23. 死闘① ~小手調べ~
コボルトリーダーとの一騎打ちまでは持ち込めた。
あとは勝つなり引き分けに持ち込むなりするだけである。
・・・だけ、って言ってもなー。
アンジュの家の前。その広場でコボルト軍に囲まれながら俺とフォルテは対峙した。
2メートルを超える巨躯のフォルテに対して、俺は普通の猫よりもやや小さめの子猫である。
見上げる先のフォルテは、前世に山田に借りた漫画に出てきた、進んで撃ってくる感じの巨人のようだ。
俺が立てた作戦は極めてシンプルなものだった。
とりあえずコボルトリーダーと会話して、会話が通じるようだったら挑発し一騎打ちに持ち込む。
そして、一騎打ちで勝てればコボルトに降伏を促す。
もし引き分けた場合は、口八丁で丸めこんで痛み分けとし和睦に持ち込む。
そして、仮に負けてしまった場合は、俺とアンジュがしんがりを務めながら全員で魔王の倉庫に逃げ込む。
ただそれだけだ。
早い話、この一騎打ちの結果によって妖孤族と俺達の運命は決まるのである。
・・・責任重大だ。
「どうじゃ剣聖殿。余裕そうかの?」
背後からアンジュがのんびりとした声で聞いてきた。
振り返って見たアンジュは、若干不安そうながらも俺の勝利自体は疑っていないように見えた。
「にゃ~?(んー、どうだろうね?せめて人化の術が使えていれば、余裕で勝てるって言えたかもね・・・?)」
「ん?人化?人化が何か関係あるのかの?」
「にゃ~~~(いや、人の姿じゃないと剣すら握れないからさ。剣も握れないで"剣聖"もないよなー、って。まさに猫に小判だね・・・全然違うか。)」
「んんん???リョウ殿。そちは一体何を言っておるのじゃ・・・?」
アンジュは困惑とも動揺とも取れない表情をしている。
・・・ん?あれ?
もしかしてアンジュは、俺が猫の姿のままで剣聖の称号を得たと思っていたのだろうか?
俺がその疑問を口にしようとした時だった。
「いつまで喋っているつもりだっ!怖気づいたのか魔猫よっ!さっさとかかって来んかっ!」
焦れたフォルテが咆えてきた。
「にゃ~ん(キャンキャン咆えるなよ犬ッころ。耳障りだぜ。弱い犬程よく咆えるって本当だな)」
「貴様あっ!殺すっ!」
俺のあおりに対してフォルテは背負った大剣を抜いた。
ま、今更アンジュの誤解を解いても仕方がない。あとはやるだけやってみるだけだ。
俺はフォルテが大剣を抜くと同時に、自身にホルフィズライズをかけた。
俺の全身が淡く白い光に包まれる。
そして、すぐに横に大きく飛び退いた。
フォルテが下段から放った剣戟が、土塊を伴った衝撃波として一直線に進んできていたのだ。
着地後にさっきまでいた場所を見ると、数メートルに渡って線上に地面が抉れていた。
これは、掠っただけでも死んじゃうね。
幸いにしてフォルテの剣技はモーションが大きく、避けるのはそんなに難しくはなかった。
と言うか、俺にとってはむしろ当たる方が難しいくらいだ。
俺はフォルテとの間合いを詰めると、初っ端から大技を放った。
「にゃ!(扇一閃っ!)」
俺の右手の爪が、フォルテの左手首を切り裂く。
俺が地面に着地すると、背後から低いうめき声が聞こえた。
そして俺はそのまま振り返ることなく、今度は右に跳ぶ。
そして再度フォルテの方に向き直る。
予想した通り、さっきいた場所の地面に大剣がめり込んでいて、そこから出た衝撃波が俺を襲った。
余裕を持って完全に避けた攻撃だ。しかし、さしてダメージの無いはずのその衝撃波を浴びた俺は、強いめまいを覚えた。
・・・っ!
何とか気合こめて意識を保つ。なんだ今のは?何かのスキルだろうか?
意識を強引に引き戻した俺は、フォルテの左手首を見た。
若干切り裂かれてはいるが、それはかすり傷程度のものだ。
魔法で物攻を上げた状態で、全力で扇一閃を撃ってもこの程度の傷である。
やはりこれは、だいぶ厳しい戦いになりそうだ。




