初めての街
森に入ってから三日経った。魔法で生み出した水で何とか持ちこたえているが、腹が減った。森に自生している植物を食べることはできない。毒の可能性があるからだ。動物もいないわけじゃない。鹿や猪、おそらく魔物であろう巨大な鳥、動物といっていいのか分からないが、小鬼もいた。だが、こちらはただの一般人、素手で獣に勝てるわけがない。
「見えた、街だ」
「マジで?よかった、助かった」青
「よし、服を脱ぐぞ」
「は?」
俺達の今の格好は、日本にいた頃の制服のまま。このファンタジーの世界で日本の制服は目立つ。それに、全裸の状態で盗賊に身ぐるみ剥がされたとでも言えば、身分証が無くても怪しまれないだろう。
「さて、行くか」
やはり魔物が存在するからだろうか、街は城壁に囲まれ、さらにその周りを堀が囲んでいる。たしか、城郭都市というんだったか。正面には橋がかかり、その上には門番もいる。
「た、助けてくれ!」
「どうしたんだお前たち。それに何故、服を着ていない?」青
「森で盗賊に襲われたんだ!服も荷物も身分証も全部持っていかれた!」
「そうか……災難だったな」青
門番は目の前の若者達に憐れみの目を向けている。当たり前だ、盗賊に襲われ、服すらも奪われたのだ、命があるだけ幸運だと思った方がいい。
「ところで、お前たち名前は?」青
「俺の名前は、橘晴だ」
「!?お貴族様でしたか!申し訳ございません!ハル家という家名を存じ上げないのですが新興貴族の方でしたか?」青
「え?」
門番は、酷く驚いた様子だ。だが何故だ?名を名乗るだけで貴族と判断された。考えられる可能性は一つ―――平民には姓がない。
「……すまない。俺達は異国の出でな、この国のことをよく知らないんだ。この国では、姓は貴族だけのものだったか?」
「あ、ああ。この国では、平民に姓はない」青
やはり、この国では、平民に姓が無い。だとしたら、姓があるだけで目立つし、今みたいに誤解も招く。なら、ただのハルとして生きよう。
「じゃあ、俺はハルだ。ただのハル」
「オレはナツキ」
「……シュウ」
「……トウヤだ」
「そうか………俺はモランだ!よろしくな!ハル、ナツキ、シュウ、それにトウヤ!ようこそ!ドラントルへ!」青
モランに城壁の中の小さな部屋へ案内される。盗賊の人数や何処で襲われたかを聞かれた。全員が同じ部屋に案内されたので、口裏を合わせて乗り切った。
「身分証が欲しいんだが、この国だとどうすればいいんだ?」
「それなら、冒険者協会に行くといい!協会の発行している冒険者ライセンスなら、国家間の移動も楽になるしな!すぐに紹介状を書いてやる!」青
トントン拍子で進みすぎじゃないか?ついさっき会ったばかりの若者にここまでするのは、何か裏があると邪推してしまうが、オーラの色は青。嘘をついていない証拠だ。バカなのかお人好しなのか、どちらにしろ好都合だ。
『冒険者協会』
国から完全に独立した組織であり、世界各国にその支部がある。この世界に存在する全ての冒険者が所属しており、冒険者に対する依頼は、協会を介しておこなう。冒険者は、魔物の討伐や薬草採集、護衛任務など、広く請け負っているため、協会を敵に回せば国が滅ぶと言われる程である。
モランに道を聞いて、俺達はこの街の冒険者協会に来ていた。王都に近い都市だからだろうか、この街の協会は想像よりも大きく、煌びやかな建物だった。
「ようこそ!冒険者協会へ!ご要件は何でしょうか?」
受付嬢は、耳の尖った美しい女性―――エルフだ。元の世界では、神話上の種族だった。そんな存在が今、目の前にいる。世界一美しい種族と言われるだけあって、とても美しい。つい見惚れてしまった。
「……?どうかなさいましたか?」青
「………ああ、失礼。冒険者登録したいのですが」
「承知致しました。紹介状などはお持ちでしょうか?」青
「あります」
「!?只今確認してまいりますので少々お待ちください!」青
そう言うと受付嬢は、驚いた様子でどこかへ走って行った。紹介状を渡しただけであの慌てよう………もしかしてモランのおっさんって凄い人なのか?
「大変お待たせ致しました。確認が済みましたので、冒険者登録に移ります。登録費が掛かりますが、お持ちでしょうか?」青
「今無一文なんですけど、なんとかなりますか?」
「承知致しました。でしたら、仮登録を行った後、協会からの依頼を一つ無償で受けて頂きます。」青
どうやら、金がないなら無償で依頼を受けなければならないらしい。薬草の採集依頼。こちらには、犬並の嗅覚を持った奴がいる。簡単な依頼だ。今夜泊まる宿もないんだ、さっさと依頼を済ませよう。




