第16話 面倒事
「それで?その子は誰で、何故ここにいるのかな?」
百歩譲って、町の子供を勝手に連れ込んでいるだけなら、まだ許せた。
だが、目の前にいる女の子は獣人の上、痩せ細っていて、身に纏っているのは布切れ同然の服。見たことない俺でもわかる。
『奴隷』だ。
妖精の森で遭遇した獣人狩りは、獣人を奴隷にするために行われていた。
彼らの雇い主を探してもいいとは言ったが、まさか初日からおそらく被害者であろう子供を見つけてくるとは………。
「町にいる間は雇い主を探していいって言ったじゃん」青
「その子と出会った経緯を聞いてんだけど?」
「それは………」青
「しゃーない、本人に直接聞くわ」
ナツキ達に会う前の話とかも気になるし、ちょっと酷かもしれないけど、本人の口から説明してもらおう。
「ここに来るまでの経緯を聞いてもいいかな?」
「あ、え、えっと………」青
ぐぅ~〜〜
獣人の女の子の腹が鳴った。
「あっ!いや……これは………ちがっ………!」青
顔を真っ赤にしてあたふたしてる。可愛い。
そういえば、この町に来てから何も食べてなかったな。
「話の前にご飯にしよっか!」
宿の中であのバカデカい猪を出すわけにもいかないのでわざわざ森まで出てきたのだが
「どうしよう………これ」
現代日本でのうのうと生きてきた俺達は、誰も猪の捌き方を知らない。
これが豚だったら、「もうこのまま丸焼きでよくね?」と言えたが、猪だとさすがに毛の処理くらいはしっかりしないといけない。
できることなら、ジャイアントボアの素材を買い取ってもらったりもしたいが、買い取りに出せるほど綺麗に解体できそうにない。
こんなことなら、協会に行った時に解体してもらえるか聞けばよかった。
「皮はボロボロになったけど、肉は無事だしいいよな!焼こうぜ!」
解体自体はできたのだが思った通り、素材として売れそうな皮や骨はボロボロ、間違いなく売ることはできないだろう。
だが、今回の目的は肉だ。
今は、予定通りジャイアントボアの肉を食べられることを喜ぶとしよう。
「ナツキ、火つけて」
「俺?やり方わかんないよ」青
「お前の精霊がなんとかしてくれるから、とりあえず精霊だして」
「うん」青
ナツキの影から大量の蝶が姿を現した。
見た目はエリザベスと同じように昆虫なのに、Gと蝶では雲泥の差だ。俺もあっちがよかった。
呼び出された蝶たちとナツキが向かい合って少しすると、一匹の蝶が薪に停まった。
その瞬間、蝶が激しく燃え、薪に火がついた。
今からでも俺の精霊あれにならないかな。
「よっしゃ!焼こうぜ!」
焼いた肉の見た目はただのちょっといいお肉にしか見えない。
何の味付けもしてないが、普通に美味そうだ。
先にあの子にあげよう。
美味いものを食べるのは小さい子が優先だと個人的に思う。
「お嬢さん。はい、あ〜ん」
「………」青
そりゃ口を開けてくれるわけないよな。
知らないやつからのあ〜んとか気持ち悪いもん。
「食べないの?」
「食べても………いいんですか?」青
は?食べていいに決まってるだろ?え?もしかして、口を開けなかったのって食べちゃいけないと思ってたから?
「もちろん!あんなに沢山のお肉はお兄さんたちだけじゃ食べ切れないからね!」
「で、でも………わたしは奴隷なんですよ………?」青
奴隷ってやっぱりクソだな。
こんな小さな女の子が美味しいお肉を食べることも許されないだと?今決めた、この町にいる獣人狩りの雇い主は絶対にしばく。面倒事とか関係ないわ。
「奴隷とか関係ないから。子供が遠慮しちゃいけないんだよ。はい、あ〜ん」
「あ、あ〜ん」青
恥ずかしそうに口を開けるこの子を見てると、元の世界にいる妹が小さかった頃を思い出すな。
あの頃はよくこうやって俺が食べさせてたっけ。
………懐かしいな。
「んーーーー!!!!!」青
ん゛か゛わ゛い゛い゛
パッチリとしたお目目を輝かせて、顔は喜びの表情。尻尾はブンブンと振られている。まるで、全身で美味しさを表現しているようだ。そんなに美味しいのかな?
小さな子供って存在するだけで癒しになる気がする。
だって、目の前の名前も知らない女の子が嬉しそうにお肉を頬張っている姿を見るだけで幸せ感じてるんだもん。
「さて、俺らも食べるとするかな」
そう言って肉を口にしたのだが………
「ん………?」
美味しくない。
いや、不味いわけじゃないのだが、何か物足りない。
肉の旨味は感じるのだが、スパイスやソースが欲しくなる。
今度、町でスパイスを探してみよう。
女の子のほうに目を向けると、相変わらず美味しそうに肉を頬張っている。
この程度では物足りない俺が贅沢と考えるべきか、この程度でも喜んでいる彼女がそれだけ貧しい生活を送ってきたと考えるべきか………。
「美味しいかい?」
「はい!!」青
「そりゃよかった」
これまでの経緯とか聞きたかったけど、今ここで彼女の笑顔を壊したくないからやめておこう。
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「起きてない?」
「ああ、ぐっすりと眠ってるよ」青
「それだけ疲れてたってことなのかねぇ」
宿に戻る途中で眠りについた女の子をベットに寝かせた。
本人に話を聞く前に、とりあえずナツキ達に彼女について聞いておいた方がいいだろう。
「さて、単刀直入に聞くぞ。あの子は誰だ?」
「さぁな、俺達も名前すら知らねぇ」青
「は?」
「適当に町をぶらついてたらあの子がガラの悪い男共に追われてたから助けただけだもん」青
俺の聞き間違いか?
今こいつら、ガラの悪い男共に追われてたから助けたって言ったよな?
奴隷の女の子を連れてくるどころか、その所有者であろう組織に喧嘩売ってない?
「つまりあれか?俺達は名前も知らねぇ追われる身のガキを匿ってるってことか?」
「まあ、そうなるな」青
「そうなるなって………」
ただでさえ国+四条院とかいうとんでもねえ奴らに追われてるのに、別の組織にも喧嘩を売った上、その原因となった子供の名前も知らない………か。最悪だ。
まぁ、助けちゃったもんは仕方ないか!
「とりあえず、あの子の服を買わないとだよな」
「服?」青
「あの格好のまま外を歩かせるわけにはいかないだろ?」
布切れ同然の服は誰がどう見ても奴隷とわかってしまう。
あの子を追っていた奴らに見つからない為にも変装は必要だ。
「つーわけでお前ら、明日朝イチであの子の服買いにいってこい。ワンピースかなかったらスカートのやつ。それと帽子も。あ、あの子は連れて行くなよ」
「服ぐらいは本人に選ばせてやれよ………」青
「今さっき言ったばかりだろ?あの格好で外を歩かせられない」
俺だって、できることなら彼女に好きな服を選ばせてあげたい。だが、あの子を追っていたのが誰かもわからない以上、服屋の店員すらも信用するわけにはいかない。
「くれぐれも、あの子が獣人だということは口にするなよ?」
「わかってるよ」青
「じゃ、俺は寝るから」
「あぁ、おやすみ」
さーて、俺もこの世界に来て初のベットに入るとするかな。
「おぉ~」
思わず声が漏れた。
この世界に来てから、寝るときは良くて葉っぱの上だった俺からすれば、柔らかいマットレスに枕と掛け布団まで付いているなんてまさに天国だ。
これまでまともに寝られなくて疲れが溜まっていたのか、すぐに意識を手放してしまった。




