妖精の森
次の目的地も決まったところで、俺達は制服を埋めた場所に来ていた。ここに何もなければ、四条院の奴らが持ち去ったことになる。
「ここで合ってるよな?」
「においが感じ取れないけど、記憶ではここだったはず」青
「においが無いならやっぱり違うんじゃない?」青
「四条院の奴らに持ってかれた可能性の方が高いだろうが」
俺達が街に入った門から出て右斜め前の茂み、そこから真っ直ぐ進んだところにある他より大きな木。この木の根元に埋めたはずだ。
「とりあえず掘ってみようぜ」
根元を掘ってみたが、何も出てこない。場所を間違えた?
ありえない。この世界に来てすぐに入った森、何日も歩いてようやく見つけた街、街に入るために脱いだ服を埋めるために全員が素手で穴を掘ったこと、この世界に来てから起きたことは全部覚えてる。
「無いな」
「やっぱり場所間違えたんじゃない?」青
「こんなデカい木が他にあるか?ないだろ」
「じゃあ………」青
「ああ、持ってかれてる」
四条院の女が俺のフルネームを知ってた理由は、やはり生徒手帳だった。それどころか、埋めたもの全てなくなっている。
制服も鞄もスマホも財布も全部持っていかれた。
財布や制服はまだいいが、スマホはマズい。もし圏外じゃなかったら、この剣と魔法の世界に銃とかそういう現代の武器が登場しかねない。悪用される前に取り返さないと。
「さて、確認も済んだところで妖精の森に向かうとするか!」
妖精の森は、東門からでたほうが早いらしいので、一旦街に戻ると、モランの奥さんに会った。
「あ!お姉さん!いいところに」
「ん?あ〜あんたらか!どうしたんだい?」青
「俺達、街を出るからさ!モランとアランによろしく言っといてくれ!」
奥さんから何故モランを知っているのかと聞かれたが、出会いの経緯はあまり自分の口から言いたくないので、適当に濁しておいた。
東門を出るときに、門番に妖精の森に行くと言ったら驚かれた。なんでも、妖精の森は道が一切整備されていない上に広くて、遭難者が後を絶えないらしい。
「これが、妖精の森か」
「見た感じは普通の森だな。道はないけど」青
「見た目は普通だけど、めちゃくちゃ花の匂いがするよ」青
ナツキは嘘をついていないようだが、花の匂いなんて一切しない。なんなら、花の一本も生えていないように見える。とりあえず森に入ろう。
『妖精の森』
その名の通り妖精の住む森で、道を作るための木々の伐採などを妖精達が邪魔するため、この森は一切開拓されていない。この森に入ると、妖精達に惑わされて二度と出られなくなるという噂がある。
「妖精の森っていうからにはやっぱり妖精が見れるのかねぇ」青
「さぁな」
「見れるわよ」
「は?」
女性の声がした。誰の声だ?俺達の他に誰かいるのか?いや、だったら誰かがきづいているはずだ。気づかれずに近づいた?四条院か?王の刺客か?
「誰だ、姿見せろよ」
「いいわよ、特別に見せてあげる」
目の前に生後1ヶ月の子猫くらいの大きさの女の子が現れた。小さいけど、姿形はまるで大人の女性のようだ。蝶のような羽根も生えてるし、おそらく妖精だろう。
「お前誰だよ」
「アタシはここの妖精達の王。妖精女王さ!」青
嘘はついてないようだが、こいつ以外に妖精なんて見てないし、なんか上から目線でムカつく。あと妖精女王って語呂悪くない?
「それで?何が目的なわけ?」
「あんた勇者でしょ?このアタシが契約してあげる!」青
「遠慮しときます」
「なんで!?」
何が契約してあげるだ、上から目線で物言いやがって。それに、なんで俺が勇者だって知ってるんだ?
「マジで契約しないでくれ。そいつの匂いキツすぎるから」青
ナツキが懇願するように言ってきた。俺は何も感じないが、ナツキ曰く「いろんな花の匂いが混ざり合ってて、香水がキツい人三十人集めたみたいな匂いがする」らしい。
「お前より親友の鼻の方が大事だから。ごめんね?」
「なんでよ!?契約しなさいよ契約!!」青
「契約したら二度と目の前姿を現さないでくれる?」
「やだ」青
「じゃあ無理」
なんでこんなに契約したがるんだ?俺が勇者だから?別に世界を救うわけでも国を救うわけでもないのに契約する理由なくない?
「早く契約してよ!契約契約!!」青
「わかった。契約はするけど俺達についてくるなよ?」
「当たり前でしょ。アタシは女王だからこの森を離れられないの」青
「それじゃ、アタシに名前つけてよ。それが契約になるから」青
名前か………適当に花とか虫の名前から取るか。そういえばこいつ、羽根生えてるし、割とウザイし羽虫でよくね?
「名前ね、じゃあ羽虫で!」
「いいわけないでしょ!!」青
「お前なんか光ってるぞ」
羽虫が急に光りだした。本当に何なのこれ?進化?進化するの?Bボタンとか押した方がいいかな。いや、虫だったら羽化か。
「あ゛ァァァ!!!」青
「どうした?急に叫び出して」
「契約………成立しちゃった………」青
「つまり?」
「アタシの名前、羽虫になっちゃった」青
さっきの光は、契約成立の合図らしい。契約もしたし、これでこのウザイ羽虫ともおさらばできる。
「まぁ契約は契約だもんな!じゃあな!」
「行かせるかーーー!今すぐ改名しろ!」青
「じゃあ、シルフだ。それなら文句ないだろ?」
「うん!よろしくね!ご主人!」青
普通に返事できるんだこいつ。シルフって種族名みたいなものだけど気に入ってるならいいか。契約って成立したらどんなメリットがあるんだろ、魔法が強くなるとかかな。
「きゃーーーーーー!!!」
何処からか叫び声が聞こえた。森の中で悲鳴となると、魔物か熊に襲われたとかかな。
「聞こえたか?」
「もちろん」青
「場所は?」
「正確な位置は分からないけど、向こう。そう遠くないはず」青
「急ぐぞ」
シュウに案内されて悲鳴が聞こえたところまで行くと、鎧を着た男たちが、獣耳が生えた人達を狩っていた。
「なんだ?あれ」
「あれは、獣人狩りね。人間共が獣人を奴隷にするために狩ってるのよ」青
「よし、見なかったことにしよう」
ドラントルでの酔っぱらいとは訳が違う。相手は本職の騎士の上、人数も多い。勝てるわけがない。このまま見て見ぬふりするのは、寝覚めが悪いが、そんなものより命のほうが大事だ。
「はぁ!?あんた勇者でしょ?正義の味方でしょ?助けてあげなさいよ!」青
「俺はただの異世界人だ。勇者になった覚えはない。だから助けない」
「最っ低!」青
正義なんてものは、個人の価値観やその時の状況などで姿を変える。俺の感情論で話せば、あの騎士達は悪だが、この国で奴隷や獣人狩りが合法なら、法的に見れば彼らが正義だ。
「あんたに正義感とかないわけ!?」青
「正義感で飯は食えねぇし、生きていけない。それに、獣人狩りが合法なら、法的に見てあいつらは何も悪いことをしてないぞ」
追いかけられている女の子と目が合った。
「助けて!!」青
できることなら助けたいが、俺は死にたくない。彼女には悪いが見なかったことにしよう。もしここで俺達が捕まれば、これまでの頑張りが全て無駄になる。
そのはずなのに、どうしょうもなく助けたいと思ってしまう。俺と目が合った少女、年齢は10歳くらいであろう赤の他人の少女の姿を愛する妹と重ねてしまった。
「おい」
「ん?ガキが何の用だ?迷子か?騎士様が助けてやろうか?」赤
気づいたら体が動いていた。考えるより先に体が動くとはこういうことなのだろう。目の前の人間が嘘をついていることから、俺を殺す気なのだとわかる。
「死ね」
パァン
騎士の頭が弾けた。頭のない死体が地面に倒れる。俺が殺した。自分の意思で、自分の力で、俺が殺したはずなのに、実感がわかない。
「貴様!何をした!」青
「お前ら全員死ねよ」
小鬼を殺した時、俺は初めて虫以外の命を自分の意思で奪った。クロノと対峙した時、俺は初めて人を殺そうとした。そんな経験があったからだろうか、初めて人を殺すはずなのに、殺しに抵抗がない。
「お前!我々を王国騎士団と知っての狼藉か!」赤
「知らねぇよ、死ね」
おそらく団長であろう男の頭を破裂させたら、他の騎士達が逃げていった。
「もう大丈夫だ、安心しろ」
「ひっ………」青
さっき俺と目が合った女の子が怯えている。目の前で人の頭が破裂したのだから当たり前だ。こういう反応をされるのは分かっていたが、やはりなにか心に刺さるものがある。悲しいが、これ以上に怯えさせない為にも早くこの場を去ろう。
「俺はもう行くから。じゃあね」
「あ、あの!」青
「なに?」
「あ、ありがとう………ございます……」青
怯えていたのに、しっかりと感謝を伝えられるとは、いい子だ。「ありがとう」この言葉のおかげで、殺人によって曇っていた心が少し晴れた気がする。
それにしても、あいつらは何故妖精の森まで獣人を狩りに来たんだ?王国騎士団だと嘘をつく理由もわからないし、もしかして奴隷も違法なんじゃ………。
「あの騎士共は何だったんだ?王国騎士団って言ってたけど」
「ありえません!この国では奴隷が表向きでは禁止されています!そのため、王国騎士団が出てくることはありません」青
奴隷が表向きでは禁止されているってことは、闇市とかがあって、国の上層部の奴らもそれを黙認してるってところか。
「何があったのか教えてもらえるか?」
「急に鎧を着た人たちが村にきて………それで………お父さんもお母さんも殺されて………うわぁぁぁぁん!!」青
さっきの少女が泣き出した。両親が目の前で殺されたらしい。獣人を奴隷にするために来たのに殺すなんて、なにか別の理由があってきたのか?どちらにしろ、こんな幼い子供から親を奪われて泣いているのを放っておきたくない。
「シルフ、命令だ。逃げた騎士共を一匹残らず生け捕りにしろ。誰一人として生きてこの森を出すことは許さん」




