17. いひっ!
扉の先の大広間には、大きな椅子に女性が一人座っていた。
そして傍らには小さな女の子と、その周りには十数匹の子狐がいた。
どうやら先ほど俺達が追っていたのは、この子狐の中の一匹だったようだ。
「おや、これは懐かしい。まさか事ここに至って魔猫様に会うことになろうとは」
女性は俺を見るなりころころと笑った。
「にゃ~?(魔猫"様"ってなんだよ?)」
「ふふ。我ら魔に属する者にとっては、魔猫族というのは特別な存在なのじゃよ」
女性は俺に向かってにっこりと微笑みかけてきた。
お?言葉通じた?
ダメ元で話しかけたのだが、どうやらこちらの言葉が分かるらしい。
「わらわは念話が使えるのじゃ」
彼女は俺の疑問を察して、そう答えてくれた。
そんなスキルがあるのか。ぜひとも身につけたいな。
「さて、挨拶が遅れたの。わらわはアンジュ、この村の長じゃ。何もない村じゃが歓迎するぞ若き魔猫様」
彼女はそう言うと、どこか寂しそうに微笑んだ。
アンジュと名乗った女性は、ややつり目な端正な顔立ちをしており、腰まで届く銀の長髪に雪のように白い肌をしていた。
頭の上のケモミミと腰から出ているしっぽ以外は、普通の人間と同じ格好だ。
いわゆる妖孤という奴だろうか。
外見からは二十代後半くらいに見えるが、上品な物腰からはどこか見た目以上の年の積み重ねを感じる。
一見して妖怪のようだから、見た目どおりの年齢ではないのかもしれない。
とりあえずアナライズしてみた。
名前:アンジュ
属性:火
種族:魔孤族 仙孤
称号:三尾
ノーマルスキル:アナライズ(中)、念話、人化の術、魅了(中)、炎のブレス
魔法:ホルフィズライズ、ホルマギライズ、ヒール、ホルヒール、キュア、ホルキュア、火炎弾、火炎の壁、炎海
・・・強いな。
スキルもさることながら、使えそうな魔法もかなり持っている。
念話のスキルも気になったが、俺にはそれより気になることがあった。
「して、貴方様の名はなんというのかね?」
アンジュの口から出た唐突な、しかし当然の質問に対して俺は一瞬固まった。
「・・・にゃ(リョウと呼んでくれ。様はいらない)」
俺はとっさに思いついた名前を発した・・・が、なんかしっくりくるな。
案外、リョウというのは前世の名前に近いのかもしれない。
「ふむ。ではリョウ殿と呼ばせてもらおうか。して、リョウ殿はどちらからいらしたのかな?」
「にゃ~?(洞窟を通ってきた。というか、洞窟で生まれて、初めて出た地上がこの辺りの山だった、と言った方が正確かな?)」
「・・・ふむ。あの洞窟を通って来られたか。なるほど。なるほど」
なにやらしきりに、ひとり頷くアンジュ。
「にゃ?(俺からも聞いていいか?)」
「なんでも聞くがよいさね」
アンジュがゆっくりと頷く。
せっかくなので、俺はさっきから気になっていた疑問をぶつけてみることにした。
「にゃ?(それって耳が4つあるのん?)」
「・・・ん?ああ、この姿の事か。いかにも。これは狐の耳と人化の時の耳が2対ずつあるのじゃ。ちゃんと全部聞こえておるぞ?なかなかお得じゃろう」
アンジュは再びころころと笑った。
・・・まぢか。
つまり、同時に4方向からの音を拾うことができるのか。
4Kも真っ青の性能である。あれはテレビか。
ん?てか、人化の時の耳って?そういえば何かそんなスキルが・・・
「にゃ?(人化の術って何?)」
「ん?ああ。文字通り人に化ける術じゃよ。わらわも元の姿は、こ奴らと同じく狐での。この姿は人化の術をもって化けておるのじゃ。もっとも今は、半人化をしている状態じゃがの。ほれ、人型でありながら狐の耳だけでなくしっぽも生えておろう?」
アンジュは椅子から脇に出したしっぽを振って見せた。
アンジュ曰く、人化をすれば道具を利用できたりするので便利ではあるが、完全な人化は窮屈なのだそうだ。また、人化により魔狐のスキルが劣化することもあるので、半人化の状態が一番使い勝手が良いらしい。
「にゃ?(人化の術って、どうやれば使えるんだ?)」
「我が魔狐族であれば、訓練すれば誰でも使えるようになるが・・・。リョウ殿も魔猫族だから、訓練すればさほど時間をかけずに習得できるじゃろう。人化の術はそれほど難しい術ではないからの」
「にゃ~(おー、それはぜひ学びたいな。できれば念話も習得したいが・・・)」
「念話もリョウ殿であれば訓練すれば簡単に身につくと思うが・・・。ふむ。ではリョウ殿。もし急ぎの用が無いようであれば、しばらくここに滞在してはどうじゃろうか?滞在中に人化の術と念話を習得していくがよかろう」
「にゃ~(それはありがたい。行く当ても無いし、ぜひお願いしたい)」
「ほっほ。交渉成立じゃの。では滞在中はうちに泊まると良い。部屋なら沢山空いておるからの」
アンジュはにっこりと微笑んだ。
隣に控える女の子と周囲の子狐達も、嬉しそうに表情を綻ばせている。
その日の夜は、アンジュが歓迎の宴を開いてくれた。




