八章二十二話 大森林探索4
用語説明w
絆の腕輪
対象の一部を封印することでテレパス機能を作れるアクセサリー。思念でやり取りできるため、イメージや視覚情報の共有ができ、フォウルとの思念通話が可能。レガリアとして覚醒し、鯉のぼり君というアバターを作り出せるようになった
スサノヲ
見た目は赤ずきんをかぶった女の子。正体は、怪力の腕利き鍛冶職人で、ラーズの装備の作成者
データ
戦闘補助をこなすラーズの個人用AIで倉デバイスやドローンを制御。メイドソフトがインストールされ、主人の思考の把握が得意となった。
壁画に、カラクリ箱から出てきた欠片をはめる
完成したのは、間違いなく地図だ
この壁画の遺跡は、どこか別の遺跡を示しているのだ
しかし、当然ながら四千年前の地図がどこを示しているかなど分かるはずもない
ラングドン先生に地図の解読をお願いしている間、俺達はそれぞれに休憩を取っている
「ご主人! 報告だよ!」
「どうした、データ」
俺はデータのアバターに顔を向ける
PITから伸びた有線のサイコロみたいな形で、ヴァヴェルの中を通している
有線は、確実に情報をやり取りできるというメリットがある
「さっきのハヌマーンは、二つ名持ちの個体の可能性があるよ! ナナイル川流域近くで目撃されている、斉天大聖と呼ばれる個体だよ!」
「…やっぱり特異個体か。あの戦闘力は異常だった」
「うん…」
ピンクが、お腹をさする
まだ痛みがあるのか
「おし、これでいいかな」
後ろで黙々と作業をしていたスサノヲが顔を上げる
「お、どうだ?」
「組み立て終わった、これでいいはずだ」
スサノヲが外部稼働ユニットを見せてくる
首都ロディーヌで買った魔力動位センサーを取り付けた
更に、魔石などを設置し、小型の植物生育プラントも追加した
「ご主人! 今度のデータ2は、鯉のぼり君の動作統合の最適化を優先するよ! 人格は鯉のぼり君を優先する、動作補助プログラムの位置付けになるよ!」
「分かった。まずはまともに動けるようにならないとだもんな」
俺は、絆の腕輪に思念を送る
すると、蓄積された魔力を使って、鯉のぼり君が起動した
外部可動ユニットには、魔石が背中に、翡翠の欠片が尻尾に、それぞれ取り付けられた
これを依代として、絆の腕輪の魔力が接続される
依代
神霊や精霊が一時的に寄りつく対象物のこと
神社の鏡、寺の仏像などが有名で、自らを依り代として霊を降ろすイタコなどの降霊術もある
「アンデッドの力を魔石に、式神の霊体を翡翠に降ろすんだ」
スサノヲが説明する
「確かに、依代だな」
物質である外部可動ユニットに、アンデッドと式神の力を降ろす
「それと、魔力動位センサーも取り付けた。AIが絆の腕輪からの指令に合わせて動きを同期させるはずだ」
「なるほど」
どうやら、鯉のぼり君の本体は絆の腕輪
魔力を使ってアンデッドと式神の身体を動かしている
その動きを読み取って、外部可動ユニットにインストールされたデータ2がロボット部分の動きを同期させるという仕組みらしい
「…」
鯉のぼり君が、元データ2から流用したヘッドパーツを向ける
「動けるのか?」
「…!」
鯉のぼり君が頷く
「凄い、話ができてる」
フィーナがしゃがむ
「それと、この植物生育プラントだ」
「お、生えてきた」
背中からニョキニョキと伸びる蔦
サプミドが食べて、側に生えるようになった龍喰らいの木で、龍喰らいの実がなっている
「別に、この植物じゃなきゃダメってことじゃないみたいだぜ」
スサノヲが種を取り出した
「何の植物だ?」
「トリカブトだ」
「…いいな」
つまり、鯉のぼり君は毒が使える
龍喰らいの実やトリカブト由来の生体毒による弱体化
更に、旧データ2と同様の小型杖の撃ち逃げ作戦もできる
「よし…。行くか、鯉のぼり君」
「…」
鯉のぼり君が俺に付いてくる
「どこ行くんだよ、ラーズ」
スサノヲが立ち上がる
「夕飯を探してくる。鯉のぼり君の性能評価も兼ねて」
「時間はまだまだかかりそうだからいいけど、気をつけてよ」
「ミィ、だらけ過ぎだろ」
「ナイツオブラウンドに、ハヌマーンのネームド。ブリトン軍に…お腹いっぱいよ…」
「私も行く」
「フィー姉、私も」
ピンクが立ち上がった
「ダメだよ、ピンク。怪我したんだから休んでて」
「えー…」
「それじゃあ、ソロンを連れてくから、装甲車の見張りを頼むわ」
「…分かったよぉ」
ピンクがションボリ
そんなに一緒に行きたかったのか
・・・・・・
「お、いたぞ」
「ガウ」
フォウルがパタパタと飛んでいく
珍しくやる気だ
さすが大森林
少し歩くとモンスター遭遇した
モンスターの生息数は圧倒的
その理由は、大気に含まれる魔素の濃度だ
この魔素を植物を含む生物が吸収、生物濃縮が行われて、大森林の生物は例外なく濃い魔素を有している
モンスターは体内に魔石を持つ
これがモンスターと動物の決定的な違いであり、人類も魔石を持たないためモンスターではない
魔石はモンスターの生存に必要な器官である反面、魔素が無ければ生存に支障を来す
フォウルはモンスターの頂点の一つであるドラゴン
体内に魔石を持ち、生存には魔素が必要だ
そのため、モンスター由来の肉の缶詰を食べさせて魔素を摂取しているのだ
「フィーナは雲遁禁止な」
「分かってるよ」
「ラー兄、何やってるの?」
ソロンが聞いてくる
「ドラゴンエッグの練習だ」
俺は、特技で風を集めている
輪力を使って風を集め、魔力を使って風を操作する
これがドラゴンエッグだ
だが、騎士学園の頃は出来ていたのに、騎士に戻っても、それが出来なくなってしまった
仕方がないので、俺は装具に入れた遁術風の道を使ってドラゴンエッグを発動させている
「風の道を使わないの?」
「普段は使うけど、装具を破壊されてもドラゴンエッグを発動できるようにしておきたいんだ」
特技風の羽衣発動できる
つまり、ドラゴンエッグだって遁術無しでも発動できるはずなんだ
「せっかく使い勝手のいい遁術なんだから使えばいいのに」
フィーナが口を尖らせる
「ドラゴンエッグは、いつでも発動できないとダメなんだよ」
「私なんて、複合遁術のせいで、輪力が干渉しちゃうから他の遁術使えないし…雲遁自体も微妙だし…」
「ほら、来たぞ」
フォウルを追って、獲物が動き出した
巨大な豚で、背中に草が生えている
獰猛な、豚に似たモンスターでカマプアアと言う
カマプアア
ある島の神の名であり、美男子、豚、魚の姿を取るという
その影響を受けて、そのまま神の名で呼ばれるようになったモンスターだ
「ラー兄、どうする?」
「ソロンは防御優先で。鯉のぼり君をメインで動かしたい」
「分かった」
「フィーナは、合図するまで待ちで」
「うん。念のため…」
フィーナが補助魔法を発動
俺とソロン、鯉のぼり君にまとめて、防御魔法、硬化魔法を発動する
そうか、この補助魔法があれば使役対象を守ることができるのか
俺も覚えようかな…
「ピギュォォォ!」
「ソロン!」
フィーナが、追加で補助魔法
重力属性重量増大魔法だ
「鯉のぼり君、拘束魔法を」
「…!」
口を空けて、中に設置された小型杖を向ける
ズドォッ!
ソロンが牙の振り上げを受け止める
ボッ!
俺はホバーブーツでダッシュ
スライディングから、足をバトルナイフで斬りつける
「ご主人!拘束魔法の効果を確認だよ!」
「了解、次は睡眠の魔法弾を」
俺は、また突っ込む体勢を取ったカマプアアを観察する
「少し削るよ?」
フィーナが火属性投射魔法を発動
ボボォォォッ!
「ピギィィィッ!?」
火の玉が直撃
カマプアアがよろける
「しっ!」
ズドォッ!
ソロンがカマプアアの突進を止めながら、首の辺りを切り上げた
「ご主人! 睡眠の効果が出たよ!」
「攻撃ストップ! 寝たぞ!」
二人が攻撃を止める
カマプアアが、横に倒れ込んだ
「…パーティでモンスターハントって、楽だな」
「そう? 騎士ならパーティ組むのは当たり前でしょ」
「うん。騎士団では普通だよね」
フィーナとソロンが言う
「…俺、騎士団でまともにモンスターと戦ったの、何回あるんだろ」
モンスターの動きを止める壁役
補助魔法と攻撃魔法
俺一人では出来ない力が揃うと、ここまでコントロールできる
騎士とは、本来はモンスターから人類を守る戦力
対人戦闘に特化した隠密騎士ってのは、例外中の例外なのだ
「…」
気がつくと、鯉のぼり君が俺を見上げていた
「…ありがとな。小型杖が使えるなら、いい仕事ができる。期待してるよ」
「…!」
鯉のぼり君は、尻尾から伸びた式神の尾をブンブンと振った
とりあえず、戦闘補助はできることが分かったのはよかった
「…うまかったな」
「お腹いっぱい」
フィーナがお腹をポンポンする
カマプアアの肉を豪快に焼いた焼肉だ
「満足…」
「ふぅ…」
ピンクとソロンは、ビビるくらい食っていた
さすがはドラゴンの力を持つ竜闘士だ
あっちではミィとスサノヲが寝ている
完全に食い過ぎだ
「…よし、少し移動するぞ」
残った肉を運び込む
カマプアアの血や肉の臭いでモンスターがやってくる
さっさと離れよう
「ラー兄、フォウルがめっちゃ食べてるよ」
ソロンが面白そうに見ている
「俺と会う前は、大森林にいたわけだからな。懐かしい味なんじゃないか?」
「ガウ…ガフッ…」
フォウルは、自分と同じくらいの肉にかぶりついていた
でかくなれるようになったってことは、それだけ栄養がいるってことだろうしな




