47. 旅路
夕日が平原を照らしている。
風が強い。遮るものが無いからだろうか?
見渡しても、木々はまばらに存在するだけだった。
「もうすぐ夜ですね。今日はこの辺りで野営しますか」
「ああ、そうだな。タロジロ。その辺から薪を集めてきてくれ」
「了解です」
「おっけ~」
5歳くらいの子供達が、それぞれ近くの木々へと走っていった。
タロジロである。
地上に出てから数日経った。
合間合間にレスから人化の術を教えてもらっていたタロジロも、ようやく人化の術を覚えることができたのだった。
それ以来、タロジロはほとんどずっと人化の術を使っている。亜竜とはいえ竜なので魔力の量がかなりあるらしく、一日中ずっと人化していても問題ないようだ。
ちなみにタロジロは5歳くらいの兄妹だった。
というかジローは妹だった。
さすがに女の子にジローと言う名前はまずいとは思ったのだが、かといって良い名前も急には思いつかない。
とりあえずこの件は良い名が思いつくまで置いといて、俺はレスにタロジロの服と武器を用意してもらった。
タローは自分の身長ほどの大きさの両刃の剣を背中に背負い、ジローはダガーを2つ腰に差している。
俺としては、刀に近い形状の剣を勧めようと思ったのだが、二人ともそれぞれの得物を気に入っているようなのでやめておいた。
今では、やはり旅の合間合間にそれぞれの得物にあった戦い方を教えている。
平原では昼はせいぜい狼っぽい魔獣がうろちょろしているだけだが、夜になると死霊のたぐいがでる。
むかし死んだ人間やモンスターが、土地の魔力に当てられて徘徊するのだそうだ。
彼らは光や熱を嫌うため、夜通し焚火を起こしておく必要がある。幸いな事に平原とはいえ木々が点々と茂っており、焚火の材料には事欠かなかった。
「むかし、この辺りも戦場になりましたからねぇ」
馬車(馬の代わりに地竜が曳いているが)の荷台から鍋や水瓶を下しながら、レスが懐かしげに語った。
昔この平原には魔王国の町や村が幾つか存在していたそうだが、大戦末期に勇者率いる人の軍隊によって全て焼き払われてしまったらしい。
死霊はその頃の魔王軍の犠牲者か、あるいは勇者側の戦死者か。その何れかだろうという事だった。
「兄上、薪を集めてまいりました!」
「リョウ兄、枝持ってきた」
タローは両腕いっぱいに枝を持ってきた。対してジローは両手に掴んだいくつかの枝を俺の目の前に差し出してきた。
タローの持ってきた枝の方が圧倒的に量が多いが、ジローの方が誇らしげだったりする。
「・・・ありがとう。そこに置いて。それと幾つか小分けにして焚火をしよう」
俺は荷馬車の上から猫の姿のまま指示をだした。
タロジロと違って、俺は魔力量の関係から十数分しか人化ができないのだ。
レス曰く、人化の術の維持にはそれほど魔力を使わないそうなので、タロジロの魔力量が多いというよりは単純に俺の魔力量が少ないという事だ。
猫又自体が竜に比べるとかなり弱い魔物らしいから、その辺は仕方ないそうな。
余計なお世話である。
タロジロが幾つかの枝を山型に積んだ。そして、タローが掌から炎を出して火をつける。人化時は手からも炎のブレスを出せるらしい。
異世界って不思議。
簡単な食事の後、タロジロを荷竜車の荷台に寝かしつけた。
夕飯はフライパンで焼いたパンもどきと肉だった。
小麦は平原に野生のものが生えているらしく、それをレスが器用にも風の魔法を使って粉にしたようだ。
小麦が生えているのは、昔この辺りに農村があったことの名残であろうか?
ちなみにレスが使った風の魔法には名前は無いとのことなので、コムギカコナーニナルと命名しておいた。
レスは微妙な顔をしていた。
焚火の向こう側、その遥か遠くに死霊達がうろうろと徘徊しているのが見える。
どこかから狼らしき遠吠えも聞こえた。
・・・さっさと寝よう。
たまに炎を恐れずに襲い掛かってくる死霊や魔獣もいるが、俺ならば寝てても気配を察知して対処できるので問題ないのだ。
ちなみにレスなんかは数日寝ないでも大丈夫らしいので、最近は毎晩寝ずに焚火の番をしてくれている。
俺が荷馬車の上で床に就こうとしたところ、レスが声をかけてきた。
「申し訳ありません、言い忘れてました。明日には目的地のアインベルグにつきます」
「そうか、わかった」
俺はレスに頷いて見せた。
アインベルグというのはかつての魔王国の町であり、交易都市として栄えたところだったらしい。
当時(千年前)はアインベルグから川を挟んで西と南に大きな人間の町があったらしいので、まずはアインベルグに行ってから西か南に行く予定なのだ。
西と南どちらに行くかはまだ決めていない。とりあえずアインベルグに着いてから考えようと思う。




