敵の正体
時間を止められる敵を倒す方法………止まった時の世界に入門なんてことはできない。攻撃はもちろん避けられる。なら、元から相手の体についているものならどうだ?小鬼のように頭を弾けさせられるかもしれない。
「わざわざ時間が動きだしてから攻撃してくれるその優しさに免じて、一撃で殺してやるよ」
対象の唾液を操り、弾けさせる魔法。相手の体液を操る性質上、避けることは不可能。ハルはそう考えていた。
しかし、クロノには通用しなかった。
「当たらないよ、それ。さっき見たから」青
本来、物質を操るには触れて魔力を流す必要がある。
ハルは、対象に向けて魔力を飛ばすことによって遠隔での操作を可能にしていた。つまり、飛ばされた魔力を避けられれば操れない。クロノはその魔力を避けていたのだ。
それを知らないハルは、同じ魔法を何度も繰り返す。
「あのさぁ!それはもう見たって言ってるでしょ!?」青
スパッ
ハルの右腕が切り落とされた。
腕から流れ出た血液がクロノの全身に付着する。クロノは、いつの間にか帯刀していた刀を抜いていた。
「アハハハ!大袈裟だなぁ」青
クロノは腕を押さえて悶えているハルの姿を見て、楽しそうに笑っていた。
圧倒的強者の立場、目の前にいる者たちの生殺与奪の権を自身が握っていることの優越感に浸っているのだ。
「さて、次はどっちがやられたい?なんなら二人同時でも構わないよ」青
クロノは残された二人の元へ不適な笑みを浮かべながら歩みを進める。
「おい、俺はまだ死んでねぇぞ」
「おとなしくしていればいいものを……バカなの?」青
「それ」
ハルは、クロノの体に付着した自身の血液を指差した。
「まさか、この程度で勝ったつもりなわけ?」赤
「自分が一番よくわかってるだろ?勝ったつもりじゃないって」
クロノは飛んでくる魔力を避けていた。それは、クロノの体液にハルの魔力が流れていないため飛ばされる魔力だった。
当たり前だが、ハルの血液にはハルの魔力が流れている。つまり、魔力を飛ばす必要がないのだ。
自身の体に付着した血液を完全に取り除く術はない。
この瞬間、クロノの敗北が確定した。
「まだだ!僕になにかしたらこいつを殺す!」青
クロノが目をつけたのは、気絶しているアランだった。
「いいよ」
「は?」青
「殺していいよ、そいつ。そいつが死んだらお前を殺すだけだし」
クロノは困惑していた。仲間を人質に取られている人間が、人質を殺していいと言うはずないと思っていたからだ。
「仲間なんだろ?助けろよ!」青
「そいつ仲間じゃないから殺していいよ」
「ッッ!!ならこいつはどうだ!」青
次にクロノは折れていた腕の痛みに苦しんでいるトウヤを人質にした。
「こっちは仲間だろ!殺されたくなかったら言うことを聞け!」青
「無理でしょ」
「え?」青
「お前はトウヤを殺せない。人質だからじゃなくて、『勇者』だから」
「なっ!?」青
クロノは気づく。へし折ったはずのトウヤの腕が元に戻っている上、切り落としたはずのハルの腕もくっついていることに。
「なんで腕があるんだよ!さっき僕が切り落としただろ!」青
「気になる?いいよ、教えてあげる。と言っても、血液を操ってくっつけただけなんだけどね」
「ありえない」青
「ありえるさ。勇者だもん」
砕けた骨がすぐに元に戻る程の治癒力があれば腕をくっつけるのは簡単だった。
切断面を向かい合わせた状態て引っ付けて、自身の血液を操りその間を無理やり循環させる。それだけで、切れた腕も元通り。勇者の力とは便利なものだ。
「もうわかっただろ?お前は詰んでるんだよ。わかったらおとなしく誰からの刺客で何故殺したいのか言え」
「……言わない」青
「あっそ、じゃあ死ね」
もちろん殺す気などなかった。少し怪我をさせるつもりで魔法を使おうとした時だった。
目の前に和服を身にまとった女性が現れた。
「誰だ?あんた」
「私が誰かなど重要ではないでしょう?」青
「そこのチビの仲間ってことでいいの?」
「ええ」青
どうやらクロノの仲間らしい。殺されそうなクロノを助けに来たといったところだろう。
「それで?あんたら結局何者なわけ?」
「我々は『四条院一族』。勇者の末裔です」青
勇者の末裔?俺達より前に召喚された奴の子孫ということか。何故命を狙われるのか本当に心あたりがない。
「帰りますよ、クロノ」青
「まだ聞きたいことが山程あるんだから返すわけねぇだろうが」
「邪魔をしないで下さい」青
「なっ!」
気づけば体が地面に突っ伏していた。一瞬だった。上から押し潰されるかのように全身に圧力がかかっていた。
「なんだよ、これ!」
「お別れの時間です橘晴生きていればまた逢えるでしょう」青
二人の姿が目の前から消えた。クロノの攻撃と同じように、音もなく、一瞬にして、気づいたときにはいなかった。




