生かされた者達
「いいから行け!!」
「…………わかった」
自分達を逃がすために友人が1人で囮になった。逃がされた3人は、全員が同じことを思っていた。
『自分のせいだ』と。
小鬼の接近を音で、匂いで、地面から伝わる振動で気づいていれば………。自分達が、油断していなければ……と。
全員が一心不乱に走っていた。会話はない。ただ、はっ、はっと呼吸音が聞こえるだけだ。気がつけば、目の前に城壁が見えた。すぐに門番へと駆け寄る。
「助けてくれ!友達が小鬼に!」
「小鬼に?ありえないだろ」
必死なナツキとは裏腹に、門番はそれを嘲笑うかのように言い放つ。それもそのはず、この世界において小鬼は、弱い魔物の象徴。ド〇クエのスライムのようなものだ。
この門番では話にならない。そう思ったシュウは、この街ドラントルの冒険者協会へ向かった。
バァン
勢いよく協会の扉を開け、シュウは大声で呼びかける。
「助けてくれ!!友人が小鬼に殺されそうなんだ!!」
協会内が笑い声に包まれる。小鬼は最弱の魔物と揶揄されることもあるほどに弱い存在。人間が負けるわけないと思っているのだ。
トウヤは、ある男を探していた。この街に来て初めて会った人間、身分証もなく無一文の自分達の話を親身になって聞き、冒険者協会の紹介状まで書いてくれた男―――モランだ。
「モラン!!!」
「お前は確か……トウヤだったな!どうした?」
「協会の依頼で薬草採集に行って、それで小鬼に囲まれてっ!ハルが囮に………!」
「………すぐに行くぞ。案内しろ」
トウヤは涙ながらに訴える。それを聞いたモランは、真剣な面持ちで案内を促す。他の人間が聞いたら、ありえないと一蹴するであろう言葉を、モランは受け入れたのだ。
「こっちだ」
ハルの匂いをたどってナツキが案内する。ハルの匂いをたどっていくうちに、血の匂いが濃くなっていることにに気づいたナツキは、ハルの死を覚悟していた。
「アハハハハハハハハ!!!!!」
戻ってきたナツキ達の目に写ったのは、首のない小鬼達の死体と共に血溜まりに横たわって高笑いしているハルの姿だった。
「大丈夫……そうだな?」
「あ、ああ。多分………」
「あっ!!」
ハルがこちらに気づいた。先ほどまでの狂気に満ちた顔から一変して、その顔は喜びに満ちていた。
その時ハルの脳内を支配していたのは、生きて再び親友に会えたことへの喜びと、助けが来たことによる安堵だった。
「ハル!!大丈夫か?」青
「大丈夫だよ」
トウヤはハルに駆け寄りそのまま抱きつく。小鬼に蹂躙されていたときに何度も求めた友人の姿、肌から伝わるその温もり。緊張の糸が切れたのか、ハルの頬を涙がつたう。
「あれ?……おかしいな……大丈夫なはずなのに……涙が……止まらないや……」
「…………」
トウヤは何も言わずに抱きしめる力を強める。その時、ハルの中で抑えていたなにかが決壊した。
「うわーーーーーん!!!!!」
ハルが子供のように泣きじゃくる。
「怖かった」「痛かった」と、嗚咽混じりに泣きながら起こったことをポツポツと話始める。
モランはハルの話を信じることができなかった。最弱の魔物である小鬼に、それほどまでに痛めつけられる人間がいるはずがない。それに、ハルの身体は無傷のうえ、周りには小鬼達の死体がある。
ならば何故、ハルの心はこれほどまでに壊れてしまったのか。ハルの話が真実ならば、小鬼の評価を改めなければならない。
「立てるか?」青
「無理」
即答だった。それもそのはず、ハルの手足は先ほどまで砕けていた。見た目がもとに戻ったからといって砕けていた事実が消えるわけではない。ハルの身体には、今も打撲や骨折の痛みが残っている。
「ならおぶってやるからさ、帰ろうぜ!」青
「ああ」
シュウがハルをおぶって帰路につく。そして、そのままモランを含めた全員が冒険者協会へと向かった。




