25. 死闘③ ~遺志と遺産~
俺のスキを突いたつもりなのか、フォルテが大きく息を吸い込んだ。
そして山間に鳴り響くような大音声で吠えた。
周りにいるコボルト達も含めて、その場の生き物たちの動きが一瞬止まる。
しかし俺はアナライズのおかげでそれをある程度予想できており、気合で硬直を逃れることができた。
フォルテは既に上段に大剣を構えている。
俺が硬直している前提なのだろう、その姿は隙だらけだ。
俺はその隙にもう一撃くわえるべくフォルテに向かって跳ぼうと
「っ!」
突如横側から殺気を感じて、俺はその場を飛び退く。
しかし、フォルテの攻撃を躱し一撃を加えることに集中し過ぎていたせいか、それを避けきることはできなかった。
飛来した何かによって、俺は右前脚に浅からぬ傷を負ってしまった。
・・・うかつ。伏兵か?
気配はすでに消えている。
あるいは、気配を消すスキルなのかもしれない。それならば、俺がここまで近距離で攻撃されるまで気付かなかった事も納得がいく。
しかし今は伏兵を気にしている余裕はない。
一旦気持ちを切り替え、フォルテの攻撃に対して身構える。
フォルテの上段からの唐竹割り・・・恐らくスタンスマッシュとかいうスキルを兼ね備えた大剣が目前に迫る。
今から逃げるのは厳しい。というか無理。
俺は被害を最小限に抑えるため、フォルテの一撃を相殺すべく扇一閃の構えを取った。
互いの攻撃が交錯する・・・その直前。
俺の眼前に何かの影が覆いかぶさった。
迎撃に全神経を集中していた俺は、突然の事態に反応できない。
骨肉が抉れる鈍い音とともに、その影・・・"彼女"はゆっくりと崩れ落ちた。
「母様っ!」
「にゃっ!(アンジュっ!)」
アミの悲鳴と俺の声が重なる。
「すまぬな、リョウ殿。こんなことに巻き込んでしまって・・・。どうか・・・皆を・・・頼む・・・」
アンジュは最後にそう言い残し、そして瞼を閉じた。
仰向けに横たわったその背中からは、おびただしい量の血が流れ出ている。
俺はヒールを発動したが、しばらくして止めた。
・・・既にアンジュはこと切れていた。
彼女の体が一瞬淡く儚い光に包まれ、そしてすぐに消えた。
俺は直感的に、魂とか生命力とかいうようなものが、今潰えたのだと感じた。
「ちっ、女狐が。武人同士の神聖なる一騎打ちを汚すとは。つくづく見下げ果てた女よ」
フォルテがアンジュを口汚く罵った。
・・・にゃろう。
「貴様は、つくづく武というものを、はき違えているな」
その"言葉"は、怒りに震える俺の口から漏れたものだった。




