八章二十一話 大森林探索3
用語説明w
クシュナ
龍神皇国の南方になる国。南に大国カルノデアがあり、どちらになびくかで国政が揺れている。観光や原油、天然ガス、立入り制限地区であるナバテア密林から取れるモンスター資源が有名。国民投票によって、龍神皇国への併合が決まった
ミィ
魚人女性、ラーズの騎士学園の同期であり、龍神皇国騎士団経済対策団のエース。戦闘能力はそこまで高くないが、経済的な観点で物事を考える。海の力を宿したオーシャンスライムのスーラが使役対象
フォウル
肩乗りサイズの雷竜、ラーズの使役対象。巨大化してサンダーブレスを一回だけ吐ける。不可逆の竜呪によって小竜にされていたが、本来は成竜であり、異世界で呪いが解かれた
「な、なんだぁ!?」
ペリノアが、突然、降り立ったドラゴンに動きを止める
「ド、ドラゴン…! 新手!?」
「待ってよ、ミィ姉。このドラゴンって…」
フィーナが言う
「…まさか、フォウルか?」
「グルル…」
ドラゴンが、そうだというように唸る
サンダーブレスの際に大きくなって見せる姿
それが、紛れもない、この姿だ
フォウルの視線は、目の前のハヌマーンから一瞬たりとも外さない
大森林では当たり前のことだ
「グゴッ…」
「あっ…」
「ちっ、サルが逃げやがった」
ペリノアが舌打ち
ハヌマーンが森の奥に走り去った
奴も手負いだ
想定外のドラゴンの出現に、撤退を選んだのか
…判断力がある
ペリノアは肩を負傷
俺もピンクやフィーナの容体が気になり、追跡は断念した
「さて、と…」
「…」
俺とペリノアが対峙する
「俺は、この鍵。お前らはカラクリ箱。お宝をかけて勝負と行くか」
ペリノアがバトルアックスを突きつけた
「…」
俺は、ブルールミナス…、ブルミナスを構える
ナイツオブラウンドの一人
ドラゴンナイト、ペリノア
こいつは強い
本気で行く
「ラー兄…!」
「ピンク、ソロンはフィーナ達を守れ。フィーナ、補助を頼む」
「おいおい、女に助けを求めんのか?」
「お前は邪魔なんだよ。気が付けって」
真髄を使う実力
そして、直線では俺に匹敵する速さ
ナイツオブラウンド…
このレベルが、あと十二人もいるってのか
しかも、マーリンもいる
手強過ぎる集団だ
「くくくっ…」
急に笑い出したのは、ペリノア
そして、無造作に俺に何かを投げて来た
「…何のつもりだ?」
「やってられねぇ。興味もねぇ遺跡を探させられるわ、クソ猿に襲われるわ。面白そうな、お前とのタイマンもできなさそうだしな」
ペリノアが、俺の後ろにいるフォウルをチラッと見る
投げて来たのは、装飾が施された鍵
カラクリ箱の鍵と言っていたものだ
「パスワードは、埋める者…らしいぜ」
「…なぜ、そんなことを教えるんだ?」
「代わりに、こいつらを見逃してもらう」
ペリノアが、俺達が拘束した教団の兵を示す
「マーリンはどうした?」
「別件の仕事だってよ。俺は、そのカラクリ箱とやらを手に入れろって任務だったんだ。だが、大森林の中ではリスクが大きすぎる。撤退するぜ」
「ねぇ。どうして、ブリトン当局までカラクリ箱を狙っているの?」
ミィが入ってくる
「マーリンの奴が情報を流したんだ。自国内に貴重な遺跡があるとなれば、他国に持っていかれないように必死に探すってよ」
「…」「…」
俺とミィが視線を合わせる
こいつ…、マジで口が軽い
なんでも教えてくれる
今のうちに聞けることを聞いちまえ…!
と、言う視線の示しだ
「そのパスワードと鍵は、一体どこで発見したんですか!?」
「うわっ!」
急に、バビロンさんが割り込んでくる
大森林の中なんだから、勝手に装甲車を降りるんじゃないよ
「知らん。マーリンが見つけて来たんだ」
「マーリンは、真実の眼の遺跡で、一体何を…」
「うるせー、俺はもう行くぜ。せいぜい頑張って遺跡とやらを探すんだな」
ドラゴンナイト・ペリノアが教団の兵士の拘束を解いていく
勝手に教えて来た情報
逃がす義理は無いが、こっちの目的はカラクリ箱を開けること
いなくなるなら好都合だ
「…本当に行っちゃった」
「まぁ、ラッキーだったけどさ。フォウルを警戒したのかもな」
俺とミィは、ペリノア達が去るのを見届けた
すると、フォウルがみるみる小さくなる
正直、助かった
負傷したピンクと雲を吹き散らかされて消耗したフィーナ
守りながらの戦闘はキツかった
「フォウル。お前、いつの間に大きくなれるようになったんだよ?」
「グルル…」
フォウルが唸る
だが、おそらく自分でも分かっていないのだろう
大森林の大気中の魔素のせいで活性化でもしているのだろうか?
なんにせよ、異世界イグドラシルで行った解呪ってやつは成功していたようだ
「う…」
「ピンク、大丈夫?」
フィーナが回復魔法を発動
さっきのハヌマーンの一撃で、頑強なピンクがダメージを受けた
やっぱり、奴は別格
大森林の豊富な魔素で、特異個体といえるレベルに育っている
「おーい、装甲車に入ってくれ。カラクリ箱が開いたってよ」
スサノヲが呼ぶ
「本当かよ!」
俺達は、車内に入る
バビロンさんが大興奮、痙攣して仰向けに倒れている
石板みたいなものを手で持って落とさないようにしていた
「スサノヲ、車を出して。その石板が発見されたって遺跡に行ってみましょ」
ミィが助手席に座る
カラクリ箱に入れられていた石板は、約七十年前にバルドル教の神官が、この大森林内で発見した遺跡の壁画の一部
それが本当なら、その遺跡に行って、壁画にはめれば、全体像が見られるはずだ
「分かった。出すぞー」
車が動き出す
「ラー兄、俺が外に出て警戒するよ」
ソロンが梯子に手をかける
「いや、俺が行く。魔属性装備のヴァヴェルは、敵に発見されにくい認識阻害効果があるから」
騎士が装甲車を守ることは必要だ
だが、人間の臭いによってモンスターを引き付けてしまう可能性もある
「分かった、ありがとう」
「ソロンも、ピンクと一緒に休んでいてくれ」
俺は、さぼろうとしていたフォウルを掴んで上へと登った
・・・・・・
龍神皇国中央区
騎士団本部 団長室
「お疲れ様」
「キリエさんも」
セフィリアとキリエが、二人でワインを開けた
つまり、何らかの仕事が終わったということだろう
団長室にはいるが、セフィリアは休暇を取った
つまり、今はプライベートの時間だ
「クシュナの件の引き継ぎは終わりました」
「カルノデアと繋がっていた政治家に企業。それと、貴族達もね」
「粛清には、予想通りの時間がかかりましたね」
「それでも、成果は出せた。関係のあった貴族や元老院たちの発言力も削れたし、成果は上々よ」
「クシュナ国民には一年間の猶予を与えて、龍神皇国民になるか、他国へ移住するかを選択させることになりました」
「一年後に、正式に龍神皇国に併合する。ま、予定通りね」
プルルル…
「ミィからですね、すみません」
セフィリアは、謝ってから電話に出る
「もしもし、セフィ姉?」
「進捗はどうかしら」
「お願いしたいことがあるの。ちょっと、行き詰っちゃった」
「何をすれば?」
「まず、ラングドン先生に連絡を取って、調査をお願いして」
…俺達は、石板の出処である、壁画のある遺跡へと無事にたどり着いた
崖の一部に穴を掘り、石を組上げて作られている明らかな人口施設だ
細い通路のようになっている入口から入ると、奥が部屋のように広くなっていた
その奥の壁全体が壁画となっていたのだ
石の壁をまっすぐに加工し、そこに彫り込まれた図柄は、七十年前の神官の言うように、地図のように見える
しかし、大きなひびが入り、真ん中に穴が開いてしまっている
図柄が欠けてしまっているのだ
その穴に、カラクリ箱から出てきた石板をはめ込むと、ぴたりと一致した
「ここまでぴったりだと、気持ちいいな…」
「見てください。ここに古代の文字が刻まれています」
バビロンさんが、壁画の右上を指す
「何て書いてあるんですか?」
「…埋める者、ですかね」
「ペリノアが言っていた、カラクリ箱のパスワードはこの壁画からだったのか」
俺達は、壁画の全体像を撮影して、その場を離れる
そして、装甲車で作戦会議し、セフィ姉に電話をしたというわけだ
「セフィ姉が、ラングドン先生に連絡してくれるって。壁画のデータも送ったよ」
ミィがPITを置く
「この壁画を見て、すぐにわかるものなのかな?」
フィーナが言う
「すぐというのは…。クレハナの遺跡でも同じように壁画に地図が描かれていましたが、示している場所の特定には時間がかかりましたよ」
バビロンさんが壁画の画像を調べている
「ラングドン先生ならブリトンの歴史にも詳しいと思うんだけけど、どうなんだろう」
ピンクが首を捻る
「セフィ姉が、調査の助っ人を呼んでくれるって言ってたけど…」
「誰だよ?」
「知らないわよ。待つしかないでしょ」
ミィが横になる
俺達は、やれることが無いので休憩となった
見張りは、ソロンがやってくれている
「そうだ、フィーナ」
「何?」
フィーナが振り返る
「本当に危ない場合は仕方ないけど、雲遁は禁止の方向で行こう」
「…そうだね」
雲遁のリスク
雲化した後に風などを受けて吹き散らされると死ぬ
ハヌマーンの平手一発で、雲化したフィーナが吹き散らかされそうになった
このリスクは無視できない
いつか、取り返しのつかないことになる
「ラーズの遁術はいいよね。風の道、使い勝手よさそうだし」
「いいけど、遁術に頼りっぱなしじゃダメだ。ナバテア密林では、装具を壊されてドラゴンエッグを発動できなくなったからな」
遁術は道具
無くても戦える技術が必要だ
バルドル教の神官 八章十七話 首都ロディーヌ1




