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【連載版】「愛さない」宣言されたので喜んで引きこもりお飾り妻ライフを遂行していたら、求めていない溺愛が始まった  作者: 雨宮羽那
第1章

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6/8

6・もろく儚かったです!


 翌朝。

 私がいつものようにふかふかのベッドの上で目を覚ますと、室内がまばゆいばかりの輝きに包まれていた。

 窓から差し込む太陽の光、ならばよかったのだが……。室内には、どちらかというとそれを反射する光が満ちていて目がチカチカする。


「な……何これ……?」


 困惑と、目の前の光景を信じたくない思いでいっぱいだ。

 部屋の壁際に、見たこともないほどに絢爛(けんらん)豪華なドレスがずらりと並べられている。

 机の上にはガラスのケースがいくつも並べられ、中には溢れんばかりの輝きを放つ色とりどりの宝石たち。

 そのほか、髪飾りにバッグに靴……。ところ狭しと、お高そうな品々が私の自室を圧迫している。

 あまりにもあまりな状況に、しばし呆然としてしまった。


 (これは、夢? もし夢なら完全に悪夢方面だけれど……)


 むしろ、悪夢でも構わないから出来れば夢であってほしい。現実だと思いたくない。


 (よし、二度寝しよう)

 

 もしかしたら私は疲れているのかもしれない。

 実家にいた頃と比べてずいぶんと自由気ままに過ごさせてもらってはいたが、過去の心痛がぶり返したのかも。もしくは幻覚だ。そうに決まってる。

 私が二度寝を決め込もうしたその時、部屋の扉が開かれた。

 姿をのぞかせたのは、なんとクイン様だった。


 (ってえ!? なんでクイン様がここへ!?)


 信じられない状況が立て続けに起こったせいか、私は瞬きすらできない。


「メリッサ」


「は、はひ!?」


 クイン様に短く名前を呼ばれ、私は情けない声とともに肩を震わせてしまう。

 私はごまかすようにとっさに毛布を引き寄せると、身を守るように体に巻きつけた。


「……すまなかった。あの夜からずっと、お前に寂しい思いをさせたことを後悔していたんだ」


 クイン様は申し訳なさそうに美しい眉を下げる。


「そ、そんなことは……。ところでこの大量のドレスやらは……」


 寂しいだなんて一瞬たりとも思っていないから、気にしないでいただきたい。

 混乱と胸の動悸が収まらない中、私は恐る恐る部屋を占拠する輝かしい物体たちを指さした。


「これは詫びの品だ。受け取ってほしい」


「詫び……?」


 嫌がらせではなく? という言葉を口に出すことは、どうにかすんででこらえた。

 クイン様から詫びられる理由も、こんな品々を贈られることにも理解が追いつかない。

 戸惑う私をよそに、クイン様は真摯な瞳で私を見つめた。


「遅いと言われるかもしれないが、夫婦生活をやり直すチャンスがほしい」


「はぁ……」


「朝食も、これからは食堂で共に食べよう」


「えっ!?」


 思わず私の声が裏返る。

 朝食を食堂でクイン様と共にする?

 つまり、一人まったりと部屋着で食べる至福の時間は失われ、早朝から着飾られた状態でありもしない優雅さを必死で取り繕いながら食べろということか。

 なんという地獄。


 (嘘でしょ!? 私の自由な幸せご飯タイムが……!)


 私の背中に、嫌な汗がじわりと流れ始める。

 顔から血の気が引いていくのが自分でもわかった。

 そんな私の様子に気づいていないクイン様は、ゆっくりとベッドの縁へ腰を下ろすと私の手を優しく包み込んだ。


「メリッサ」


 低く甘い声が私の名を呼ぶ。

 なんかいい雰囲気をかもし出しているクイン様には大変申し訳ないが、こちらは嫌な予感で胸がいっぱいだ。

 

「俺は、お前の健気な態度と優しさ、そして聡明さに惹かれた。お前が望むものはなんでも揃えてやる。望む場所があれば連れて行ってやる。必ず、俺がお前を守ろう」


 直視できないほどの美貌を持つ男が、熱を帯びた真剣な眼差しで、とてつもなく甘ったるい言葉を吐いている。『嫌われ公爵』と呼ばれるほど、容赦のないはずの彼が。別の意味で恐ろしい。

 それよりさらに恐ろしいのは、私の完璧な引きこもりお飾り妻計画が未曾有(みぞう)の危機に瀕していることである。


「あ、あの、クイン様! お気持ちは大変ありがたいのですが、私はそのような大層な扱いをしていただかなくても——っ」


 クイン様の(ありがた迷惑な)申し出を必死で辞退しようと私が口を開いたその時、再度部屋の扉が開いた。

 室内へ入ってきたのはノエラさんだ。

 

 (あっ! 助けてノエラさーん!)


 助けを求めてノエラさんへ目配せをする。

 私の視線を受けてか、ノエラさんはパチリとウインクをしてくれた。


 (良かった、助か——)


 私が安堵したのもつかの間。

 

「良かったですね、奥様! わたくしも、自分のことのように嬉しいです!」


 ノエラさんの口から放たれた言葉は、助け舟ではなく追い討ちだった。

 ノエラさんは胸の前で両手を握りしめ、うっとりとしている。


 (なんでそんな感動的な物語の見納めみたいな顔をしているの!? 私は全然嬉しくないから! 祝福しないで!? それに、私の味方してくれてたんじゃないの!? もしかして裏切ったわけ!?)


「社交界にも、近々お前をともなって顔を出そうと考えている。俺の……自慢の妻だからな。お前が俺を嫌っていても、俺は、そう思っている」


 私の心の叫びなど知るよしもないクイン様は、さらにとどめの一言を放った。

 若干照れたように言わないでほしい。こちらは照れよりも戸惑いと恐怖が心を占めている。


 (終わった)


「他の貴族たちがお前に手出ししようものなら、俺がすべてねじ伏せよう」


 そう言ってクイン様は、優しく握っていた私の指先へ口づけを落とす。まるで誓いを立てるような仕草だ。


 贅沢なドレスに、たくさんの宝石、夫からの情熱的な愛。そして、夫に守られて華やかな社交界へ足を踏み入れる。

 世の女性たちが夢見るような、幸せな公爵夫人としての生活が今まさに誓われようとしている。

 けれども対する私はというと、もはや引きつった笑いを浮かべることしか出来ない。


「は、はは……」


 (私の三食昼寝付きの引きこもりライフを返してえええ!!)


 こうして、私の完璧だったはずの『引きこもりお飾り妻計画』は、旦那様の溢れんばかりの(ありがた迷惑でこちらはまったく望んでいない)愛によって、わずか一週間ほどでもろく崩れ去り……。

 ……そして、私の公爵夫人としての華々しい生活(不可抗力)が幕を開けようとしていた。

 

 

明日は3話分(7.8.9話)まで投稿します♪

よろしくお願いします!


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