魔女の心根 中編。
日も沈んで夜。森の中で焚火をするキターニア姫。
「はぁ……村にいけないから今日はここで野宿だよ。初めてだなぁ、外で寝るなんて。ちゃんと寝れるかなぁ……。ねぇねぇ、精霊さん達の世界では、野宿ってどんな風にしてるの? ……キャンプ? なにそれっ。焚火を囲って、テントで寝る? 焚火は知ってるけど、テントってなに? ちょっと出してみようか――えいっ。わっ、なにこの三角のおうち?! おもしろっ! 中の方は……おおっ! なんか秘密基地みたいでワクワクする~。懐かしいなぁ~この感覚……。これなら寝床は安心だね。……あぁ、今日は沢山魔力使ったからお腹ペコペコだよ……。あっ、そうだ! 精霊さん達の世界のご飯って、どんななのか凄く気になってたんだ~。食べてみたいから美味しいやつ教えて!」
数秒後、どんどんバックモニターに無数の料理が挙がる。本当はこれもランダムで選ぶ予定だったが、隣にいるやつのアドバイスで、こうやって全候補を表示することによって不平感をなくすことができると言われ、不覚にも納得させられたのを思い出す。
確かに、自分のが選ばれなくて本当に抽選は行われてるのか、なんて疑念を抱く生徒もいるだろうし、これならその疑いも晴れる。
エンターテイナーならではの視点。本当に実力だけはあるんだな。
「じゃ~あ……この二郎ラーメンってやつにしようかな~――ていやっ。うえっ、山盛りのもやしとキャベツ!? えぇ……でも、いい匂いがする。下の方になにかあるんだね。じゃあ食べ進めよう! もぐもぐ……ん~もやしおいし~。これならいくらでもいけちゃう! もぐもぐ……よし、野菜食べ終わったぞ。わぁ~下の方は麺があるんだね。ズズズ……うんっ、豚骨の味が濃厚で美味し~! 精霊さん達の世界にはこんな美味しい食べ物があるんだね~。ズズズ~……ふぅ、美味しかった~。ご馳走様でした~。量が多くてお腹一杯だよ」
嘘つけ。この前ガッツリ残してたろ。シュミレーションの時に俺も二郎ラーメンを指定したら、その時にもやし大好きだから無限に食べれますし行きましょう! とか言うから一緒に行ったら、見事に野菜だけ食べて、麺に到達した途端に苦しそうにしてたから、俺が残りを食べると申し出たんだよな。食べ物を粗末にしない主義の人間だから、放っておいたらどうなっていたか。俺は止めておけと言ったのに、いや、いけます! と聞きもしなかったな。それを見越して俺も小にしておいたからなんとか食べきれたが。いいか、二郎の野菜は麺とチャーシューを食べ終えた後のデザートなんだよ。野菜はいつでも無限に食べれるから先に重い方を食べるんだ。
「食休みしたら、食後に軽い運動してもう寝ちゃおうかな。睡眠は唯一の魔力の回復手段だから、魔法つかいにとって凄く大切だからね。じゃあ、その前に魔装の調整でもしようかな。えっ、魔装はどこかって? そっか。精霊さん達は知らないよね。私のは特殊でこのドレスなんだよ。このドレスには数種類の防御魔法が刻まれてて、私の魔力を流して発現させてるの。私は魔法が使えないから重宝してるんだ~。それと、このペンダント。これは魔具で、シバ―ミアちゃんからお守りにって……。私が使った拘束魔法はこれなの。…………。もうすぐ取り返すからね。あと少し待っててね。よしっ、それじゃあ寝る前の運動してこようかな」
☆
――翌朝。魔女は呟く。
「やっぱりアイツ、魔獣を認識した上で避けながらこちらへ向かっている。……どうなってんの? 魔獣は複数の魂を無理矢理混合させて、発生する魔力の拒絶反応で出来上がる異形。それを人間の身体に魂を入れた状態で混ぜず潜伏させていた。――表面で欺く為に。その状態での識別なんて、ワタシ以外にはできない。魂の認識の難易度は、魔力なんかの非じゃないから。それを人間なんかには絶対できない。それもアイツの能力だというの……? そうか。精霊の魂の認識力を使えば……。まっ、だとしてどうでもいいか。精霊なんかが、ワタシの脅威になんてなれないしね。それよりもアイツ、ワタシがどうやって精霊を滅ぼしたか知ってるのかしら……。フフっ。さて、それならそれで逆手に取るだけ。魔獣を配置したとこを避けるのなら、通る道は簡単に把握できるし、逆に魔獣を配置して誘導することもできる。そうねぇ、だったら…………アハッ。いいこと思い付いた♪」
☆
「――さて、セルコレス王国はもうすぐだよ~。魔獣を避ける為に遠回りしながら進まなきゃだから大変だよ~。後でその人らも元に戻すから待っててね。でも、普段来ないようなとこを進むのは冒険みたいで楽しいなぁ~。お花畑とか大きい湖とかすっごく綺麗だったよね~。でも、美味しそうな木の実を食べてお腹壊したり、虫さんがいっぱい飛んでるとこ通ったり、大変なこともあったけど。それもまた冒険の醍醐味だよね! ……それにしても、この林道懐かしいな~。シバ―ミアちゃんと木の実を食べながら一緒に歩いてね、この先にある教会へ行ってたの。そこいるダイダローザさんっていう人に魔法を教わったり、よく遊んでもらったりしてたんだ~。ほら、あれ。元気にしてるかな~。でも、今は行くべきじゃないから。魔女を倒したら、会い…………ん~、でもやっぱり行きたいなぁ~。……よし、行こう! お~い、おはようございま~す!」
「……あらあら、騒がしいお客。ッ――ようやく来てくれたのね。待ち詫びたわ………魔女」
「えっ!? 私はキターニアだよ。覚えてないの? それより、どうして目を隠しているの? 見れば分かるよ」
「大丈夫。これでもよーく見えてるの。それにしても……その声。キターニアちゃんの身体を乗っ取ったのね。……本当に忌まわしいっ」
「いや、私は私だよ! ちゃんと見てって」
「ねぇ、その喋り方気色悪いから止めてくれない? 修道女なのに呪詛吐いちゃいそう」
「だからぁ、私はぁ……。魔女になにかされたんだ。ん~どうすれば……。よし、ここはとりあえず退却! ――って、扉が開かない!?」
「無駄よ。この教会には加護を施しているから。許可した存在以外の出入りはできないの」
「そんな!? この教会はご先祖様から代々受け継がれてる大切なとこなんでしょ。そんな場所に加護なんて施したら……」
「ええ。崩壊するわ。でも、ご先祖様もお許しをくれると思うわ。――魔女の命と引き換えならね」
「そんな……一体なにがあったの?」
「それに出入りだけじゃないわ。この教会内では魔法も使えない。……でも安心して。魔術は使えるから。まぁ、アナタの力は加護を打ち消すことはできないし、私の魔術には無力も同然。加護を宿した私を乗っ取ることもできないしで、何もできないも同然だけど。アナタが慈悲を掛けられる筋合いはないわよね」
「そんな強力な加護を……」
「私の魔術――母の賜り。魔力の通る無機物に生命を宿す。この戦闘人形がアナタの相手をするわ。神器を添えて……」
「……。もう戦うしかなさそうだね。魔術が使えるなら大丈夫。いくよ、精霊さん!」
――魔女サイド。
「加護。神から施される力ねぇ……。悪い気はしないケド。それは分不相応なチカラの前借り。いえ、大半が一生を費やしたとこで到底成し得ない域。言うなら代償を払って得た偽りの力。ってとこかしら。……大変よねぇ、人間って。何かを手にする為に、何か捨てなきゃいけないなんて。普通、欲しいモノなんて無償で手にしてなんぼでしょう。同情するわ……。しないケド。でも――ダイローザ。人形に加護を宿して戦わせる。人形なら代償はないようなモノだから強力な加護が掛け放題。……発想がワタシ寄り。そこは似ても似つかない。ケド、神器を模倣する程の技巧。……やはり薄かろうと継がれている。あの男を彷彿とさせる忌むべき存在。キターニアといい因果が巡って来たとでも言いたいの? ……勝つのはまたワタシよ。――さて、そろそろ頃合いかしら」
視点は戻り。
「加護を宿した魔装、神器。偽物だろうけど、ローザさんが作ったならきっと限りなく本物に近いはず。それになんだろう、この悪寒……。戦っちゃいけないって、本能が言っている。一体どんな加護が施されてるの。……ここはこっちも誰かに戦ってもらって、まずは加護を見極めよう。精霊さん達! とっても強い人を召喚したいの! 近接で戦う人だと嬉しいな」
「誰と喋っているの? さぁ、やってしまいなさい」
「うわぁ~防御魔法! って、使えないんだった。うわぁ~早く~。よし、これにしよう!」
No.148 元、活動時間!!2時22分!!のミ~子(花山先生のアイドル時代の活動名)。
とんでもない化け物召喚しやがった。
「っ……いっ……いでよ! 活動時間!!2時22分のミ~子ちゃん……」
「は~~~い! 活動時間!!2時22分!!の20分担当、ミ~子だにゃ~! 今日もい~ぱいにゃん活していくよ~! にゃん、にゃん、お~!」
「なっ……えふっ……しょ、召喚獣!? きっ……聞いていた話と違うじゃない」
「強そうに見えないけど……あ、あの、あの人形さんと戦ってください」
「あぁ~ん人形? それよか148番出てこいや。喧嘩じゃ喧嘩。いい度胸してんな~、おい。特に“元"ってとこ、悪意に満ち溢れてんな~」
「あ、あの、精霊さんじゃなくて、アレと戦ってほしいんです」
「知るか。まずは148番じゃ!」
「うわぁ~ん、話が通じないよ~。こんな変な人呼ぶなんて、精霊さん達が全員協力的って訳じゃないんだね……。誰か、この人を止めてくれる人呼んで~」
No.152 警察。
よし、いいぞ。
「…………。これで呼ぶと来るって? あのすいません。なんか凄く怪しい人が暴れてまして、助けてほしいんです。はい、お願いします」
「警察だ! 怪しい人間がいると聞いて通報を受けたが……お前だな!」
着替えるの早いな。
「はー? 悪は148番だろ。私は被害者なんですがー? 黒歴史掘り起こされて面前に晒されてんですよー。プライバシーの侵害でーす」
「意味の分からないことを言うな! ゆっくり手を挙げろ。動いたら撃つぞ!」
「え、なんで?! くつろいでたら勝手に舞台上げられた挙句に、なんで銃向けられるの? 意味分かんないのコッチ――あっ、ちょやめ……」
「午前11時24分、犯人確保。ほら、いくぞ。話は後で署で聞かせてもらう」
「チクショーーー!! ちゃんとギャラ払えよなー!! あと有休も増やせ―!!」
「…………。何を見せられているの?」
「私にも分からないよ」
「そう……。じゃあ、今のは見なかったことにして。いくわよ!」
「うん! それじゃあもう一回、今度こそまともな人をお願い!」
No.11 マーちゃん。
気まずいだろ。
「えっ、マッ……この世界の人間じゃん……で、でも本人を呼び出すって訳じゃないし、武器を使うから丁度いいか……気まずいけど、マーちゃん力を貸して!」
「おうよっ! キターニア。オレはどうすりゃいい?」
「あのお人形さんと戦ってほしいの! 相手の能力を知りたいの」
「任せろ! もし倒しちまっても文句言うなよ」
「う、うん! 勿論だよ……」
「うおぉぉぉりゃあああ!! ――がッ!? な、なん……だと……」
「マーちゃーん! ……魔装ごと斬った?! あの加護は……」
「簡単よ。この神器には―― を宿してるの。―― で ない物はない。アナタなら知ってるでしょ」
「なんて言ってるの……。音じゃない。認識ができない。背筋が凍るみたいな、嫌な感じ……。でも、効果は分かった。斬るという概念の上位存在の付与。そんな強大な加護を使ったら――」
「ええ。一振りで絶命するわ。だからこうやって私の力でまた復活させるの。加護だと、絶命する度に契約を結ばなきゃだけど、神器であればその必要もなくて便利なのよね。ちなみにアナタの力で魔術を打ち消しても、またすぐに掛け直すだけだから無意味よ」
「ローザさん……人形だろうと優しく接する人だったのに……今はただ怖い……」
「さぁ、次はアナタよ」
「……でも、だからこそ助けないと。上位概念。強力だけど――それ故の弱点もある。精霊さん達、アナタ達の世界で最も硬いと思える物を教えて」
No.112 かつおぶし。
確かに世界一硬い物だ。食べ物の中でだが。
「なにこの棒? ……でも凄く硬そう! これなら……ふっ――」
「そんな短い棒で何ができるの? 無駄よ。どんな物だろうと、アナタごと くだけ。これで終わり――ッ!? どうして……防いでるの?」
「他の世界で最も硬いとされる物だよ。斬れる訳がないじゃん」
「硬さなんて関係ない。なんだろうと るのよ?」
「いや。このかつおぶしはとんでもなく硬いから絶対に斬れないんだよ」
「どういうこと……何が起きているの?」
「加護使いが疑っちゃ駄目だよ。ほらっ、スキあり。お人形さんは拘束魔法で動きを封じさせてもらったよ。これでもうこのお人形さんは戦えないね」
「……何をしたの?」
「上手くいったね。簡単だよ。概念で斬ってるなら、その上の概念をぶつければいい。概念の構築は思い込みが強い程に強固なものになる。だから、自分に洗脳を掛けて、絶対に斬れない硬い物を構成したんだよ。未知の物で更に思い込みを強くしてね」
「……やはり魔女。測量の根本が違う」
「だから私は違うってば」
「……まぁいいわ。これで倒せれば良かったんだけど。本命はこっちだから」
「焼けた……翼?」
「知ってるでしょ。私の息子。ミカロスの翼」
「ミカロス君の? ……まさか」
「アナタに捉えられた私達は、獄中で翼を造り、2人で脱走を図るも、途中アナタに見つかり、ミカロスは翼を焼かれ地に落ちた。その時の物よ。……まさか忘れたの?」
「そんな……」
「私は振り返らず逃げた。迷いなんて一点もなかった。その瞬間から私の生は魔女への復習だけへと変わったから。後日アナタが送ってくれた、魂の抜けたただ生きてるだけのミカロスは奥で寝ているわ。この境界の加護を取り持って貰ってるの」
「そうまでして……」
「今からアナタも同じ目に合うのよ。このミカロスの翼で」
「だめッ!! 人間が神器を使ったら――」
「もう眼は捧げた。だからそれ以外の全てをこの翼に捧げる――」
「黒い波動!? ――うっ、なに……これ……体から、力が……」
「飛ぶこと叶わず地に堕ちた無念はやがて怨嗟と化し、闇すらも引きずり墜とす厄災となる。――焼けた翼。私が創ったの……。でも、いくら私でもオリジナルの神器を創れる訳なかったみたいで、大きな代償があるだけの加護になっちゃったの。いや、代償が恩恵っていうべきかしら。――その代わりと言ってはなんだけど、この代償を受けるのは周囲にいる全ての者。その代償は"不自由"。まずは肉体から、最後には意識まで。全てが地に堕ちる。今のミカロスのようにね……」
「そん……なことしたら……ローザさん……まで……だめ、だよ……」
「ごめんなさい。もう耳も聞こえないの。でも安心して。私の命が尽きようとこの神器は解かないから。動かなくなった身体は私の魔術で動かして、アナタにとどめを刺す。今や私はそれだけを完遂する人形」
「範囲外に逃げればいい……。でも、見捨てられないよ! ここは賭けに出る……。やったことないけど……今はそれしかない。記憶を呼び覚まして。私の力なら――」
「何をしても無――っ!? この声、まさか……一体どこから?」
「――精神干渉。私は魔女。それくらいできて当然でしょ。何を驚いているの?」
「だ、だからどうしたの……。何を言おうと、絶対に解除なんてしないから」
「ケラケラ……笑える。まさか、そんなおもちゃで、この私を倒せるとでも思ってるの? 忘れた訳じゃないわよね。私のチ・カ・ラ」
「こ、この窮地を切り抜けられるとでも言うの? 加護を打ち消すことはできないのよ」
「窮地? あぁ、アンタにはそう映ってんだ。間抜けねぇ~。確かに加護は打ち消せない。でもそんなことせずとも――アンタの生命を打ち消せばいいだけでしょ」
「っ!? そ、そんなことできる訳――」
「アンタの息子、どうやったと思ってんの?」
「ッ――!?」
「ほんっと、容易い。――厄剥がし」
「……うそ……そんな……加護が……」
「ふぅ……。な~んちゃって! なりきり作戦大成功! 嫌だけど私が魔女になりきって、ローザさんに眠る魔女への恐怖を呼び覚まして、加護に不信を生んで効力を弱めた。……きっと戦いもしただろうから。で、その隙に私の力で加護を消した。嫌なやり方だけど、これしかなかったから許してね……。人への精神操作なんて初めてやったけど、上手くできてよかった。ローザさん、大丈夫?」
「……魔女。……一生呪うから」
「だーかーらぁ、私は魔女じゃないって。ほらっ、ちゃんとその眼で見て」
「何を――えっ、キターニアちゃん!? どうして……。って、なんで眼が見えてるの……?」
「それは……うん。加護はね、契約中である限り効力と代償は貸し借りの関係なの。だから、契約が何らかの理由で不成立になったら返って来るの」
「そんなこと有り得えない……」
「有り得ちゃうんだよ、私の力ならね。なんでもできる力だから――それと、ミカロス君も時期に目を覚ますと思う」
「えっ!?」
「沈められていただけで、まだ魂は生きてる状態だったの。多分、魔女が何か企んでたんだと思う」
「ほ、本当なの……?」
「うん。それじゃあ私は、これからその魔女を倒してくるね。それが終わったらまた……。じゃあね――」
「っ…………駄目よ。危険よ! 行っちゃ駄目……行かないでっ!!」
――魔女サイド。
「……やってくれたわね。接続も遮断された。アイツ、どれだけ理を外れれば気が済むの……。まっ、でも大方アイツのできることも分かったしいいか。ダイダローザは身体を手に入れた後にシテ。まずは主食から――さぁ、もう、すぐでしょ。来なさい。アソビの時間。ワタシの一方的なネ♪」




