85. 夜逃げ屋異世界支店②
俺達は薄暗い月明かりの下で、東を目指して人通りの少ない道を淡々と歩んでいた。
「・・・リサは無事だろうか?」
「にゃ(大丈夫だ。レスを信じて・・・・・・・・・待とう。)」
「・・・おい。なんだよ今の間は?」
「にゃん♪(気にするな♪)」
「気になるだろ。くそっ、不安になるぜ」
俺の返答にヘテロが顔をしかめた。
本当に気にしなくていいのにな。
ただ単に、レスと信じるという言葉の間に関連性が見当たらなくて困惑しただけである。
まあレスは強さだけなら本物だから、裏闘技大会をぶっ壊してでもリサを連れて来れるだろうが。
シスイの町には、俺達が入ってきた北西の入り口と、南側の肥沃な大地をもつ国々との玄関口の2つの出入り口ある。
そのため、目指す東側はそれほど賑わっていなかった。
シスイの町を東から脱出して馬車と合流後に北上し、突き当たった大河を渡ってアインベルグに帰る予定だ。
予定を言うだけなら簡単だが、闇夜とはいえ30人近い大所帯での行動である。
いくら賑わっていない東側のルートであっても、一瞬たりとも気は抜けない。
先頭を行くミシルの肩に乗った俺は周囲数百メートルに敵いないか確認し、殿を務めるクラウスは背後から敵が来ないか注意を払っている。
・・・まぁぶっちゃけ、俺だけいれば索敵には問題ないんだけどね。
さて、牢屋を抜け出てから1時間も歩いただろうか。
途中さしたる脅威も無く、それまでまばらながらも続いていた建物が突然途切れ、俺達は無事砂漠へと出ることができた。
しばらく道なき道を東に歩くと、行く先に薄ぼんやりと明かりが見えた。
「にゃ?(あれが合流地点か?)」
「はい。残りの二人が馬車を用意しているはずです」
ミシルも明かりを見つけたようで、若干ほっとしたように緊張をほどいた。
明かりに近づくとランタンを持った男がいた。
その傍には馬車が2台止まっている。
ん?数が少ないように見えるが・・・?
ミシルもそれに気付いたようで、ランタンを持ったガイアに駆け寄った。
俺達が近づくと、ガイアが困り顔で事情を説明した。
「リシが行方不明だ」
「行方不明ってどういうことだよ?」
ヘテロの問いにガイアは押し黙ってしまう。
「にゃ~(行方不明、ね。タイミングが良すぎるな。)」
「ああ。おそらく、逃げたか捕まったかのどちらかだろうな」
後から追いついてきたクラウスが、俺の意見に同調した。
「裏切ったってことか?」
ヘテロが険しい顔でガイアを問い詰める。
「裏切るような奴じゃないと思ってはいるが・・・あいつはシスイ国出身だ。万が一のことを考えて、すぐに出発した方がいいぜ」
ガイアがぶっきらぼうに答えた。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。それじゃあリサはどうなるんだ?」
「・・・。」
ヘテロの問いに、ガイアは気まずそうに目を反らす。
「にゃ!(落ち着けヘテロ。リサとの合流は待たずに、一旦今いるメンバーだけで拠点を目指そう)」
「でもっ!」
「にゃっ!!(このままリサを待っていると、下手すりゃ追手がかかって全滅する恐れがある。リサはレスと俺に任せて、お前らは先に進め)」
「姉御が行ってくれるのか?それなら俺もいく!姉御一人じゃリサが誰か分からないだろ!」
「にゃ・・・にゃん!(それもそうだが・・・分かった。ヘテロ、お前は俺についてこい!)
「それなら僕も行く。」
それまで黙ってやり取りを聞いていたジローが、やおら俺のしっぽを掴んだ。
ちなみに俺のしっぽは猫又なので本来は2本だが、地味に変化の術を使ってるので一本になってたりする。
・・・どうでもいいか。
「にゃ!(だめだ。ジルはタロー達と一緒にこいつらを守ってやってくれ。)」
「ジル。わがままを言うんじゃない。悔しいけど僕たちじゃ足手まといだよ。僕たちはこの人達をアインベルグまで無事に送り届けよう」
「・・・。」
ジローは口を横一文字に結んで、じっと俺を見つめている。
その瞳は不安そうに揺れていた。
「にゃ~(ごめんな。また後でなジル。タロー、ジルとこの人達を頼んだぞ。無事に拠点まで連れてってやってくれ)」
「了解しました。兄上もどうかご無事で」
「にゃ(ああ、お前らもな。怪我をするんじゃないぞ。無理だけは絶対にするな。敵に見つかったらすぐに逃げるんだぞ? ・・・じゃあ、アインベルグの拠点で会おう)」
クラウス達が馬車2台に連れてきた人達を乗せるのを見ながら、俺とヘテロはすぐに出発した。
荷台からはタローが手を振って、ジローがじっとこちらを見ていた。
俺は後ろ髪をひかれる思いの中、レスの元へと先を急いだ。




