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依頼、そして覚醒

『薬草採集』読んで字のごとく薬草を採って来るだけの依頼のように思えるが、似たような見た目の別の植物などがあって、意外と難しい依頼だ。だが、ナツキは犬並の嗅覚を持っている。匂いをたどれば、すぐに見つかるかもしれない。


「エリス草を1人あたり5つ納品して頂きます。1週間以内に納品されない場合、仮登録は取り消しとなりますのでお気をつけ下さい。」青

「エリス草がどんなものなのか知らないので、実物を一つもらうことってできますか?」

「……できますよ。すぐに持ってまいりますので、少々お待ちください。」青


凄く変な目で見られた。エリス草というのはそれだけ有名な薬草なのだろう。実物は手に入った。かなり特徴的な匂いのする植物のようだ。すぐに20本集めて、ライセンスを取得するとしよう。


「匂いで薬草の場所分かりそう?」

「もちろん、余裕よ余裕」青


街に着くまでに通った森に来た。木々が生い茂り、見通しが悪い。こんな森の中で視覚に頼らずに、周りの状況が把握できるというのは羨ましいものだ。


「見つけた」青


森の中で薬草を匂いで探すのは、難しいと思っていたが、特徴的な匂いのおかげだろうかすぐに見つかった。


「少し多めに採って帰ろうぜ。買い取りとかあるかもしれないし」

「もう、野宿はこりごりだ」青


そんな会話をしていた時だった。



ザッ


近くで足音がした。本来であれば、ハル以外の全員が接近に気づけるはずだ。油断していた。薬草を見つけ、野宿をする必要がなくなり、人並みの生活を送れるようになることへの喜びで、油断していた。


足音の主は、小鬼(ゴブリン)だ。尖った耳、緑色の肌、身長は幼稚園児程度。単体であれば、一般人である俺達でも勝てただろう。だが、囲まれている。両手の指では到底収まらない数の小鬼。逃げるしかない。


「逃げるぞ」

「え?」青

「いいから!!逃げるんだよ!!急げ!!」


逃げ道など無かった。前後左右全てに小鬼がいる。()()が囮になるしかない。一時の迷いも無かった。今この場において、足手まといはハルだ。『親友(とも)のために死ねるなら光栄だ』ハルはそう思っていた。


「……お前ら先に行け」

「はぁ?何言ってんだよ。無理に決まって……」青

「いいから行け!!」

「…………わかった」赤


ナツキ達を逃がすために、目の前の小鬼へ蹴りを入れる。体格差のおかげもあってか、小鬼への蹴りは有効だ。『勝てるかもしれない』そんな考えがハルの脳内によぎる。その時だった。



ガンッッ



鈍い音が響いた。それと同時に、ハルの後頭部に鋭い痛みが走った。頭を殴られたのだ。小鬼達は倒れたハルを仰向けにし、両手でなければ持ち上げられない程に大きな石をその身体に振り下ろす。


ガンッッ ガンッッ ガンッッ


一度は友人のために死のうと思っていたハルだったが、死に直面したときに、ハルの脳内を支配していたのは、死への恐怖だった。


(怖い。怖い怖い怖い怖い怖い怖い痛い痛い痛い痛い痛い―――死にたくない)


死にたくないと願ったからだろうか、それとも勇者だからだろうか。()()()()()砕けていたはずの骨がもとに戻っている。


もとに戻った骨は、その都度小鬼達に砕かれる。何度も、何度も繰り返される。そうしていくうちにハルの生への執着は、死への願望に変わっていた。


(死にたい。死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい―――死ねない)


死ぬことも、気を失うこともできない。手足は常に砕かれている。このまま、助けが来るまでこの地獄を味わい続けるのか?―――耐えられない。自力で抜け出せるのなら、それが一番だ。


手足を使うことはできない。しかし、ここは剣と魔法の世界だ。魔法を使えばなんとかなるかもしれない。ハルの魔法適性は闇と水。闇魔法は影を少し動かす程度だし、水魔法は水玉を生み出す程度。どちらも初心者だ。


0を1にすることと1を100にすることの難易度は段違いだ。無から生み出した場合は水玉を作る程度だが、元からある水を操る場合、話は別だ。元からある水―――『唾液』だ。


小鬼達は、必死に生へとしがみつくハルの姿を嘲笑っていた。そのため、ハルの目には嫌でも小鬼の唾液が写っていた。だが、それが功を奏した。



パァン パァン パァン



ハルを嘲笑っていた小鬼達の頭が弾ける。小鬼達の口内の唾液を四方八方に全力て飛び散らせたのだ。魔力を使えるはずのない王宮内で魔法を発動させるほどの魔力で操られた『唾液』。小鬼達に耐えられるはずがない。


「終わった………?」


手足に痛みは残っているため、立ち上がることはできない。小鬼とハル、両者の血が混ざり合ってできた血溜まりに、小鬼の首無し死体と共に寝転ぶハル。はたから見れば異常な光景だ。だが、ハルの心は地獄が終わったことによる開放感に包まれていた。

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