魔女の心根 後編。
「――セルコレス王国。いつもと代わりはないみたいだけど……」
『あら、いらっしゃい。キターニア姫』
「精神干渉……。わざわざお出迎えしてくれるなんて、そんなに待ち遠しかったの?」
『……勿論。待ちわびてたわ』
「だったら、刺客なんて送らないで、すぐ会いに来てくれたらよかったのに。感知できるんでしょ?」
『そりゃもう上客だもの。手厚くお迎えしてあげたいでしょ』
「よく言うよ……。で、どうしてほしいの?」
『城の屋上に来なさい。そこで待ってるから。この国の人間を人質に取ったりなんてしないから、すぐ来てネ。それじゃあ――』
「……なにか企んでる。でも、正面から戦ってくれるだけ有難いか。……精霊さん達、私が精霊術を扱うと知られてる以上、魔女は必ず手を打ってくる。私が守ってみせるけど、それでも完全に安全は保証できない。危険な戦いになっちゃう……。それでも一緒に戦ってくれる? ……うん。そうだよね。ここまで来たんだもん。それじゃあ、行こうか!」
☆
「――改めて、よく来たわね。キターニア姫」
「来たよ。取返しに。――魔女。オーベロン」
「……どこで知ったの、そんなの? 女に付ける名前じゃないわよね……。普通に魔女様でいいけど」
「嫌そうだね。だったらそっちで呼ぼうかな」
「名前なんてどうでもいい。好きにすれば」
「一応聞くけど、素直に返してくれないよね?」
「アナタのをくれるなら、いいわよ」
「うん。やっぱり、戦うしかないよね」
「戦いになると思ってんだ……」
「まだまだ隠してる力があるから、楽しみにしててよ」
「……いつもそう。負ける奴は。ただ見積もりができないだけ。もう飽きた」
「……精霊さん達。シバ―ミアちゃんの身体に傷を付けないように、精神面の方だけへの攻撃をする。例えば、私が構築した剣で斬れば、物理的なダメージを与えずに実際に斬られただけの痛みを感じる。出し惜しみはなし。どんな攻撃でも、生物だろうと実現してみせるから、とにかく強い攻撃を思い浮かべて」
「精霊。邪魔な存在よね。――消えて」
「させないよ」
「……やはり干渉対策はしてるか。この前の時もだけど、ちょっと知りすぎじゃないかしら。本当にどこで知ったの? 誰から?」
「千年だよ。挑めずとも、抗う意思は持ち続けてきたんだよ」
「返答になってないんだけど」
「お話する気がないんだよ。……おっ、きたきた。それじゃあ行くよ」
「そう。まぁどうでもいいわ。さっ、来るなら来なさい。ワタシをこの椅子から少しでも動かすことができたら、この身体、返してアゲル」
「わぁ、それは嬉しい提案だよ! だったらこの攻撃で終わりだね」
No.176 魔女を貫くまで絶対に追尾し続ける針、千本。
「精霊さん達の世界では、悪い人には針千本飲ませるんだって。……この針の山から逃げられる?」
「……そんなモノいくつ用意しても無駄。ワタシを指定する攻撃はオススメしないわ。何故なら、こうやって魂の形を少し変えるだけで機能しなくなるから」
「そっか。それじゃあ次」
No.15 ティラノザウルス。
「現れよ、ティラノザウルス! うわ~でっかいし、強そう! お願い、魔女をやっつけて」
「まぁ、かわいい。向こうの世界にはこんな生き物がいるのね。家畜にしたいかも。餌は人かしら?」
「まず自分が食べられないかの心配をしたら」
「へぇ、トカゲごとぎがワタシを食べようって? 弁えがないわねネ。じゃあいらな~い。後で焼いて食べようかしら。輪切りにでもしときましょ。――って、斬ったら消えちゃった」
「……私が構築したんだから食べられるわけないじゃん」
「ごっこ遊びに乗ってあげたんでしょ、冷たいわねぇ」
「へぇ~魔女にも遊び心なんてあるんだ。じゃあ次はこの子と遊んでもらおうかな」
No.39 巨大カブトムシ。
「何この変な形の虫は……?」
「カブトムシは、自分の体重の20倍の物を運べる力持ちなんだって。いくら魔女でもこの力には勝てないでしょ~?」
「あーはいはい。力比べしてほしいのね。いいわよ、来なさい」
「よーし、いけーカブトムシさん! ――って、つま先で止めたっ!?」
「へぇ~虫にしては大したパワーじゃない。その爪の踏ん張りが肝みたいね。面白い構造だわ。……でも、今は邪魔でしかないか、らっ、森に帰りなさい」
「蹴り飛ばされちゃった~。力まで凄いんだ……強化魔法だろうけど。それでも……。なら、こんなのはどう?」
No.2 絶対に砕けない鋼鉄の巨人。
「絶対に砕けないんだって。対処できる?」
「ちょっと……ワタシの国にそんなゴミ出さないでよ。誰が片付けると思ってんの? ワタシじゃないわよ~。――でも、差を示すには丁度いいわね。構築された概念が矛盾を生む時、より強い魔力が砕く。――絶対に砕く衝撃波」
「ッ! そんな……」
「アンタなんかがこのワタシを上回れるワケないでしょ。やる前から分かりなさいよ」
「やってみないと分からないことだってあるんだよ。魔法は試行錯誤が大事だからね。だから、どんどんいくよ!」
No.99 追尾ミサイル。
「相手を追ってくれるんだって。いっけー!」
「構造的に、物理的衝撃で爆発といったとこかしら。魔弾でもぶつけましょ――やっぱりね。……って、何これ。煙たいじゃない」
「うわ~防がれちゃったよ~そんな~」
「はぁ……猿でももっと上手く踊るわよ。目的はコッチでしょ――っ。これは、鉄の鉛?」
「えー、指で掴まれちゃった!?」
No.127 百発百中のスナイパー。
「どこから狙おうがワタシには関係ナイ。お返ししてあげる。うーん……さっきのといい、原子的すぎない? こんなの魔法で簡単に生み出せるのに、わざわざ手作り……もしかして、向こうの世界には魔法がないの? つまらなそ……って思ったけど、ないならないで、どう発展してったかは気になるかも。支配が楽しみネ」
「そんなこと絶対にさせない! まだまだこれから」
「懲りないわね……。それにしても、アイツの魔術。脅威じゃない。でも、明らかなアッチ寄りの力。なのに、染まりかけとはいえ、まだまだ到底その域には達してない。ワタシでも認識できるしね。いくら好きな物を構築できるとはいえ、やはり腑に落ちない……」
「なにぶつぶつ言ってるの? さぁ、続きを始めるよ」
No.7 悪しき心のみを凍結する吹雪。
「いくら魂の形を変えられても、汚れた心までは変えられないよね」
「その通り。魔力の色までは変えられない。――でも、滑稽よ。必死すぎて簡単なことが抜けてる。吹雪なら強風で吹き返すだけ」
「くうっ……、だったらこれで――」
No.179 精神のみに干渉する矢。
「成程。考えたわね。対象を絞ることで純度を上げて、殺傷力を引き上げた。――でも、言ったわよね。アンタの描く絶対なんて、ワタシの平静にすら届かない」
「手で取られた……。くっ、なら次は――」
「――もういい。理解したでしょ。及ばないって」
「まだ分かんないでしょ」
「分かるわ。精度が落ちてる。最初はワタシを倒す自信を持っていた。でも、次第に差を痛感して、それが術の精度にも反映されている」
「っ…………」
「意味の無いコトをする意味はない。折角の機会だし、ここは一つ魔法の大先輩が、一つ授業をしてアゲル」
「……いらないよそんなの」
「遠慮しないで。じゃ、始めるわよ。7つの大魔法。折り重なる光路は知ってるわよね?」
「……7種の大魔法を全て使いこなした者は、一級魔法つかいとなる。これってアナタが作った制度なの?」
「ご名答。質のイイ身体が欲しいからネ。階級って便利よねぇ。そんなしょうもない飾りの為に、必死こいて打ち込むのだもの。……勝手にね。手間の掛からない家畜は好きよ」
「……仕方ないよ。魔法は楽しいからね」
「楽しい……ネ。フッ、じゃあ話を戻すわね」
「いや、私全部できるからいいよ」
「聞きなさいって……。じゃ、これから魔女様直々に一つづつおさらいしてあげるから、生き延びてネ」
「っ……結局攻撃したいだけじゃん」
「まず1つ目。魔力を燃やす赤き炎――燦燦たる狂炎」
「防御魔法展開――」
「注いだ魔力に応じて火力を増すシンプルな炎。でも、取り扱いには注意が必要よ。性質上飛び火しやすいのよ――って言ってる側から。そういえば、この城には魔力の結界が張ってあったわね。消火しなきゃ。じゃあ、2つ目はコレ。炎を焼く青い炎――焦がれる信炎」
「やめてっ! 城が――」
「心配しなくてヘーキよ。ほら、丁度よく消え合ったでしょ。完璧な配分。流石はワタシ」
「……なにがしたいの?」
「これから分かるわよ。それより、まだ途中なんだから、ソレ解かないでよ。3つ目。選択の強制――不相の投写」
「防御魔法が勝手に!? ……これ展開してると動けなくて不便だからやめてよ」
「そういう風にしたからね」
「どういう……」
「……さて、折り返し。4つ目。魔力の重圧――壮観の負荷」
「――ぐっ、防御魔法越しでこの重さ……」
「自分まで巻き込まないようにするのが大変らしいわね。……あらあら、今ので天井が崩れて、神聖な場が瓦礫だらけになちゃったわね。綺麗にしましょうか。5つ目。駆ける豪風――吹き去りし静穏」
「瓦礫が街にっ――」
「それなら心配いらないわ。瓦礫なら風で粉砕して砂にしといたから」
「風で粉砕……!?」
「そんな驚くことかしら……? まぁ人間。それもそうか。折り重なる光路は、注がれる魔力、使い手の解釈で如何様にもなる。自分が大魔法にするの。故に質が浮き出る。だた大きいだけじゃダメ。もっと滑らかで、可憐に。当然にやってのける器量こそが魔法つかいに、ワタシが求めるモノ」
「ありがたいけど……どうしてわざわざそんなこと」
「残りはコレね。6つ目。己すら見失う魔の霧――散った展望」
「っ……凄い霧だけど、そんなんで汚れた心まで隠せると思うの?」
「やはり私を認識できるのね。それもアナタの力?」
「能力を使うまでもないよ。鏡見たことないの?」
「まったく、その虚勢もいつまで持つかしら……。そして、7つ目がその防御魔法――対岸の祝祭」
「……よく防いでくれるいい魔法だよね。防ぐ分だけ魔力を使うっていうのがお気に入りだよ」
「でしょ。特にこの折り重なる光路なんてよく防ぐでしょう?」
「試験で見る時に役立つからかな……」
「逸材の癖に鈍いわねぇ……。ソレはそもそも、防御魔法なんかじゃない。――“檻”よ」
「檻……? それになに、この凄い音は……」
「背けられない現実がスグそこに。じゃ、答え合わせの時間よ。霧も晴れたでしょう。吹き抜けになった天井を御覧なさい――」
「……紫の……雲」
「雲だなんていい比喩ね。確かにそうも見えるかも。でも違う。遮蔽物のない空で練るの。赤と青が混じって綺麗でしょう。この魔法は、ワタシが初めて編み出した大魔法……。人間にも教えてあげようと思ったんだケド。到底ムリだから、わざわざ7つに切り分けてあげたノ――」
「まさか……7つの魔法を組み合わせて……それを、ここに?」
「大丈夫よ。アンタなら自動展開される対岸の祝祭で耐え切れるから」
「私だけでいいでしょ。他の人を巻き込まないで!」
「ダメよ~。親友の国を守れず、打ちひしがれるアンタが見たいんだから~。だって、これは理由をナくす魔法なんだから」
「魔女ッ――」
「燃やし合う紫炎が降り注ぎ、魔の風に運ばれ広がりゆく。物の境界なんてない。冷淡なる燃焼――」
「落ちて……くる」
「枯れなさい。果てまで。――煌びやかな終焉」
「……………………。見せたくなかったんだけど、しょうがないよね。記憶をたどって。――」
「詠唱……? 何を……五月蠅くて聞こえなか――ッ!? うそ……でしょ……崩壊した!? この大魔法が……。おいっ、一体何をした?」
「ふぅ……上手くいったぁ……」
「おい、何をしたか聞いているだろ?」
「魔女なのに、分からないんだ……」
「これまでもお前の力なのか? ――っ! はっ、ハハ……。でも、完全に壊すのは無理だったみたいネ。炎自体を打ち消せなかった。降り注ぐわよ。このままじゃ甚大な被害が出ちゃうわネ。……さぁ、どうスル?」
「……対岸の祝祭で王国全体を包む」
「へぇ……そんな使い方もできるのね。考えたことも無かった。でぇ~。そ~れ~でぇ~、そんな魔力を使っちゃったらァ~」
「はぁ……はぁ……なんとか……防ぎ切った……」
「やるじゃな~い。ワタシが直々に褒めてあげる……。パチパチ。――で、アンタは魔力がもうスッカラカン。そんな状態で何ができるの? 一方の私は既に魔力が全開している」
「……魔力って、回復できるの?」
「ええ、ワタシだけはネ。魂に陰と陽を作るの。2つを重ねて、一方の魔力が減った時、擦り合いが起きて――って、そんな説明要らないでしょ……。御馳走を目前に、高揚してるのかしら」
「……嬉しそうだね。それもそうか。魔力が少ない程に乗っ取り易くなるしね」
「っ?! そこまで知ってるの……」
「それと、生きる執着が薄いと更に乗っ取り易くなる」
「……本当に、どうやって知った?」
「厄剥がしはアナタの魔術。能力は魂への干渉。魔力は魂から生成される。その応用で、相手の魔法へ魔力を干渉させて壊したり、魂と魂を干渉させて魔獣を造ったりしてる」
「聞いているだろ、答え――ッ、お前……なんで魔力が回復している? 空からの光? なんだそれは……」
「ズルいよ~。魔力を回復させる手段があることを隠してるなんてサ~。だったら私もするよ~。成程ネ。ローザさんが教えてくれた魔法。本当はこういう魔法だったんダ~。変だと思ってたんだ。――天道の漂白。本当の使い方できてなくてゴメンネ」
「時間稼ぎに情報を切り出したか。……ワタシにすら感知できない領域。至ったっていうの……。この土壇場で。いや、だからこそか……。同じ。あの時と。アイツと――」
「ほんと楽しいねェ~魔法って。あ~もっとアソビたい。封印解いちゃおっかナ~。……ねぇ、なんでみんなと仲良くできないの?」
「……不気味ね。アンタ」
「アナタだけには言われたくないよォ~」
「いいわ。だったら、塗り潰すだけ。より黒で――」
「ッ!? この感覚……あの時と」
「少しだけ見せてあげる。獄の極地を。伏しなさい―― 」
「――ッ! これはあの時の黒い波動。意識が……持ってかれる。魔力も練れない……。マズい……精霊さん達が」
「精霊、もとい、白は感知できない。でも、それ以外を感知できるからこそ、できる。コレでウザったい精霊共を蹴散らしたのよネェ~。コレを使うとさァ、奴ら顔を歪ませて、悲鳴を上げるの。……顔も口もないのにネ。楽しいわよ……。このまま滅したいとこだけど――これで終わりにしとくわ。アンタにまで沈まれると困るカラ」
「はぁ……はぁ……。精霊さん達、大丈夫? よかった。もう下がって。後は任せて。うん。大丈夫だから……」
「十分擦り減らせたわね。――じゃあ、仕上げに掛かるとしましょうか。……惜しいわ。この身体を手放すの。魔術こそ貧弱。でも、魔法の資質は過去一番と言っていい。とても良く馴染んだわ。勿体ないけど、コッチのがもっと美味しそうだから……」
「だからあげないって……。乗っ取りは触れた相手にしかできない。だから――」
「へぇ~いいの。……確かここらへんにしまって……あったあった。ほら、コレ。アンタの国の子でしょ?」
「その子は!? 人質は取らないんじゃ……」
「この国の人間はね。それに人質なんて人聞きが悪いこと言わないで。そんなんじゃないわ……ほら、返してあげる。ハイ」
「えっ……。おいで、大丈夫? 怖かったよね。ここは危ないから避難して」
「うん。怖いよ……。怖いくらいに――アンタってバカ」
「えっ――」
「アンタのせいよ。これはもう返って来ない。アンタが素直に引き渡せば、先があったかもしれないわネ」
「そん……な……」
「そうソレ。その顔――」
「あっ……うっ……。――アハッ、アハハァッ!! やっとよ。やっと手に入った……。これで、これで私ィ……は…………? ナニ……コレ……」
「……どう、待望の身体を手に入れた気分は?」
「シバ―ミア!? どうして……」
「……キターニア。上手くやったようね。お前の厄剥がしはあくまで魂を沈めて相手の身体を奪う。だったら、また起こせばいいだけ。……ほら、あっちに逃げて」
「分かったとて、誰にできる?」
「その身体を乗っ取った時点でもう気付いてるんじゃないの?」
「……何も感じない。何故だ? こんなこと今までで一度もなかった」
「本気で言ってるの……? あぁ、そっか。認めたくないのか。だったら教えてあげる。――キターニアは魔女」
「ッ!? どういう……」
「不名誉な再来。同じだから何も感じないんだと思う。ちなみに、青空の画角は精霊の力」
「精霊……?」
「そう。紹介するわ。これがその精霊さん。……って、見えないか。この人は厳密には精霊じゃなくて、元は人間。千年前から存在するね。ずっと待ち続けてたの。お前を倒す為に。この精霊さんの力を引き出せるのは、魔女と同じ魔術と資質を持った者だけ。だから待った。その時を。その者を清き心の持ち主に育てあげて、魔女に対抗できる存在にする。――千年経って。ようやく現れた」
「千年前? ……ずっと感知できなかったっていうの」
「無を作ってたんだってさ。――つまり、お前が得たのは、何の変哲のない、ちょっと運動音痴な身体だけ。これを想定していたから、キターニアは魔法を封印した」
「だったら他の身体を――くっ、離せッ!」
「離さないよ。だって、乗っ取られたのはお前。同じ魔術。でも、全然違う。キターニアのは支配じゃない。魂の共存。――結ぎ留めだから」
「結ぎ……留め?」
「キターニア。もう少し捕まえててね。今精霊さんが浄化するから」
「させるか! 魂の強さが私が上。しがみ付くのが精一杯。主導権は今ワタシにある。魔法が使えなくても、魔術は使える。そこらの人間を魔獣に変えて、アンタを襲わせてやる。アンタの国の人間にね! 今私に魔力を削がれて魔法を使えない。終わるのはアンタよ!」
「想定してるって言ったでしょ。この精霊さんは結ぎ留めで私に飛ばされてきたの。だから、私の魔術で跳ね返すだけ。残った魔力を流してね」
「うそだ……そんな……ワタシが負け……?」
「安心した。王国が魔女の再来を恐れて、この件が済んだ暁には、キターニアは拘束されて今後の厳重な審議が行われることになっている。でも、現物を見て安心した。……お前にはならない」
「はっ、そう……。結局、繰り返すのね……」
「繰り返さない。先のことは関係ないでしょ。お前はここで終わるんだから」
「……あぁそう。オワリ、ね……。終われるんだ……やっと……」
「っ!?」
「千年よ……。千年生きた。途中から何もかも面倒臭くなってさ……。何を食べても同じ味。何処へ行っても同じ景色。……でも、死ぬのは怖かった……だから奮い立たせてさ……」
「っ! そんなことでせいで……」
「最後に大先輩が教えてアゲル。――魔女は魔女よ。へばり付いたヨゴレ。剥がせないわよ。足掻きなさい。精々ネ」
「……余計なお世話。キターニアには“親友”がいる。さぁ、精霊さん――」
「ぐっ…………っ…………なによ……今更。千年も……馬鹿じゃ……な…………」
「終わった……の? キターニア、大丈夫?」
「……うん。終わったよ。やっと」
「一応聞くけど、キターニア……なの?」
「うーん……夏のヒョモラの実は、苦くてすっぱい!」
「――もうっ馬鹿。よかった! やっと……やっと……」
……抱き合う二人。熱い友情を再認識できたことだろう。長い道のりもこれにて終わりだ。
この舞台での俺の狙い。役者は与えられた役に没頭しすぎて、自分と役の区別が付かなくなる状態に陥ってしまうことがよくある。例えば、恋人役の相手を本当に好きになってしまったりなど。
特にこの2人は真面目に打ち込むタイプ。故にそんな状態に陥り易いと踏んだ。
だから、作中も熱い友情を押し出したり、“親友”という言葉を強調したりなどして、その側面を強く押し出した。
これを気に、また黄谷との仲を深めてほしい。この作品にはそんな想いが込められている。
「ところで、この精霊達は……?」
「紹介するね。この精霊さん達は別世界から来てくれたの。私と一緒にここまで戦ってくれたんだ。魔女の攻撃を受けて消耗しちゃったから、今回復してあげるね」
柴崎も台本を見て、その意図に気付いていたんじゃないだろうか。
――そして、同時に思ったろう。……その程度なのか。と。
そんな訳がないだろう。それはただのブラフ。だとしたらこんな長い過程を踏ませたりしないし、そもそも、黄谷との仲を深めたとこで何が変わるという話だ。仲直りなんて個人で勝手にやること。関わる人間の選定に、こんな洗脳紛いなことをするのは無粋でしかない。
だからこそ、心の片隅にあったはずだ。他の狙いがあるんじゃないかと。その可能性を抱かせるくらいの示しは付いている。その欠片が、これから頭角を表す。
この長い過程には理由がある。この舞台がその為の踏み台だったなんて言うまい。これはこれ、それはそれなだけ。
……さぁ、状況は出来上がった。どうなる?
「そうだった……の…………」
「……シバ―ミアちゃん?」
――役者は演じる時、一つ先のセリフを頭に描く。
「……そう…………だ……ったの……ね、み……ん――」
膝から崩れ落ち、泣きだす柴崎。
……どうやら気付いたみたいだな。想像以上の効果だったようだが、よかった。
この過程を得て現在、自分を支えてくれた存在を前に、醜い人格が抜け、ありのままの自分をさらけ出せるようになった。
――それは、誰もが当たり前に発する一言。
だが、柴崎がその当たり前を発する為には、この“役”という薄いヴェールが必要だった。自分を出せない。だから、自分を重ねることのできる何かが。
事前に言うなんて野暮だろう。そこには自分でたどり着いてほしかった。その時の喜びが大きい程に、これからの動機になると思ったし、サプライズとして送りたかった俺の願望もあるが。
俺は柴崎の生き方を否定しない。
好きな人間に失望されるのが怖い。だから、最初から自分という人間に関心を持たれぬよう拒絶する。何も悪くない。自分に合った最適な生き方をしているだけ。
でも、そのせいで当たり前なことすらできずに苦しんできた。できない自分を攻めた。
だからって、できないって決め付けるのは違うだろう。
自分でできないのなら、誰かを頼ればいい。捨て切れずに持ち続けていたその結がりが、俺を。この舞台を結び付けたように。結がりがきっとこれからも自分を支えてくれる。
簡単な道ではない。だが、可能性は示した。
そう、これは前座。これから自分で見つけるんだ。やり方を。
……さぁ、もう落ち着いたろう。
ずっと伝えたかったんだろ。今こそ打ち明かそう――
「ありがとう」




