八章二十三話 大森林探索5
用語説明w
ミィ
魚人女性、ラーズの騎士学園の同期であり、龍神皇国騎士団経済対策団のエース。戦闘能力はそこまで高くないが、経済的な観点で物事を考える。海の力を宿したオーシャンスライムのスーラが使役対象
セフィリア
龍神皇国騎士団の団長。金髪の龍神王と呼ばれる英雄騎士であり、序列二位の貴族。ラーズの恩人であり、雇い主でもある
ラングドン先生
ラーズやフィーナの騎士学園時代の恩師。ラーズに歴史の面白さを教え、大学に進むモチベーションを与えた。魔法使いの元騎士であり、考古学研究者の一面を持つ
気が付いたら、大森林に入ってから、そろそろ二十四時間が経っていた
そろそろ、新しい情報が欲しいなぁ…
「あ、セフィ姉からだよ。壁画の示す地点が絞れたって。それと、応援が向かったから合流してって」
助手席にいたピンクがPITを手に振り返る
「その人が来れば、壁画の地図が示す場所が分かるのかな?」
「…どうなんだろ」
バビロンさんは、バルドル教の神官の記録を読み続けている
フォウルは相変わらず肉に齧りついている
大森林の魔素入りの味がたまらないのだろろうか
フィーナは装具の練習と瞑想
ソロンとピンク、俺は簡単な剣術の稽古で時間を潰していた
「バビロンさん、少し休んだら?」
ミィが声をかける
ずっと、七十年前の記録を読み続けているバビロンさん
その集中力はさすがだ
「その助っ人が来るまで、ゆっくりしようぜ」
俺達は、交代で休憩を取った
時は一日戻る
ミィから送られてきた壁画の静止画を受け取ったセフィリアは、すぐにラングドン先生へと送信した
「…これは、完全に地図だね」
「ラングドン先生。以前、クレハナで発見された真実の眼の遺跡の壁画データを参考で送ります。これも今回の壁画と同様に地図で、別の場所の遺跡を示していました」
「分かった。それと、四千年前の地形データと発見された遺跡群の分布、当時の物流などの研究データが欲しいな」
「用意いたします」
オンラインで、ラングドン先生のサポートをするセフィリア
ミーノス地方の考古学を専門とするラングドン先生は、四千年前の終末戦争アポカリプスの時代のデータと壁画の地図を照らし合わせて行く
それから半日…
「場所は絞れた」
「さすが…、こんなに早く…」
セフィリアは、自分の恩師を過小評価していたと心の中で謝罪する
「この壁画が示す場所は、遺跡から北西に三十キロほど行った辺りだと思う。ただ、地図が曖昧過ぎて、それ以上の特定が難しいんだ」
ラングドン先生が困った顔をする
「心配いりませんわ。そこまで分かれば、後は適任者がいます」
「適任者?」
「ええ。いい結果を期待していてください」
セフィリアはそう言うと、電話をかけ始めた
「…動くな!」
見張りをしてくれていたソロンの声
俺達は外へと飛び出る
そこには、ダークエルフの女性が立っている
さわやかな笑顔に、茶色を基調とした民族衣装だろうか
つい、気を許してしまいそうな雰囲気を持っている
しかし、それはここが大森林でなければ、だ
世界中に点在する立入り制限地区
秘境とも呼ばれる、人類が詳細を知ることさえできないエリアの中でもトップクラスの危険度を持つ場所
ここに、たった一人で降り立つことの異常さに、俺達は警戒をする
「私はヒナテア。セフィリア様に言われて、お手伝いしに来たんです」
「…あなたが、狂笑」
ミィが、思わず口にする
「初めまして、クレジットクィーン」
ヒナテアが笑顔で手を振る
「知り合いか?」
「この人が、セフィ姉が寄こしてくれた助っ人みたいね。…クロノスの一人だよ」
「クロノス…」
セフィ姉が立ち上げた、対神の教団組織アイオーン
その意思決定機関がクロノスだ
セフィ姉が見つけた、優秀な人材が所属するという
こいつも、それだけの能力があるってことか
「さぁ、行きましょう」
ヒナテアが楽しそうに言う
腰には、大きなブーメランを携えている
一メートルはあるだろうか
「どこへ行くんだ?」
「セフィリア様から、指定された場所の近くにある遺跡を探せと言われています」
「あんたには、それができると?」
「もちろんです! 私はシャーマン、自然の声を聴く者ですから」
俺達は、徒歩で進んで行く
装甲車を守るため、周囲を警戒しながらだ
小一時間ほど進むと、なだらかな登りの傾斜になって来た
「なぁ、さっきから同じ場所を進んでる気がしないか?」
「あ、やっぱり。この木、見た気がしてたんだ」
俺とピンクが頷きあう
「あちゃー、うっかりしてました。精霊のいたずらですね」
ヒナテアが、軽いステップを踏む
すると、周囲の空気が変わっていく
「霊的な感覚が…」
フィーナが、周囲を見回す
「ここの森は魔素が濃いですからね。精霊たちが活発になることによって、第七感や第八感が狂うんです」
「…」
普通ならパニックになってもおかしくない
進んでるはずなのに、どこにも行けない
周囲の視界や音では異変に気が付けない
大森林は、モンスター以外にも危険があったのか
俺が騎士学園の初等部の頃
まだ十一、二歳だった時に、この大森林をさ迷った
フォウルと出会ったことといい、生きて帰れたことは本当に運がよかっただけだったんだな
ヒナテアが霊的な存在を散らしたことで、ようやく丘の上に出ることができた
「ここが指定された場所です。この付近に、皆さんの探している遺跡があるみたいですね」
「どうやって探すわけ?」
ミィが、周囲の森を見回す
ラングドン先生が、ここまで絞ってくれた
しかし、埋もれた遺跡を一から探すなど難易度が高すぎる
モンスターと出会う可能性だってある
「そのために私が呼ばれたんですよ」
ヒナテアがステップを踏み、軽やかに踊り出す
「な、なんだ…!?」
ヒナテアの魔力が高まっていく
「精霊魔法…、いえ…召喚?」
フィーナがヒナテアが発動している魔法を観察
ヒナテアの後ろに何かが顕現する
「女の人…?」
ソロンがつぶやく
ヒナテアの後ろに現れた者は、緑色の肌、深緑の髪を持つ人類の女性のような姿をしている
「彼女は精霊エイグリ。力を司る精霊です」
「力?」
魔法には大きく分けて三つのカテゴリーがある
一つ目がマナ魔法
人類が自分の魔力を使ったり、呪文紙や魔石を利用して発動する魔法のことだ
二つ目が精霊魔法
自然界に存在する、属性の偏った魔力と、それを司る精霊に力を借りる
例えば、火山地帯の火の精霊、海における水の精霊など
三つ目が召喚魔法
神や悪魔、召喚獣と呼ばれる大きな力を持つ第三者から力を借りる
神の奇跡による回復魔法である神聖魔法や、力を借りる存在の一部を呼び出す召喚魔法など、その方法や対象は様々だ
「…ヒナテアの精霊エイグリは、力学属性の魔力を司っているということか?」
「少し違います。エイグリが司るのは、力の流れです」
キィィーーーーーーーーン…
「う…!?」
甲高い音が襲う
エイグリが音を発したのだ
「蒼天竜…、あなたの可聴域は、普通の人よりも広いようですね。変異体なだけあります」
ヒナテアが振り返る
「ラー兄、私は何も聞こえなかったよ」
「ピンクはギガントタイプだからだろ。ドラゴンタイプは五感が鋭いんだ」
この音を発する作業が、何度も繰り返し行われていく
「…見つけたかもしれません」
ヒナテアが、今度は精霊エイグリに耳をすまさせている
「間違いありません。この先に、石造りの洞窟があるそうです」
「どうしてわかるの?」
木々がうっそうと茂っており、この先の視認は不可能だ
「精霊たちの声を聴きました」
「その精霊、なんでもでき過ぎれて怖いんだけど。力の流れって…」
「あら…」
ヒナテアの前に現れたのは、ゴア・ジャガー
肉食哺乳類型のモンスターだ
「グルルルルル…」
ゴア・ジャガーが唸る
「お友達になりましょ? 怖がらなくて大丈夫よ」
「お、おい!」
ヒナテアが無防備に手を差し出す
お前、指を食いちぎられるぞ!
「ガァァァ………!?」
案の定、襲い掛かったゴア・ジャガー
しかし、はるか上空に跳ね上がるように吹き飛んでいく
ヒナテアが、持っていた巨大ブーメランを目の前で回すと手を離す
風車のように、空中に制止して回転し続けている
ズバッッ
落ちて来たゴア・ジャガーの胴体が切断された
「お友達になれないって、悲しいですね…」
ヒナテアは、楽しそうに笑う
目の前には、モンスターの惨殺死体だ
「これが凶笑…」
「蒼天竜。そう言えば、あなたはセフィリア様のお気に入りでしたね」
「え?」
「少し、遊びましょう!」
ヒナテアが向き直る
その背後では、精霊エイグリが微笑んでいる
「…なっ、何っ!?」
身体を鷲掴みにされたような感覚
抑えつけられて動けない
「フォウル!」
「ガァァッ!」
エイグリに拘束された俺に変わりに、フォウルが突っ込む
その姿が大きくなる
「フォウル、やっぱり、いつでも大きくなれるようになったんだ!」
フィーナが驚く
巨大化し、ヒナテアへと牙を突き立てる
これが、封印が説かれたフォウルだぜ!
「くっ…!」
フォウルの巨大化に焦ったヒナテアが、精霊エイグリの力を発動
今度はフォウルを止める
当然、俺の拘束は緩む
ボッ…!
エアジェットで接近
ヒノキの棒を倉デバイスから引き出す
ガキィッ!
ヒナテアが、ブーメランで防いだ
「ほれ、お披露目だ」
俺は、秘蔵の隠し玉、鯉のぼり君を放り投げた
ヒナテア 閑話4 狂笑の精霊王とサイバーヴィーナス




