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【連載版】「愛さない」宣言されたので喜んで引きこもりお飾り妻ライフを遂行していたら、求めていない溺愛が始まった  作者: 雨宮羽那
第1章

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3/6

3・お飾り妻計画順調です!


 私の最大の任務は、クイン様の視界に入らないこと。すなわち、空気となり存在を消すことである。

 そのため、私は警戒を決して怠らなかった。


 クイン様は、公爵でありながら国王の政治補佐官としてお忙しい方だ。

 朝早くに出かけ、夜遅くに帰宅される。

 だが時折、書類の確認などで昼間に屋敷へ戻られることがある。

 そんな時、私は彼の視界に一瞬たりとも入ってはならない。

 ただでさえクイン様は『嫌われ公爵』なんて呼ばれて、常に周囲の人間と戦っているようなお方だ。余計なストレスを与えたくはない。

 それに、クイン様の不興を買って離婚を申し出られでもしたら私は実家送り。せっかく手に入れた快適な引きこもり生活は没収となってしまう。

 それだけはなんとしても避けねばならない。


「奥様! クイン様がお戻りです!」


 ノエラさんのそんな叫びを合図にして、私は日々気配を消すことに努めていた。

 廊下を歩いている最中にクイン様の足音が聞こえれば、素早く近くの物陰に隠れて息を殺す。

 庭園を眺めている時にクイン様が戻ってきたら、植木に紛れてやり過ごす。

 そして今日の私は……、書庫の本棚の間をすり抜けるようにして、クイン様の視界から逃げていた。

 

 (私は空気……! 私は本……!)


 心頭滅却。私は必死で気配を殺す。

 目当ての本があるのか、クイン様はつかつかと書棚の間を進んでいる。

 私は彼の視界に入らないように、棚の影に隠れながら足音を潜め移動していく。

 やがて目的の本を見つけたのか、クイン様が足を止める気配がした。


 (ほ……。助かった)


 本の背に手を当てたまま、私は心の中で安堵の息を漏らす。

 するとほぼ同時、本棚を挟んだ反対側からクイン様のため息が聞こえてきた。


「……メリッサ」


 ぽつりと。クイン様の口から囁きのように私の名前がこぼれ落ちて、どきりと心臓が跳ね上がる。


 (こんなに気配を消してるのにバレた……!?)


「お前は今……何をしているんだろうか。俺は……、なぜこんなにも……気にしているんだろうな」


 (……バレては、いないみたい?)


 独り言のように続けられたクイン様の言葉に、ほっと胸を撫で下ろす。


 (でも、なんで私みたいなただの一般人のことを気にされているのかしら?)


 私は確実に、クイン様の言いつけを守っているはずだ。お心を煩わせてなどいないはず。

 それなのに、どうして彼はさみしげな声音をしているのだろう?


「ダメだな、俺は。……早く、仕事に戻らねば」


 クイン様は自嘲(じちょう)するように呟くと、また歩き始めた。もと来た道を戻っていくように、足音が遠のいていく。


 (危なかった……)


 クイン様の足音が書庫から完全に消えたのを確認し、私はそっと息を吐き出した。

 実家で生活していた頃に培(つちか)われた気配を消す術だが、今後はクイン様のためにももっと鍛えていく必要がありそうだ。


 (さて、それじゃあ私の目的をっと)

 

 そもそも私が書庫まで来たのは、お目当ての小説があったからだった。まさか、そこへクイン様がやってくるとは思わなかったけれど。

 兎にも角にも危機は去った。

 読みたかった数冊の本を抱えて私も書庫を出る。

 クイン様と鉢合わせてしまう前に、さっさと自室へ戻ってしまおう。


 (早く部屋に戻って、美味しいおやつを食べながら本が読みたいわ……!)

 

 などと考えながら、うきうきとした足取りで廊下を歩いていた、その時だった。


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