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転猫  作者: 相川秋実
第一章
17/137

17. いひっ!

扉の先の大広間には、大きな椅子に女性が一人座っていた。


そして傍らには小さな女の子と、その周りには十数匹の子狐がいた。

どうやら先ほど俺達が追っていたのは、この子狐の中の一匹だったようだ。

「おや、これは懐かしい。まさか事ここに至って魔猫様に会うことになろうとは」

女性は俺を見るなりころころと笑った。

「にゃ~?(魔猫"様"ってなんだよ?)」

「ふふ。我ら魔に属する者にとっては、魔猫族というのは特別な存在なのじゃよ」

女性は俺に向かってにっこりと微笑みかけてきた。

お?言葉通じた?

ダメ元で話しかけたのだが、どうやらこちらの言葉が分かるらしい。

「わらわは念話が使えるのじゃ」

彼女は俺の疑問を察して、そう答えてくれた。

そんなスキルがあるのか。ぜひとも身につけたいな。

「さて、挨拶が遅れたの。わらわはアンジュ、この村の長じゃ。何もない村じゃが歓迎するぞ若き魔猫様」

彼女はそう言うと、どこか寂しそうに微笑んだ。


アンジュと名乗った女性は、ややつり目な端正な顔立ちをしており、腰まで届く銀の長髪に雪のように白い肌をしていた。

頭の上のケモミミと腰から出ているしっぽ以外は、普通の人間と同じ格好だ。

いわゆる妖孤という奴だろうか。

外見からは二十代後半くらいに見えるが、上品な物腰からはどこか見た目以上の年の積み重ねを感じる。

一見して妖怪のようだから、見た目どおりの年齢ではないのかもしれない。


とりあえずアナライズしてみた。


名前:アンジュ

属性:火

種族:魔孤族 仙孤

称号:三尾

ノーマルスキル:アナライズ(中)、念話、人化の術、魅了(中)、炎のブレス

魔法:ホルフィズライズ、ホルマギライズ、ヒール、ホルヒール、キュア、ホルキュア、火炎弾、火炎の壁、炎海


・・・強いな。

スキルもさることながら、使えそうな魔法もかなり持っている。

念話のスキルも気になったが、俺にはそれより気になることがあった。


「して、貴方様の名はなんというのかね?」

アンジュの口から出た唐突な、しかし当然の質問に対して俺は一瞬固まった。

「・・・にゃ(リョウと呼んでくれ。様はいらない)」

俺はとっさに思いついた名前を発した・・・が、なんかしっくりくるな。

案外、リョウというのは前世の名前に近いのかもしれない。

「ふむ。ではリョウ殿と呼ばせてもらおうか。して、リョウ殿はどちらからいらしたのかな?」

「にゃ~?(洞窟を通ってきた。というか、洞窟で生まれて、初めて出た地上がこの辺りの山だった、と言った方が正確かな?)」

「・・・ふむ。あの洞窟を通って来られたか。なるほど。なるほど」

なにやらしきりに、ひとり頷くアンジュ。

「にゃ?(俺からも聞いていいか?)」

「なんでも聞くがよいさね」

アンジュがゆっくりと頷く。

せっかくなので、俺はさっきから気になっていた疑問をぶつけてみることにした。

「にゃ?(それって耳が4つあるのん?)」

「・・・ん?ああ、この姿の事か。いかにも。これは狐の耳と人化の時の耳が2対ずつあるのじゃ。ちゃんと全部聞こえておるぞ?なかなかお得じゃろう」

アンジュは再びころころと笑った。


・・・まぢか。


つまり、同時に4方向からの音を拾うことができるのか。

4Kも真っ青の性能である。あれはテレビか。

ん?てか、人化の時の耳って?そういえば何かそんなスキルが・・・

「にゃ?(人化の術って何?)」

「ん?ああ。文字通り人に化ける術じゃよ。わらわも元の姿は、こ奴らと同じく狐での。この姿は人化の術をもって化けておるのじゃ。もっとも今は、半人化をしている状態じゃがの。ほれ、人型でありながら狐の耳だけでなくしっぽも生えておろう?」

アンジュは椅子から脇に出したしっぽを振って見せた。


アンジュ曰く、人化をすれば道具を利用できたりするので便利ではあるが、完全な人化は窮屈なのだそうだ。また、人化により魔狐のスキルが劣化することもあるので、半人化の状態が一番使い勝手が良いらしい。

「にゃ?(人化の術って、どうやれば使えるんだ?)」

「我が魔狐族であれば、訓練すれば誰でも使えるようになるが・・・。リョウ殿も魔猫族だから、訓練すればさほど時間をかけずに習得できるじゃろう。人化の術はそれほど難しい術ではないからの」

「にゃ~(おー、それはぜひ学びたいな。できれば念話も習得したいが・・・)」

「念話もリョウ殿であれば訓練すれば簡単に身につくと思うが・・・。ふむ。ではリョウ殿。もし急ぎの用が無いようであれば、しばらくここに滞在してはどうじゃろうか?滞在中に人化の術と念話を習得していくがよかろう」

「にゃ~(それはありがたい。行く当ても無いし、ぜひお願いしたい)」

「ほっほ。交渉成立じゃの。では滞在中はうちに泊まると良い。部屋なら沢山空いておるからの」

アンジュはにっこりと微笑んだ。

隣に控える女の子と周囲の子狐達も、嬉しそうに表情を綻ばせている。


その日の夜は、アンジュが歓迎の宴を開いてくれた。


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