22. Provocation !
コボルトは優に100体はいる。
彼らの装備は皮の鎧に石斧や石槍といったみすぼらしいものではあるが、それでもこの数は脅威以外のなにものでもない。それにリーダーとその他数名は金属製とおぼしき武器を装備していた。
対して、こちらはアンジュとその子のアミ、あとは俺とタロジロだけでこの場に残っていた。
アンジュは黒地に金で装飾された鞘に入った短剣を、アミは同じく長剣を持っていたが、俺とタロジロに至っては素手である。
コボルト達との戦力差は分析するのも馬鹿馬鹿しいほどにひらいている。
彼等全員を一度に相手にするような状況だけは、絶対に避けなければならない。
ちなみに、この場にいない妖孤の怪我人達は、アンジュが回復魔法である程度回復させた後に、キョウカと子狐達と供に山の中に避難させていた。
明日の朝までに誰も迎えに来なければ、魔王の倉庫の入り口を目指すように言ってある。
もしこの場でコボルト達とのやり取りがうまくいかなかった場合は、俺達も迷宮に落ちのびる予定だ。
まあ、コボルト達が来るまでの数分間でここまで事を運ぶことができたのだから、上出来と言えると思う。
あとはこの場でコボルト達に上手く対処するだけだ。
・・・言うは易しって感じだね。
さて、ここ数日でアンジュに聞いた話では、コボルトという種族は意外にも武と義にあつい種族らしい。
ただし、武を重んじるあまり相手にも潔さを求めるため、基本的に捕虜はとらず降伏も許さないそうだ。
要するに敵は有無を言わさず皆殺し、ということである。
武ってそういうものじゃないと思うんだけどね・・・。
しかし彼らが武と義を重んじるのであれば、俺にはこの状況を打開する案が一つだけ思い浮かんでいた。
「にゃ~(コボルトのリーダーのフォルテ殿と言ったな。割り込むようで悪いが、少しばかり俺の話を聞いてもらえないだろうか?)」
「ん?・・・ほう、魔猫か。魔狐族にも大魔王の子孫がついていたとはな。我に何ぞ用か?」
よし、話は聞いてもらえた。
とりあえず第一関門は突破である。
コボルトリーダーのフォルテが言った"そちらにも"というのが少し気になりはしたが、ここでそれを気にして話の流れを断ち切るわけにもいかない。
俺は予定どおり話を進めることにした。
「にゃにゃ~(魔狐側は多くの戦士を失っており既に勝敗は明らかだ。こちらにはもう女子供しか残っていない。降伏をするので身の安全を保証してくれないだろうか?)」
俺の言葉を聞いたフォルテは、見る見るうちに機嫌が悪くなっていった。
「ふんっ、要は命乞いか。魔猫を仲裁に用いるとは卑怯な狐の考えそうなことだな。そのような奸計は誇り高き狼王族には通じぬと心得よっ!」
フォルテが咆えると、その振動で家が震えた。
「にゃっ?(誇り高き、ね。無抵抗な相手の命を奪う事が、君たちの誇りだというのか。コボルト族は武と義を重んじると聞いたが、どうやら武の意味をはき違えているらしいな?)」
「・・・貴様。魔猫と思って下手に出ればつけあがりおって!この我に、狼王の気高き血を持つ我に、非力な猫風情が武を語れるとでも思っているのか!?」
「にゃ~(ああ、語れるともさ。なぜならフォルテ君。俺の方が、君より遥かに強いのだから)」
「・・・その言葉。我に喧嘩を売っていると取って相違ないか?」
意外にもフォルテは、それまでとは違い声を荒げず冷静に応じてきた。
・・・あまり冷静になられると、この後の展開で困るのだが。
いや、あるいは冷静に見えて既に怒りを通り越しているのかもしれない。
「にゃにゃ~ん?(ああ、売っているとも。なんだったら今すぐ力の差を見せてやろうか?もっとも、君に俺と一騎打ちをする度胸があれば、だけどね?)」
「・・・面白い。その申し出受けてやろうではないか。貴様、簡単に死ねると思うなよ?」
・・・うん。
やはりフォルテは、冷静なように見えてその内では今にも爆発しそうなほどに怒り狂っていたようだね。
良かったような、良くなかったような。
まあなんにせよ、俺の思惑通りフォルテとの一騎打ちには持ち込めたようだ。




