3章4‐2おまけ 面白い奴。
3章4-2の続き。
アイドル科校舎へ戻り2階へ上がったとこで、そこには何故か宮本がへたり込んでいた。横には刀が2本雑に置かれていて、それが現在の宮本のコンディションを表しているようだった。
……一体何があったのだろうか?
「どうしたんだ、何があった?」
「えっ……分かりませんか? 説明をしなきゃ分からないんですかっ?」
「本当にすまんかった」
そんな迫真な顔をしないでくれよ。まるで俺が悪いみたいじゃないか。
「すまんじゃ済みませんよ? でしたら分かっていますよね?」
「……ん? ああ、監督のことか。なもん勝手に会いにいけばいいじゃねぇか」
「ひ、一人じゃ怖いじゃないですか……」
「あーはいはい。じゃあ一緒に行ってやるよ」
「はいはいじゃないですよ、まったく……。柴崎先輩の前でとんだ醜態晒しちゃいましたよ」
柴崎? あー、演者として柴崎を意識するのは当然のことか。
「……なぁ、お前は柴崎をどう思ってるんだ?」
無意識に漏れた言葉。なんでそんなことを聞くのか。……まぁ、アイツのせいだろうな。
「なっ!? べっ、べつに……下心とかなんて、ないですからね!」
「なんだよ下心って……。なんかあるだろ、役者としてどうとか」
「え……あ、はい。そういうことですか。でしたら、初めからそう言ってくださいよ、もう……」
「それ以外何があるんだよ……」
「……そりゃもう、柴崎先輩は憧れの存在。高嶺の花のような存在です。演技だけに留まらず、高い歌唱力も持ち合わせていて、更にはファッションモデルやローカルのTVCMまでも、多様にそつなくこなしている――にぃも関わらずです。あの至高と呼べる演技。まるで着せ替え人形のように、与えられた役に完璧に染まりきるんです。あの境地にまでキャラに寄り添えるのは、高い想像力と理解があってこそです」
「急に早口になったな……。着せ替え人形か……的確な視点――」
と言い掛けたとこで、まだ話は終わってなかったようで。
「……でもですよ。でも、私なんかが意見するのは大変差し出がましいことだと思うんですが……あんなかわ……お可愛らしい人が、自分を殺すような演技をするのは勿体ないと思うんです。もっとその、お可愛さを前面に出す演技をした方が、その……嬉しいといいますか。あの人は特に笑顔が――」
「ふっ、ははっ……」
「なっ、なに笑ってるんですか?!」
「いや、すまん。別に馬鹿にしてる訳じゃないんだ。寧ろ、俺もその考えは間違ってないと思ってる」
「はい? なんですか急に。気持ち悪いです……」
「すまんて」
らしくなかったな。アイツのせいだ。
「あの……折角なので、私の方からもお聞きしたいことがあるんですが」
「なんだ?」
「その……キャラに寄り添う……。心を理解するって、優しくないとできないことだと思うんです。私の描く柴崎先輩の像と、実際の行動が一致しないんです。あの人がファンの人を悪く言うなんて……。先輩は何か知りませんか?」
「……さぁな。まぁでも、その現状も変わるかもしれないな」
「え、どういう意味ですか?」
「ほら、監督に会いたいんだろ。早く行くぞ」
「えぇ、ちょっと待ってくださいよ。まだ心の準備が――」
「そんな大した奴じゃねぇって……」
先に扉の前に立つ俺に、宮本も続く。刀を腰に差していたから遅れたようだ。……冷静に考えて、なんで女子高生が帯刀しているんだろうか。シュールでしかない。
まぁそんな真面目に考えるようなことじゃないので、さっさと扉をノックし中へ入る。
「失礼しまーす」
「し、しし、失礼します」
相当緊張しているようだ。人見知りさで言うなら、黄谷を越えるレベルだな。いや、黄谷も最初はそうだったのかもしれないが。
「あーん、なんだよコイツ」
「演技の道を行きたいそうで、監督に見てほしいんですって」
「ちょっ、私はただ見学とかさせて貰いたいだけで――」
こういった自分を売り込む場面で遠慮はよくない。積極的に行かなければ悔いが残るだけだ。自分からいけないなら、先輩が親切で手を貸してあげよう。決してこのおっさんの負担を増やしたいとか、そんなんじゃないんだからな。
「なんで俺がこんな奴――」
「理事長先生の頼みです」
勿論そんな頼みは聞いてないが、適当に口裏を合せといてくれるだろう。
「チッ……あのクソジジィが……」
「いや、ですから私は――」
「ほら、お前の力を見せてやれ!」
「私も見たいひょも~」
「だからその不愉快な喋り方やめろっつってんだろ」
「ひょもひょも~!」
「……わ、分かりました。そ、それではお願いします!」
「なんで見る流れになってんだよ……。てかなんで刀携えてんだよ……」
「わ、私、流創アイドル一年の宮本さつきと言います。リターン・ダイブ見てました」
「あー、いいから早くしろよ」
「で、では、修也の恋人役の美香という役を、や、やらせて頂きます」
「なに勝手に役作ってんだよ。借金持ちのギャンブル中毒に女なんてできる訳ねーだろうが」
見学だけとか言いながら、ちゃっかり用意は済ませていたようだ。
宮本はメモを見ながら何か呟いている。
「私は長包美香。私は…………」
自己暗示を終えたのか、メモを閉じ。
「――やっと見つけた。お前があのふざけたゲームを考えた元凶ですね?」
役に入った途端にガラリと風貌が変わる。こんな即座に人格を切り替えられるなんて、流石その道を志すだけあるな。
「知らねぇよ……。てか俺に振んなよ」
「とぼけるなっ!! 全部知ってるんです。お前が修也の命を奪ったッ!!」
「勝手にしたんだろうが」
「お前がそうさせたんだろっ!! 修也はやり直せたのに……絶対に許さない」
「無理だろ。ありゃどうしようもねークズだよ」
「黙れッ! もういい……。終わらせてあげます。お前が今ものうのうと生きていることに絶えられない。一秒でも早く終わるべき人間だ」
「お、おい……お前それレプリカだよな? なぁ!?」
懐から取り出された包丁。それがレプリカかどうかは存じえない。
「覚悟しろ……」
「ああ、もう分かったから。なぁ、おい? ……ちょっ、この馬鹿誰か止めろ」
普段の行いか誰も止めに入らない。ご愁傷様です。
宮本も役に入りきってるのか、本当に殺意に満ち溢れているように見える。
監督もそれを感じ取ったのか後退りする。
「絶対に逃がさない――」
逃走を察知した宮本はすぐさま駆け寄る。
監督はたまらず背中を見せ逃げ出すが、そこに宮本は腰に携えた二刀の内の短刀の方を床にスライドさせるように投げ、それを踏んだ監督は盛大に転ぶ。
宮本は監督の前に立ち、
「お前、ほんとにいい加減にしろよ……おいっ!」
「……すぅ……修也の仇。憎むべき仇。ッ――」
宮本は馬乗りになり、包丁を突き立てる。監督はその腕を抑え抵抗するが、
「なんでコイツこんな力強ぇんだよ……。おい槙島、お前助けろっつってんだろ!」
「監督。これで3度目ですよ。その経験からなんとかできるでしょう。もしものことがあっても財産は私が引き継ぎますから安心してください」
「槙島ァー!」
「抵抗なんてするな烏滸がましい! 黙って受け入れろッ!! お前に生きる資格なんてないッ!!」
宮本の力が強いのか、監督は徐々に押され、とうとう包丁の先端は胸元に到達するが、
「なんで刺さらないっ!? クソッ、なんでっ!」
刺さらないことに心底イラついているようだ。どうやら本気で没入していたらしい。
仕方ない。レプリカなら助けに入るか……。
「おいっ宮本、落ち着けっ!」
「誰だお前!? 私は……長包……」
「お前は宮本だろ。思い出せ」
とりあえず監督から引き剥がし正気に戻す。
「えっ、鹿誠先輩? なんで……あっ――うわあああああっ!」
☆
「すまなかったでござるな。役にのめり込み過ぎたでござる」
「ござるじゃねーよ。舐めてんのか? ぶっころすぞ」
取り乱す宮本を、自分は宮本武蔵だと言い聞かせ平静を取り戻させた訳だが、監督は何故かおこのようだ。
「で、宮本の演技はどうでしたか?」
「どうもしねぇよ。こんなクソ馬鹿売れる訳ねーだろうが! 言っただろ。演技力だなんて、売れてねー奴が売れてる奴を攻撃する為のものでしかねーんだってな。んなもんに時間使う暇あったら、どうすりゃ売れるかを考えやがれ。まぁお前は馬鹿だから無理だけどな。馬鹿だからなっ! あっ、でも流創ブランドでなんとかなんのかぁ~。最高だなぁ流創学園!」
相当おこなようだ。最後まで私念たっぷり。
「うぅ…………」
どうやらこの宮本武蔵はメンタルの方は弱かったようで元に戻っていた。
「そんな言い方ないひょも! さつきちゃんはとてもいい演技をしてたひょも。本気でハラハラさせられたひょも!」
そりゃハラハラはするわ。
「だからよぉ――」
「じゃあ、教えてください!」
「はぁ?」
「……私に魅力がないことなんて分かってます。でも、誰かである時なら自信があります。その部分を沢山の人に見てほしい……。そしていつか、大きな役をこなしたいです。できるだけ沢山。……見返したいんです。私のことを馬鹿にした人達を。……何より、今私は絶対に勝たなきゃいけないんです。ですから、お願いします。教えてください! 私を売り込む方法を」
……宮本さつき。ただのヘンテコだと思っていたが、目が変わったな。垣間見える一般的な人間との構造の違い。相当深い部分から掘り起こさないと発現しないようだが、流創学園にいるなりの素養はあるようだな。
少し興味が湧いてきたな。面白そうだ。……笑いの方の意味じゃなくてな。いや、そっちも面白いんだが。
「…………。へっ、だったらいい方法知ってるぜ」
「本当ですか!?」
「ああ。風呂営業つーんだけどな」
嫌な予感。
「風呂……?」
「俺の体験談なんだけどな、なんか事務所が全持ちで旅行組んでくれたんよ。自前の女付きでな。観光を楽しんだ後に行った旅館がなんと貸し切り温泉だった訳。で、その温泉に浸かってたらよぉ――」
「監督!!」
「へっへへ。まぁ後は分かんだろ……」
学生の前でなんて話してやがる。
「え……い、いや、それは流石に……」
宮本はそっちの耐性もなかったようで、顔を真っ赤にして俯いている。
「おら、丁度良さそうな男がいるじゃねーか。こいつで練習したらどうだ。使えんだろ」
「やですよ。狭いでしょ」
「ッ…………最ッ低ッですッ!!」
「いっだッ!?」
俺の頬に強烈な刺激が走る。一瞬何が起きたか理解できなかったが、俺は宮本にビンタされたようだ。完全に意識の外からだったので、一切の受け身を取れず腰にまでダメージが入っている。
――いや、なんで俺!?
「やっぱりアナタは敵ですッ!!」
そう叫んで走り去っていった。
「はっはっは。おもしれっ」
面白くねぇよ……。状況を理解するにつれ湧く怒り。このやるせない怒りをどこにぶつければいい?
本人にやり返すべきか? 走れば追い付けるかな。
「おう、ちょっと待てよ」
「なんですか……」
監督は馴れ馴れしくも俺に肩を組み耳打ちする。
「……なぁお前、角ノ兎の連絡先持ってね?」
「はい? 会話したことすらないです」
正確には1度だけあったが、ホールの機材壊した件で軽い説教をされた時であって、会話とカウントできるかも怪しい。まぁなんにせよ接点は無いに等しい。
「だったら今から聞いてきてくれよ。持ってきたら一万やる」
「いらないです。自分で聞けばいいじゃないですか」
「いやよぉ、俺じゃ厳しいんよ。……なんかよぉ、いいケツしてっから軽く引っぱだいだらよぉ、なんか避けられるようになっちまってよぉ……」
「なんかじゃなくて、それでしかないんですよ」
あの噂お前だったのかよ。どうりでガードの人が付いている訳だ。
「でよぁ、んなしょうもねーことのせいでアホみてーに叱られてよぉ、ギャラも馬鹿みたいに減らされるしよぉ。20万くらいのバッグまで貢がされたんだぜ。ぜってー元取ってやっかんな」
それで許されただけ有難いと思えよ。元を取ろうとするな。
この迷惑なオッサンをどう引き剥がすか考えていると、柴崎が近付いて来て。
「……監督。なんで嘘付いたの?」
「あぁ……なんのことだよ」
「さつきちゃんには才能がある。監督なら分かるでしょ」
「……別に嘘は言ってねぇだろ」
「自信無くしたらどうするの……?」
「あの程度で折れんなら端から向いてねーよ。早く教えてやっただけ感謝してほしいわな」
「……理事長先生に言う」
「ちっ……テメェまで。あー分かった分かったよ。まとめて見てやっから、言っとけ。どうせ暇だしな」
「アイツの演技、そんな凄いのか?」
「今のは変だったけど……これから」
「才能があるってやつか」
「……できるかは最初から分かる」
「そうなのか」
どうやら理解の及ばない次元の話なようなので、この話はもう止めにしよう。
宮本に少し興味が湧いたから聞いてみたが、やはり才能は持っているようだ。
――だが、それを踏まえてもやはり流創学園のアイドルだとは思えない。周りの奴が当たり前のように保有している物が欠落している。……何かがある。その点まで含めて興味が尽きない奴だ。
まぁ、それはそれとして。
「じゃあ俺が宮本に伝えてくるわ。それじゃあ――」
まだ間に合うかな。
ここで3章のあとがき的なものをさせてもらいます。
……いやぁ、ようやく3章が終わりましたねぇ。特にお話に触れるつもりはありませんが、一つだけ。
作中に出てきたチョコパイなんですが、そのお話を書いた後折角だし食べてみるか~、と購入して箱を開けてみたら、個包装に書いてある言葉が先の大事な場面に出てくるもので、まるで伏線を張ったみたいになってしまってビックリしました。そんな意図は無く、偶然によるものなんです。信じてください。
とまぁ雑談はここまでにして4章の予告を。4章は夏休み間のお話になります。内容は勿論、高咲考案のイベントがメインとなります。スポットライトの当たるキャラは無しとなり、色々なアイドルが出てくる章となります。それも2年に限らず、1年3年までも。特に3年は全員登場予定です。そして、1年マネージャーはあぶり出されるのか……。
乞うご期待を!! ……と言いたいとこですが、その前に怒涛の短編ラッシュが始まります。
魔女の心根の裏設定などを書いたブックレット、前にやると言って忘れてた緑沢の牛かつ食べにいくやつ、休日シリーズは赤宮、後は丑の日に鰻を食べるやつ、夏なのでカブトムシ取りにいくやつ、などなど他にもやるかもしれません。
という訳で4章はかなり先になりそうですが、これからもこの作品は止まらないのでよろしくお願いします!




