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転猫  作者: 相川秋実
第一章
84/137

84. 夜逃げ屋異世界支店①

 綺麗な弧を描いた三日月が、夜のシスイを薄ぼんやりと照らしている。


 足元の道はそこそこ見えるが、行き交う相手の表情までは見えない。

 その程々の明るさは、夜中に人に見られたくない行動をとる者にとってはありがたいものだった。


 俺は今、クラウスとミシルと冒険者メンバー2名で夜の道を歩いていた。

 ガイアと残りの2名は、町の外で馬車とともに待機している。

 俺達も、皆を助けた後でガイア達に合流する予定である。


 ちなみにレスとは宿屋の入り口で別れた。

 レスは闘技大会が開催された広場でレミ達と合流する予定だ。

 ちなみにレミは、俺達が見てた試合でゴウラとかいうおっさんにあのまま負けてしまった。

 幸いにも大した怪我は受けなかったので、予定通り我々の力になってくれるそうだ。


 夜道を歩いて30分ほどで、俺達は目標であるレンガの建物に辿り着いた。


 建物の入り口の前には見張りが1名佇んでいる。

 その周りには人の気配はない。奴1人をどうにかすれば屋内にはすんなりと入れそうだ。


 入り口には篝火が焚かれており、周囲を警戒しやすくなっていた。

 上手く近づかないと、明かりに照らされてすぐ見つかってしまうだろう。


「ここは俺が行く。俺が見張りを倒したら、すぐに屋内に運び込んでくれ」

「ああ。わかった」


 暗闇の中でクラウスが頷いた気配がした。

 俺は乗っていたミシルの肩から飛び降りると、明かりを避けながら大きく迂回して見張りの真横に近づいて行く。

 そして見張りが間合いに入ると同時に人化をし、見張りの口を片手で抑えつつ鳩尾に一撃を加えた。


「っ!」


 見張りは音もなく意識を失った。

 そのまま倒れて音がするとまずいので、崩れ落ちる見張りの体を小さな体で何とか支える。


 クラウス達が素早くやってきて、見張りを抱えて屋内へと入っていった。

 入口から続く狭い通路の両脇には部屋があったが、事前に確認した通り人がいる気配はしない。

 

 通路の先はすぐに下り階段があるが、地下からは複数の気配がした。

 捕まっている人達だけではなく監視の人員もいるようだ。


 「ちょっと先に下にいってくる」

 「ああ」


 クラウスが見張りを縛りながら返事をした。

 俺は人化を解くと、猫の姿で階段を下って行く。


 両脇の牢屋の間にある通路にはテーブルが置いてあり、監視員2名が向かい合って座っていた。

 卓上に置かれたカードと手に持ったカード。

 どうやら監視員達はトランプらしきカードゲームに興じているようだ。


 俺は猫の姿のまま彼らにゆっくりと忍び寄る。

 向かい側の監視員が俺に気付いたようだが、一瞥しただけで手元のカードに視線を戻した。

 猫にかまっている暇は無いというところだろうか。

 俺は人化すると、まずは背を向けて椅子に座る男の首をトンと叩いて気絶させた。

 対面の男は急に机に突っ伏した相手を見て一瞬眉をひそめる。


 「おい、なんだよ。急に寝るんじゃねえ。お前の番だぞ」


 どうやら相手が寝落ちしたと判断したらしい。

 手札を真剣に見つめるその姿は、俺の存在にすら気付いてないようだった。


 俺は次の瞬間にはもう一人の男のの背後に回り、同じく首をトンと叩いて意識を刈る。

 そいつも最初の男と同じく机に突っ伏した。


 まあ、こんなもんかな。


 俺は二人がちゃんと気絶していることを確認すると、いったんクラウス達を呼びに戻った。

 俺が再度地下に降りると、奥の方から俺を呼ぶ声が聞こえた。

 

「兄上。こっちです」

「リョウ兄~」


 タロジロだった。


 俺はクラウス達が縛りつつある監視員の腰から鍵の束を奪うと、タロジロ達が囚われている牢屋へと向かった。

 そして俺が鍵で牢屋を開けようとすると、待ちきれなかったのかジローが人化を解いて牢屋を抜け出し、再度人化をして俺に抱き付いてきた。


「・・・。」


 ジローは俺にしがみつたまま胸に顔を埋めている。

 表情を伺い知ることはできなかったが、どうやらだいぶ淋しい思いをさせてしまったようだ。 

 俺はそっとジローの頭を撫でてやった。


「ごめんな。遅くなったな。さみしかったか?」

「・・・別に。」


 そっけなく言いながらも、ジローは俺にしがみついて離れようとしない。


 同じ要領で牢屋から出てきたタローが、ジローの背後で所在なさげに立っていた。

 俺はそんなタローを手招きで呼び寄せると、ジローと同じように頭を撫でてやった。

 静かに俯くタロー。

 ジローの前では兄として気丈に振舞っている者の、やはりタローも心細かったのだろう。

 ちょっと可哀そうな事をしてしまったかもしれない。


「・・・おい。再会出来てうれしいのは分かるけどさ。俺達もここから出してくれるとうれしーんだけど?」


 ジローが抱き付いてきてから数分後。

 うんざりしたような口調でヘテロが呟いた。


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