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X.en.トリガー Limit.c_ 闇に裂く光  作者: そうのく


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語り合う


「なにやら外方区の様子が変だな」

「ああ。動向も把握できていない。なんでも妙な術士が出てきたようだぞ」 

 ざわざわと辺りから言葉が聞こえてくる。アヤメも同じようにその動向を追って資料を眺めていた。

「外が慌ただしいわね。また大きな騒動があったみたいだし」

「え、ええ……。そうね」

 しかし、アヤメの口調はどこか上の空だ。

「どうしたのアヤメ。なんだか必死に報告書を見てるけど」

「……。」

 親友が問い掛けるも、アヤメが見ていたのは隊員名簿だ。最近になって一人の術士が行方不明となった記録が残されていた。

そして、登録されているはずの術士名簿に、あるはずのチームメイトの名前が無い。

あるはずのチームメイトの名前が──。

「………。」

 アヤメは、報告書をまだじっと眺めたままだった。





 クシビは、王都から離れた外方区を渡り、区切られた広い土地の一つ一つを進んで行く。栄える王都の様子とは違い、荒んだ風景が広がっていく。

 木々や花も無く、土は汚れていて手に付けられない。そんな光景の中に、ポツリポツリと古びた建物があるだけだ。

 工場区の付近や、廃墟となった建物の近くには、薄汚い瘴気と魍魎の気配だけが漂っている。

「……。」

 ここにあるのは、無機質な機械達だけだ。統治されていない。

 地名の無い土地──。

 この世界は人だけのものではない、という教えを遵守し、クリーディア大陸には地名の無い土地が存在する。統治の行き届かないこの場所では、様々な場所から追われた者達が行き着く。清らかな精霊達が多く住む、クリーディア王都の安泰を求めて。

 だが、統治は僅かしか行き届かず、無法地帯と化している。

 そして、この地を統治するのは、無機質な機械達。

 工場で作り出された、無人機による──。

「………。」

 雇われた違法術士や、何かしらの罪を持つものが、法を逃れるようにこの地へと集まる。そして、食や安泰を求めた者達も。

 そんな場所を統治するのが、心を持たない、無機質な鉄の塊……。

「………。」

 クシビが移動を開始すると、その後を追って、同じように二人の人物が行動を開始する。

「監査対象が移動したわ。貴方も後を追って」

「なんだい。少し急いでいるのかな……」

 赤澄の子供と夕沈帳は、その急ぐような行動に注視する。まだ受けた傷も治りきってはいないはずだが、何か用事でもあるのだろうか――。

 クシビがその場所へ到着する。複数人の術士がいた痕跡がある。

「……。」

 そのまま、ゆっくりと辺りを調べていくクシビ。夕沈蝶と赤澄もその動向を注視する。

「う、相変わらず酷い瘴気だ……。」

 風に乗り、瘴気を含んだ公害の煙が宙にある。

 工場区の付近にあるこの外方区の一角では、辺りには充満する煙だけがある。

「さて……」

 夕沈蝶も同じように隣に現れた。クシビはある場所に来ると、静かにそこで立ち止まる。

「……。」

 静かに懐に手を忍ばせるクシビ。顔は俯かせ、目線を動かさないまま辺りに気を配る。

 複数の気配が、辺りに現れている。

 そのまま、調べ物をするように歩くクシビだが――。

 気配がして、すぐに刃を構える。

「今だっ! かかれ!」

 声が掛かると同時に戦闘が始まる。複数の違法術士が襲い掛かってくる。クシビも予期していたように応戦する。

「っ!!」

 銃弾が交錯する。背後や死角からの不意打ちは失敗に終わり、クシビの魔力弾が相手に命中する。そのまま銃で応戦するクシビだが、次第に刃を構えて違法術士へと向かっていく。

「まただ……。相手の手の内も見極めないまま、接近戦を仕掛けてる」

 その行動に目を疑う赤澄の子供。違法術士は、いざという時の為に奥の手は隠してある。如何に相手を欺いて倒せるかに重点を置くのが違法術士の戦いだ。

 それに対して、不用意に近接戦を挑むなんて――。

「……!」

 戦闘を続けるクシビ。違法術士の相手をしていく。状況は優勢だった。負傷した術士は戦うことはなく、そのまま撤退していく。

「駄目だ! 一度退け!」

 その合図と同時に、違法術士は撤退していく。戦力差で負けると分かれば、躊躇なく撤退を行う。

 クシビは黙ってその様子を見守るのだが――。

「うおおおっ!!」

 声を上げて一人の術士が襲い掛かる。

 それにクシビが応戦するが、いとも簡単に刃を弾き返す。

「くっ!」

 クシビを睨む術士。まだ顔立ちは若く、身なりも姿を隠そうとはしていない。優位なクシビに対して反撃を仕掛けるが、それも簡単に

あしらわれる。

 そのまま最後の一撃が振り下ろされるかと思っていた矢先――クシビは刃を止めた。

「なにを……?」

 その様子に、赤澄と夕沈蝶が目を見張る。

「ナルク・デイルだな。ここから手を引け。ここはお前のような奴が来る場所じゃない」

「どうして俺の名を知っている……!」

 そのナルクの質問に、クシビは答えない。

「ここは違法術士の巣窟だ。謀略と策略が蔓延る。お前がその中で生き残れるとは思えない」

「黙れ!!」

 ナルクから繰り出される刃だが、それはクシビに届く事はなかった。

「言っただろう。お前はここに居るべきじゃない。手を引け」

「……。」

 睨み合いが続く。そんなクシビとナルクを、二人が遠目に見ている。

「なんだい? あれ……。説得してるのかい?」

「そうみたいね……」

 笑みを浮かべる夕沈蝶。赤澄の子供は信じられない物を見ている気がしていた。

 敵となる術士を、説得し始めたのだ。

「まさか……」

 赤澄は目を疑う。自分を殺しに来た相手に説得が通じるつもりでいるのだろうか……。

「ふふ、それとも何かの魔法でも使うつもりなのかしらねえ……」

 そんなクシビを見ては、皮肉な笑みを浮かべる夕沈蝶。そんな奇跡のような魔法が、あれば、きっと世界は平和でいられたでしょうに……。

 そんな夢のような魔法があれば――。

「ふふ………。」

 自然と笑みが漏れていく夕沈蝶。やはり、あの男を見るのは、とても愉快だ。

 ろくに魔法も使えない違法術士が、どんな奇跡を起こそうと言うのか……。

「……。」

 藻掻き、足掻く……。蜘蛛の巣の上で……蜘蛛の糸に絡まれ、人形は踊っているだけだ。

 蝶のように羽ばたく事はできない。優雅に飛ぶ事も出来ない、哀れな存在。

「ふふ……。」

 ナルクが刃でさらに斬りかかるが、クシビはそれを全て防ぐ。

「そんな事をしても無駄だ。もう――」

「うるさい! 俺には使命があるんだ!」

 しかし、そこへ影が現れる。

「囲めっ!」

 背後に近付いていた違法術士が銃を構え発砲する。魔力の弾丸が勢い良く飛来し、それが僅かにクシビの体を掠める。

「っ!」

 再び戦闘を始めるクシビ。相手の違法術士達は、囲い込んだまま戦闘する。不意打ちに対応するも、勢いは相手に傾いていた。

「言わんこっちゃない──! 」

 不利な状況に傾き、赤澄は声を上げる。

「さっきの説得……にしては、あまりに口下手だ……」

 眉をひそめる赤澄。夕沈蝶は皮肉るように薄い笑みを浮かべるだけだ。

「それに、違法術士に説得なんて通じる訳がないのにね……」

 薄い笑みを浮かべたまま夕沈蝶は距離を取る。戦力差はある。一人で戦闘を続けていれば、それだけ消耗は確実に起こる。

 それなのに、あのような行動――。

「っ!!」

 違法術士の攻撃を受けるクシビ。反撃をしてはその応酬で、お互いに疲弊していく。

「……。」

 危険を顧みず、近接戦闘を仕掛けたまま、クシビは刃を振るっていた。

「そろそろ、まずいね……」

 異変に気付く赤澄。違法術士の一人が隠し手を出そうとしている。違法性の高い禁止武具が取り出されている。薬を散布させる爆薬が見えた。疲弊した所を仕留めるつもりだ。

「っ――!」

 しかし、クシビはそれを見越していたかのように刃でそれを薙ぎ払った。切り裂かれた爆薬は、地に落ちた後に二つに割れて不発に終わる。

「……。」

 それを見た赤澄は――どこか分かったような思いが胸に沸いた。脳裏に浮かんでいた疑問の念が取れたかのようだった。

「………そういうことか」

「どうしたの? なにか分かった?」

 突然そんな言葉を呟くので、驚いて夕沈蝶は尋ねる。

「話し合ってるんだ。刃で……」

「話し合う?」

 夕沈蝶は分からないと言う表情のままだ。

「これが彼のやり方なんだろうね……」

 だが、赤澄の目には確かな事実が見えた気がした。

「分かっちゃうんだろうね……。言葉を交わすよりも……」

 それで理解する赤澄の子供。そのヤタノハ・クシビの持つ刃を目に留める。

 無茶をした理由が理解できた。

 だが、理解は出来ても――納得はできない。

「一度刃を交えた方が……相手の事をより理解できる……」

 とても鋭利なその刃は、確かに鋭い輝きを放っている。

「話し合うよりも……刃を向け合う方が……」

 その手で傷付け合う方が、相手をより知る事ができる。

「なんて不器用な奴なんだ……」

 目を潜める赤澄の子供。これも才能なのだろう。魔術が使えないから、他の部分を秀でて生きてきた、この世界で生きる為の術。

 あの手は、信じられないほど器用だ。

「剣で語り合う、なんて言うけど……これは……」

 本当の殺し合い……。命を賭けた駆け引き。だけど、それでも相手をより理解できる――。

 命を懸ける、だからこそ……。追い込まれるからこそ、本性が見える。

「これじゃ……まるで呪いだな……」

 まるで呪いだと赤澄の子供は思った。

 相手を理解するために、剣を振るう。たとえ違法術士でも、無闇に切り裂いたりはしない。

 理解することをやめない。

 相手はこちらの事を何とも考えてすらいないのに……その相手にすら情を向ける。

「あら、いいじゃない。男は拳で語るって言うしね」

「っ………」

 そんな簡単な話ではない。命は一つ。

 本物の殺意を向け合う戦い。相手は喉元を食いちぎろうとしてくる獣だ。そうなったらもう……。

 次なんて事は無い。





 訓練では行っていた……。何度も……。過去にも実践の経験はあった。

 だけど普通の術士とは違う。獣鬼や魍霊の退治とは一線を画す。

 向けられる殺意。本物の。

 自分が目指していた場所とは、大きく異なる。

 本当の殺意は、不気味なほどに静かだった。あれほどにも殺伐としている場所のはずなのに……。

 慣れない戦場は、異様なほどに──穏やかだった。







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