88. 生贄姫と奴隷騎士③
「扉より現れましたのはゲオルグ杯闘技大会の優勝者と対戦する予定の砂漠の亜竜でございます。亜竜はいずれの種族もどんなに低くてもランクC。屈強なる戦士達が束になって戦い、多数の犠牲を払ってようやく倒すことができる化け物にございます。彼の亜竜の鋭い牙は岩をかみ砕き、爪は容易く鉄を引き裂きます。そしてこの日のために彼にはこの数日餌を与えておりません。さて、勇敢にもリングに上がった可憐なる少女は、果たして彼の亜竜に打ち勝つことができるのでしょうか?」
ゲオルグがそこで一旦間を置くと、観客からは笑い声があがった。
主催者も下衆なら観客も下衆らしい。
俺はトコトコとリングに向かいながら、だいぶ胸糞悪い気分になっていた。
「さあ、今亜竜が鎖から解き放たれました!はたして少女の運命やいかに?」
亜竜の四肢を拘束していた鎖が外れた。
自由になった亜竜はゆっくりとリサに向かって歩いていく。
目前に迫った死の脅威に対し、リサは恐怖のあまりその場にへたり込んでしまった。
誰もが次にくる惨劇を予想していとき、それは起こった。
「おらあっ!」
叫びとともにリング外から投げられた短剣が、砂漠の亜竜の額に命中したのだ。
低く呻いて苦悶の表情を浮かべる亜竜。
亜竜の注意が獲物であるリサから、自らを攻撃した敵‐ヘテロへと逸れた。
「ヘテロちゃんっ!」
ヘテロに気付いたリサが、立ち上がってリングの端まで走り寄った。
「無事かリサッ?」
「うんっ!」
鉄柵越しに顔を合わせる二人。
観客はあっけにとられながら、闖入者の姿を見ている。
最初に我に返ったのはゲオルグだった。
「なんだ貴様はっ!おい、誰かこいつを捕えなさいっ!」
ゲオルグが叫ぶと、ヘテロに向かって警備員らしき男達が駆け寄ってきた。
男達の手には既に抜身の剣が握られている。
男達はヘテロに駆け寄ると、問答無用で斬りかかった。
「なめんじゃねえっ!」
ヘテロは長剣を抜くと気合一閃、最初に駆け寄ってきた男を一息に切り伏せた。
見事な太刀筋だ。とても最近剣を覚えたばかりの素人とは思えない。
ヘテロに斬りかかった男は勢いそのままにリングの格子に激突し、床に崩れ落ちて動かなくなる。
「このクソガキッ!」
仲間を討たれた男たちが激高しつつも、しかし最初の男のようにいきなり斬りかかることはしなかった。
男達は近くまで駆け寄った後は慎重に間合いを取りながらヘテロを取り囲んでいく。
仲間があっさりとやられてしまったことで、多少なりとも警戒しているのだろう。
ヘテロはリングを背に4,5人の男達に囲まれて応戦することになった。




