第14話 「神は努力を嘲笑う」
この世界で最もセンスが問われるとされているのは剣術だとスイは言う。
「当たり前だがそいつの筋力、経験なんてものは必要不可欠だ。今のお前にはあまりおすすめはしない。」
それがまだ四歳というアスに向けて発せられた言葉だった。
だがスイはこうも思う。
もし、仮にそのセンスがあり得ないレベルで高い、次期『英雄』クラスのアスもそれに当てはまるのか、と。
「試してみる価値はあるか……。」
虚空の世界、そこで最後にアスがスイから教わったのは今までの自身の努力の結晶とも言える剣術の数々だった。
教わった、とは聞こえはいいがただスイのこれまでの戦いの追体験をしたに過ぎない。
常人であればその程度で剣術を扱えるようにはならないだろう。
それどころか、剣の扱い方すら理解できるか怪しい。
ただもし、万が一、アスがそうでないのであれば、アスがもし本物なのだとすれば……
スイは今まで見た剣士の中で一番強いと思ったのは『剣王』リューズ・グレイだと言う。
「それじゃあ未来の僕は、あまり強くないのでしょうか……?」
そんな問いかけをしたアスにスイは「馬鹿か、」と一蹴。
「そもそも未来のお前は強いとかそう次元じゃなかったんだよ。」
「……ん?」
その言葉の意味、スイの真意にアスは首を傾げた。
「強い、弱い以前にお前とは勝負にすらなんねーよ。」
スイの言葉の真意とは一体――
***
獰猛な爪と牙がアスに襲い掛かる。
一撃でも貰ったらひとたまりもないであろう攻撃を、避けて、避けて、避けた。
「まさか初めての実践がこんな理不尽だとはっ!シイナの言葉を借りるといわゆる”くそげー”ってやつでしょうかっ!」
そう言うアスは木の枝を剣にみたてスイに教わった通りの構えを取る。
再び襲い掛かてくる爪をその枝の芯で捉えた。
「まずいっ!」
アスの辺りには折れた木の枝が山積みになっており、一本、また一本と枝が積み重なっていく。
「このままじゃまずいですね……。木の枝も残り少ないっ、!」
避けて避けて避けた先、避けられない攻撃が来た瞬間に木の枝で受ける。
それももうかれこれ10分は続けていた。
反撃の糸口が見つからないまま、一本、また一本と枝は消費され、そのたびに新しい枝を攻撃の隙間隙間で拾い上げる。
「このままじゃ防戦一方、ですけどっ!」
その時、アスの頭にはある考えが浮かんだ。
「もしこれが失敗すれば僕もスイと一緒にお陀仏でしょうか、!」
その時、熊王の動きが止まる。
アスの少しの小細工、それが熊王の反応を鈍らせた。
「ここまでは想定内っ!」
その瞬間、アスは拾い上げた石に魔力を込め、そして魔獣めがけて投げた。
「ありゃっ!?」
しかしそれは当たることなく魔獣の横を通り過ぎていった。
「ガアァァァァッ!」
魔獣は雄たけびと共に石の投擲と共にその石の行方を追った。
「捕った!」
その一瞬こそがアスの狙いであった。
魔獣が背を向けたその瞬間、アスは再び構える。
スイはこんなことを言っていた。
――出会った中で一番強かったのはやっぱ『剣王』だ。が、出会った中で一番理不尽だったのはお前だよ。
その瞬間、アスは宙を駆けた。
まるで宙に足場があるかの如く不自然なまでの挙動をみせ、そしてその巨体の首を一刀両断した。
『やっぱ敵わねーよ。剣術に関して言えばお前はもうすでに俺を超しちまってる。』
そんな悔しそうな声がアスの頭に響いた。
「当たり前じゃないですか。だって僕は……、」
死ぬような思いを何度もした。
何度も危ない場面があった。
戦いの最中、シイナのことを考えたりもした。
何度も折れかけながらもついにアスは成し遂げたのだった。
そんなアスは微笑みながら言った。
「僕は、英雄なんですからっ……」
散々辛い目にあった。
だが堪えた。
彼の前では絶対出してはいけないような、そんな気がしたから……
『おめでとう、英雄。』
どこか嬉しそうな声に胸に手を当て返事を返した。
――スイ、あなたが僕の中にいてくれて本当に良かった……。これからも僕の事、たくさん教えてくださいね……?
どこか異様な胸騒ぎがしながらも、アスはその場から立ち去った。
首の断裂された魔獣と、血で汚れた木の枝を置いて……




