87. 生贄姫と奴隷騎士②
ゲオルグのあとをついて行ったのは取り巻きの男達の中でも2名ほどだけだった。
あとの面子はそのまま部屋の中に残っている。
レス達3人は、武装した男たちに取り囲まれたまま部屋に取り残されてしまった。
レミが小声でこっそりとガレオに話しかけた。
「師匠。こいつら皆殺しにして脱出しましょう。悪人に人権はありません」
「・・・お嬢は物騒やなぁ。まぁ落ち着きいな。観客には貴族もいるようやし、わいらが暴れるのはちとまずいやろ。それにレス殿には何やら考えがあるようやしな」
「考え、ですか?」
レミが視線を移すと、レスは不敵な笑みを浮かべて肩をすくめて見せた。
「ふふ。まあ、見てのお楽しみという事で」
レスの視線の先、裏闘技場中央にあるリングに奴隷らしき少女が連れてこられていた。
あれがヘテロの言っていたリサ嬢なのだろう。
リングは3辺を鉄の格子で囲われており、残りの1辺は壁になっていた。
壁には扉がはめ込まれていたが、格子にある扉と比べてかなり大きかった。
リサがリングに上がると格子の扉は閉められた。
ほぼ同時にゲオルグがリング前に置かれた壇上に上がる。
「皆様。本日はよくいらっしゃいました。今宵はルール無用の血沸き肉躍る戦いを、どうぞお楽しみください。さて、前置きはこれくらいにして早速本日の催しを開催いたしますが・・・とその前に、まずは余興を用意しましたのでそちらをお楽しみください」
ほっほっほ、と気色悪い笑いとともに、リングに接した壁の大扉がさび付いた耳障りな音とともにゆっくりと開きだした。
グオオオオオオオオオオオオオオッ!
大扉が開くとともに、その向こうから発せられた雄たけびが広間を揺るがした。
観客が一瞬騒然とする。
やがて大扉からゆっくりと姿を現したのは、一匹の巨大な爬虫類だった。
見た目は黄土色のトカゲだが、その背中には小さな羽がある。
全長は優に5メートルは超えており、広いはずのリングが対照的に小さく見えた。
「なんやあれ?竜かいな?」
「あれはレッサーサンドドラゴンですね。俗にいう亜竜というやつです」
「亜竜ってCランクの魔物じゃないかっ!あの子が危ない、助けに行ってきます!」
「お待ちをお嬢さん。ここはしばらく様子を見ましょう」
「はぁ?あなたは、あの子を見捨てるつもりですか!?」
「まさか。いざとなったら私が助けますよ。それに、おそらくレミ殿が危惧しているような事態にはなりません」
「危惧している事態にならないって・・・。いったい何を根拠にそんなことを・・・?」
レミの質問にレスは答えなかった。
レスは返事替わりに小さく肩をすくめてみせると、リングの方をじっと見つめて沈黙を決め込む。
レミはさらに追及しようとしたが、彼女もリングに注目せざるを得なかった。
周りの観客から先ほどの歓声とは違った、どよめきの声が上がったからである。




