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転猫  作者: 相川秋実
第一章
70/137

70. 猫媚態

「なんだ貴様っ!?」


 仲間をやられた荒くれ達が女剣士に対して一斉に身構える。

 そのうち何人かは既に短刀を抜いていた。

 しかし女剣士はそんな彼等に対し侮蔑の眼差しで応える。


「クズどもに名乗る名など無い」

「なんだとクソアマがっ!」


 荒くれどもが一斉に女剣士に襲い掛かった。


「ふんっ」


 しかし女剣士は剣すら抜かず、徒手空拳で流れるように荒くれどもを制圧していく。

 次々と地べたに這いつくばっていく荒くれ達。

 俺達がタロー達に合流したころには全てが終わっていた。


「ねーちゃんつえーな」

「まぁまぁ強い」

「すみません助かりました。ありがとうございます」


 ヘテロとジローが口々に感想を述べ、なぜかタローだけ礼を言った。

 絡まれていたのはヘテロだった気がするんだが・・・。


「礼には及ばない。義を見てせざるは勇無きなり、と言うしな。侍の位を持つ剣士として見過ごせなかっただけだ」


 女剣士は凛々しい相好を少しだけ崩して微笑んで見せた。

 ・・・かわいいな。これが山田が言っていたギャップ萌えというやつなのだろうか?

 てか、この諺やっぱりこの世界にもあったんだね、というか・・・


「ん?侍?」


 思わず声に出た。

 この世界にも侍っているんだね。

 剣の流派といい、侍といい。異世界のくせにどうも日本っぽいものが多いな。

 もしかしたら昔から転生者がちょくちょく来ていたのかもしれない。

 てか、どうせ出てくるならこっちの説明をしてほしかったんですが山田さん。


 俺が思案にくれた後でふと気づくと、女剣士が俺の方を凝視していた。

 え?何?猫好きですか?


「今、その猫喋らなかったか?」


 ・・・あ、しまった。


「にゃ~ん♪」


 俺は合流するなり抱きかかえられたジローの腕の中で、首をちょっとかしげ右前足を招き猫のように前に出し、なるべく可愛らしい声で鳴いてみせた。

 スキル(じゃれる(魅力大)、あまえる(魅力中)、こびる(魅力中)、すり寄る(魅力中))も同時に発動。


 全力で媚びを売る。


「可愛い♪」


 女剣士は目にもとまらぬ速さでジローから俺をひったくると、そのまま俺をむぎゅーっと抱きしめた。


「ぎにゃっ!(ぐえっ!)」


 ちょっ、苦しいってばよ・・・


 ジローは女剣士の動きを目で追えなかったようで、目を白黒させながら呆然としている。

 ジローも最近かなり強くなってきたが、それでもこの女剣士とはまだかなりの実力差があるようだった。


 しばらくして、ルクスマダの自警団が荒くれどもを引き取りに来た。

 女剣士とヘテロ達も幾つか質問されていたが、それほど時間がかからず解放された。

 自警団の話では、この荒くれどもは元々目をつけられていたそうだ。


 お礼をしたいので食事でもどうか、とレスに誘ってもらったが、女剣士は先を急ぐからと断って颯爽と去っていった。


 なんともかっこいいな。


 ヘテロとタローが女剣士の去る姿を憧憬の眼差しで見ている。

 ジローだけは、いい匂いを漂わせている屋台の方を憧憬の眼差しで見ている。


 ・・・ぶれないな。


 しかし、名前を聞くのを忘れてしまったな。またどこかで会えるだろうか?


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