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ロキは散り、ジグルドは花開く  作者: 胡椒
ロキとジグルドは散る
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第4話 「世界に祝福されし英雄」

――一瞬だった。


ただ一瞬だけ首元が熱くなって、そして散った……


***


何かがおかしい、あの瞬間俺は死んだはずだ。なのになんでこんなにも心地いいんだ……?


まさかこれが地獄だとでも言うのだろうか。それはまるで、今までに感じたことのないくらいに、まるで何か大きな、大きな何かに祝福されているかのような、そんな感覚だった。


先刻までの罵声が全く聞こえない。スイは自覚する。自分は死んだのだと、何も持たざる男として最後は民衆からの罵声を浴びながら、醜く散っていったのだと。


「そうだとしたらここは一体……」


辺りは一面真っ白の、何もない虚空だった。虚空と呼ぶしかないような場所だった。


ただ一つ、一つだけスイに疑問が生じた。


「ここは地獄なのか……?」


そう、普通であれば自身が行くべきであった場所、それがあまりにもぬるく、居心地のいいものだから混乱する。


まさか、そうでないとするのならここは一体……


何も分からない、何もできない、ただ、心地よい。


青年は答えを求めた。ここが何なのか、この場所には自分以外に人がいないのか、一体ここで自分はどうなるのか。


青年は答えを求め、進み始めた。何もない場所を、ただひたすらに答えを求めて。


一歩、また一歩と――


一歩を踏みしめながら思う。一歩を踏みしめながら考える。一歩、また一歩と答えなどない問いに答えを探す。


思えば後悔ばかりの人生だった。生まれてこなければ、と何度も思った。その度に手を取ってくれる人がいて、でもそんな善人も自分と関わったせいで消えていく。


誓いも、約束も、何一つ守れなかった。


憎い、何もできなかった自分が憎い……。


親に捨てられ、愛してくれた親を亡くし、大切な彼女は守れず、最後には自身でずっと寄り添っていてくれた親友さえ手にかけた。


憎悪が、嫌悪が、憤怒が、嫉妬が、スイの脳を焼き尽くさんとする。


だから――


「俺は嫌いだ、大嫌いだ……。俺は俺が、何もできない癖にタラレバばっか言う俺が、大嫌いだ……。」


――私はあなたに出会えてよかった。あなたとの出会いが、生活が、そして他愛のない毎日が、今の私を形作ったんですもの


「俺じゃなければよかった、俺じゃなけりゃ君を……『英雄』だったなら君を……!」


「おやおや、一度犯した過ちをもう一度、繰り返す気かい?」


「――!?」


唐突の声に反応が遅れる。まるで懐かしいような、そして自身を憐れむような声……振り返ってもそこはただの虚空、何もない場所で誰かがスイを憐れんでいる。


「誰なんだ……誰なんだよ!何がわかるってんだ!お前に、何がっ!俺は俺が憎い、後悔とかそんなの死ぬ程してきた!お前は一体……お前に何が……」


その声は、ただスイを憐れんで、そうして消えていった。


「教えてくれよ……何が間違ってたんだよ……。なんで……、なんで皆、いなくなっていったんだよ……」


虚空の中スイは叫んだ、散々嘆いて、そして憐れまれ、足を止めた。


――間違ってた……


スイは自覚する。


――この世界に生まれてきたことも、大切を作ったことも、俺が俺として生きてきたことも……


存在意義も存在価値も何もない自分が、何もかも全てが


――間違っていたんだ……。


何度も聞いてきた自身を再び立ち上がらせる声も、どんな時もそばに寄り添っていた顔も、なにもかも全てが消えていく。


膝をつき、頭を抱え、虚空に向けて叫び続けた青年は、そうして虚空から生まれた一筋の光に呑まれた。


そこで青年の意識は途絶えた。虚空の世界とともに消えていく。消えていく……消えていく、消えていく、きえていく……きえて


「また駄目だったか……」


最後に、その虚空に取り残された者の小さく落胆するような声を聞きながら……


***


外が明るい、なんて心地のいい一日の始まりだろうか。


「あら、起きちゃった?」


そう言いながら赤毛の女性はそっと小さなその体をかかえ、豊満な胸の方へとその子供を抱き寄せた。


まだ歯も生えそろっていないその子供は思う。


――ここは一体……


「おはよう、アス。生まれてきてくれて本当にありがとう……。」


涙を流しながら女は生まれてきて間もない赤子に感謝を伝えた。


どこか見覚えのある声と表情、だがなぜか思い出せない。


ただ直感で理解する。


周囲には自身の誕生を祝う者、卓には豪華な料理が置かれ、小鳥はこちらへさえずりを届けに来てくれたかのように窓の外で鳴いている。


■■は自覚する。


――僕は今、祝福されているのか……


それは■■にとって初めて、世界から祝福を受けた瞬間だった。

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