第16話 「家に帰ろう」
少年は手に一つの髪飾りを持って家へと帰った。
腐ったような魔獣の血の独特な臭いを感じながら、その髪飾りを優しく持ち、街行く人々から嫌悪されながら、母と父の待つ家へと一人、帰って行った。
「スイの声が聞こえなくなった……。」
それは少し前のことっだった。
森を抜けるとき、アスはスイに聞きたかったことを山ほど聞こうとしていた。
しかし、その時から一切の反応がなくなったのだ。
これがもし仮に彼が依然言っていた、何者かの仕業だとすると、早急にその者の正体を突き止めなければならない。
「スイと会話できないとなると困ることが多いですし、それにもし、そいつが僕たちと友好な関係を築けそうにないなら、早急に排除しなくては今後の動きにも支障が出ますからね。」
考え込んでいると一人の男にぶつかった。
「あ、すみませんっ!」
見上げるととても大きく、鍛えられているのが服の上からでもわかるような筋肉の持ち主だった。
「ん?お前、どっかで見たような……」
早急に立ち去ろうとするアスを、その声が引き留める。
「僕はあなたに見覚えがございませんが……」
「お前、もしかしてだが”異能”持ちか?なんか妙な気配だぜ、」
異能、それはこの世界のどんなルールも技術も全てを凌駕するとされた能力。
しかし、その全貌を知る者はこの世に一人としていないとされている。
一人の凡人でもその力を授かることにより一国を任されたこともあるとかないとか、
「で、なんで僕が異能持ちだと?」
顔を隠した大男、怪しげな風貌と口調にアスも警戒する。
「ああ、そうかお前は今度の……」
男の言葉、それはまさしくアスを知ったような発言の数々だった。
そして先刻のまるで異能持ちと確信したかの様な発言、それはまるで……
「もしかしてあなたは異能持ちですか?」
鎌をかけるつもりで言ったアスの一言、それが大男の反応で確信に変わった。
男は頭を掻きながらため息を溢すと少し間を開けてそのまま立ち去っていく。
「待ってください!あなたは一体……、そもそもなぜ僕にお声掛けを?」
「そのうちわかる。」
男はそれだけ言うとそのまま消え去った。
「あっという間に……、」
男は意味の分からないことばかり言っていた。
そのどれもが胡散臭く、しかしながらどれも信憑性は高いものだった。
一つを除いては――
***
「『英雄』アス・フェルムンドは異能を持たず、『英雄』となった。」
そう言ったのは他でもない、スイであった。
虚空の世界でただ一人、誰よりも未来の自身を知る男がそう言っていた。
「そもそも異能ってのはそれほど便利なもんでもねえよ。いつ、どんな力が、どんな人間に与えられるか、それはどれだけの人間が様々な手を使ってもわからなかったことだ。」
スイは虚空の世界でそう言っていた。
「だとしても、僕に異能がない理由にはならないはず……、そもそも異能なしで『英雄』になることなんて可能なんですか?」
「確かに、歴代英雄で異能なしの人間は居なかった。でもお前は史上初の異能を持たない『英雄』になったんだ。」
それはスイの知る限りの情報ではあったが信憑性は高い。
なんせスイは未来のアスを知っている。
だからこそ、何を信じればいいのかわからなかった。
***
「結局、スイはあれから一度も起きてくれないまま家に着いてしまいましたね。」
あらためて見てもやはりフェルムンド邸というのは他の建物と比べてもかなり大きいことがわかる。
それくらい『英雄』という存在は大きいのだろうとアスは思った。
「ただいま帰りました……。」
疲れ果て、今にも倒れそうなアス。
そこに大きな足跡が近づいてくるのを感じた。
「「アスっ!」」
いきなりの衝撃に、一瞬何が起きたのかわからずにいる。
ただ、確かなぬくもりをその身に受け、アスは目を閉じた。




