94. 魔竜の思惑
「あっ、子供達が危ない。師匠、武器は持ってきてないのですか?」
「え?いや、見ての通り丸腰やけど・・・。てかあの子はほっといて良いんとちゃう?ずいぶんあっさりと亜竜を真っ二つにしよったで?なんやサミダレ流の奥義も使っとったし」
「あんな子供に亜竜が倒せるわけないじゃないですか。亜竜は運良く勝手に自滅しただけです。ああもうっ、冗談を言ってる場合じゃありませんよ。素手でもいいですからこいつら蹴散らしてやってくださいっ!」
薙ぎ払え、とでも言いだしそうなポーズでレミが言った。
ガレオがため息をついた。
「えー・・すごい発想やなぁ。勝手に真っ二つに分かれる竜なんていーへんと思うけどなぁ。ま、別にええけどね」
2人のやり取りに、それまで静観していた見張り達に動揺が走った。
しかし見張り達が警戒していたにもかかわらず、勝負は一瞬でついた。
目にも止まらぬ速さで動いたガレオが、彼らの鳩尾を順番に正確について沈黙させたのだ。
「さすが師匠。お見事です」
「・・・。」
ふんぞり返って上から目線のレミにガレオが何かを言おうとしたところ、突如会場から悲鳴が上がった。
皆の視線が悲鳴の方へと向かう。
視線の先では、地上と地下室を繋ぐ階段から武装した兵士達が降りてきていた。
その統一的な兵装と統率のとれた動きは、ゲオルグの私兵という感じではない。
「王国兵だっ!逃げろっ!」
誰かが叫んだ。
シスイ王国の兵士達が会場に乗り込んできたのだ。
それまで余裕を持って他人事のようにしていた観客達が浮足立つ。
「これは、まさか師匠の差し金ですか?」
「さてね。ワイは古い友人に非合法なイベントが開催されるという情報を流した事くらいやけどね。それでレス殿、貴殿はこれからどうするん?」
レスにガレオが問いかけた。
レスは二人に背を向けた形で、ゲオルグに置き去りにされたリシの目の前に立っている。
「そうですね。目的は果たしたのでこのまま我が主と合流します。お二人のご協力に感謝を。できれば主に替わってお礼をしたいところですが、私はこのまま町を出ることになるでしょう」
リシの腕に描かれた刺青のような紋様をしげしげと眺めながら、申し訳なさそうにレスは答えた。
「礼なんてええよ。ワイも元々このイベントは潰すつもりやったしね」
「いえいえ、そういうわけにはいきませんよ。いずれまたどこかでお会いした時にでも、お礼させてください。さて、と・・・」
レスがリシの腕の紋様に手を当てると紋様は一瞬青く眩い光を放ち、バシュッという焼け石に水を垂らしたような蒸発音をたてた。
「リシとやら。正気を取り戻せましたか?」
「え、あ、レス殿か。こ、ここはどこだ?俺は一体何を・・・?」
リシが不安そうに周りをきょろきょろと見回した。
先ほどまでとは打って変わって、その瞳には理性の光が宿っている。
「あなたはゲオルグに呪紋で支配されていたようです。これまでの記憶はありますか?」
「ああ、おぼろげだけど一応・・・。あ。ま、まずいっ!クラウス達に追手がっ!」
「ふむ、追手ですか。少々まずいですね・・・」
レスの眉がピクリと動いた。
リョウもレスも裏闘技場に集まってしまっている。
追手がどの程度の力量なのかまでは分からないが、クラウス達だけでは戦力不足かもしれない。
リョウ様がこちらにいらしたのは、恐らくリシが捕まった事を知っての行動だと思いますが・・・。
結果としてリサを救う事は出来たものの、クラウス達が手薄になってしまった。
やはりドラゴニュートか四竜将の一人でも連れてくるべきでしたかね。
レスの脳裏を若干の後悔がよぎる。
どうやら少人数でリョウ達と身軽に旅を楽しもうというレスの秘めた思惑は、今回は裏目に出たらしい。
レスにとっては、奴隷解放はリョウとの旅のついでのようなものだったのだ。
レスが裏闘技場中央に視線を移すと、そこには王国兵達に拘束されるゲオルグの姿があった。
「今頃奴隷どもは皆殺しです。向かったのはリセンですからね。ははっ、ざまぁみろ。俺様に喧嘩を売るからだっ!」
兵士に取り押さえられ半狂乱になりながら、ゲオルグは叫んでいた。




