83. 闘技大会
翌日。
早朝から街の中央広場にてシスイ建国祭の開催が宣言されると、しばらくして闘技大会が始まった。
開催の長々しい挨拶によれば、初代国王シスイ一世は200年程前にこの辺り一帯の蛮族をまとめ上げてこの国を興したそうだ。
国を興した後には優秀な剣士を集めるという名目で毎年剣術の大会を開くことにしたそうだが、これは国王自身も剣士であったことが大きいらしい。
敵対勢力との戦においては、シスイ一世は常に先陣を切って戦っていたそうな。
現在では剣士以外でも参加できるように剣術大会から闘技大会と名前を変えたものの、闘技大会で優秀な成績を残したものはどんな身元であってもシスイの軍人として取り立てられる、というところは変わっていないらしい。
ちなみにどんな身元であっても、というのは奴隷を含めてのことだそうだ。
その効果もあってか、シスイ国の軍隊は精強な歩兵を抱えていることで有名なのだそうな。
俺は闘技大会を見に行く前に、昨日レス達が検討したという逃走経路を確認することにした。
レスの肩に乗って薄暗い細道を練り歩く。
念入りに検討したというだけあって、日中にも関わらず人通りはほとんど無いに等しかった。
さすがといったところだろうか。
ちなみにクラウス達には、夜に合流できればいいので日中は自由に過ごしてくれと言っておいた。
しかし彼らは、町を散策するふりをしながら脱出時に問題が起きないよう警備の状況を調べて回ってくれるそうだ。
なぜそんなに協力的なのか正直気になったので直接クラウスに聞いてみたのだが、それには思わぬ返答があった。
意外なことに、彼等も奴隷制度を嫌っていて出来るのであれば奴隷達を解放したいのだそうだ。
それに、そもそもゲオルグ自体が嫌いというのも大きいらしい。
クラウス達がこの町で仕事をするようになってから数か月が経つそうだが、ゲオルグ絡みのクエストはどれも胸糞が悪くなるようなものだったらしい。
しかもクエストを断ろうとすれば、あの手この手で脅してくるのだそうな。
ゲオルグにばれた時の事を考えて、彼らは今回俺達に手を貸すのを期にこの町を離れるそうだ。
協力してもらえるのはとてもありがたいが、結果的に彼等をシスイ国を出なければいけない状況に追い込んでしまった。
・・・何だか悪いことをしてしまったな。
俺とレスが闘技場に着くと、ちょうど女剣士レミが会場のリングに上がっていくところだった。
どうやらこれから対戦らしい。
時を同じくしてリングの反対側に上がった対戦相手と思しき人物は、ムキムキマッチョの大男だった。
レミと同じく、得物は太刀のようだ。
「さあ、いよいよ3回戦第1試合です。ここからは勝てば準決勝に進めますっ!」
試合の情報を伝えるアナウンスが会場中に響いた。
そしてアナウンスに続いて会場中に歓声が沸き上がる。
アナウンスは、リングの向こう側にあるテーブル席に座っている女性が喋っているようだった。
テーブル上に小ぶりの水晶のようなものが幾つか並んでいる。
おそらくマイク的な何かなのだろう。
今が3回戦の1試合目で、勝てば準決勝か。
闘技大会が始まってからまた2時間も経ってないと思うのだが、既に20試合近くが消化されているようだ。
「まぁ試合なんて、ものの数分で終わるしね。どんなに長くても10分はいかんやろ」
「そういうものですか」
いつの間にか俺達の傍に寄ってきていたガレオが、俺の疑問に答えるようにつぶやいた。
そして俺の代わりにレスが応じる。
ガレオ曰く、緒戦は実力差がある組み合わせが多いのであっという間に勝負がつくのだそうだ。
むしろ試合が長引くのは、実力が伯仲しだす3回戦目以降らしい。
つまり、この試合からということである。
「お弟子さんが出ていますね。応援しなくてよろしいんですか?」
「応援したところで勝つときゃ勝つし、負けるときゃ負けるやろ?」
ガレオは肩をすくめて見せた。
なんともそっけない話である。
会場の歓声が収まるのを待って、アナウンスが続いた。
「西側は神セン流の侍レミ。これまでの試合では華麗なるその外見からは思いもよらぬ苛烈な攻撃で、相手に何もさせずに勝利してきました。対する巨漢はゴウラ神セン流の師範にして昨年のチャンピン、ご存じ剣豪アレクサンダー・ゴウラ。やはりこれまでの試合では、相手に攻撃の暇を与えず完勝してきております。はたして一体どのような試合になるのでしょうか?解説のオルドさんはどう思われますか?」
「そうですね。どちらも神セン流の使い手ですが、支流ではあるものの師範にして剣豪であるゴウラ氏の技が勝るのか、あるいは挌では負けるもののレミ氏が源流の意地を見せるのか。先の先を取ることに重きを置く同じ流派同士の戦いですので、最初からかなり激しい戦いが期待できますね」
「なるほど、分かりやすい解説ありがとうございます。おや、今レフリーがリングを離れました。いよいよ試合開始です」
アナウンスに合わせるように、試合開始のゴングのような楽器が鳴り響き、そして両者は激突した。




