ここで?」
「良いじゃん男の子なんだし」
まあ確かに周りには俺たち以外居ないけど、ねぇ?
「着てよー!着て着て!!」
「わ、分かったよ!見るなよ!」
まず赤い着物に袖を通して、右左の順で重ねる。次に帯を巻いて、その上から羽織を羽織って出来上がり。
「ほら、着たぞ」
「おおー!かっこいいじゃん!!」
とハル。嬉しいです。
「この辺では見ない服ね」
とロザリンド。
「ああ、俺たち最後の一族の故郷ではこんな服を着ていたんだ」
そこでマイケルが疑問を口にする。
「なぁハジメ、その着物とか言うの、どうやって知ったんだ?着こなしだって完璧じゃないか、どこで覚えたんだ?お前は物心つく前に両親が居なくなっていたんだろう?」
ーー確かにそうだ。なぜ俺はこれを自然に着れた?刀だって格闘術だってそうだ。俺は習ったことなんてない。なのに身体が覚えている。身体が覚えている?どういうことなのだ一体?これはーー
疑問が次から次へと湧いてきて、頭がいっぱいになった。




