第4話 ユウナとネコさんたちの街の防衛(防衛完了編)
今、私とネコさんたちとヨナさんはカーヤの街に進攻している魔物たちを討伐すべく、定位置につきました。私たちがいる場所はカーヤの街の東門に比較的近いのですが、他のワイバーン討伐担当の『古木の弓』と『水の斧』のパーティーメンバー及び支援者は、すでに街から離れた場所に位置していますね。カーヤの街から『古木の弓』が一番遠く、『水の斧』、そして私たちと近くなっています。ラルフさんたち、魔物の群れの討伐要員は私たちよりさらに後方に位置し、3体のワイバーンを群れから切り離したことを確認してから突撃する段取りです。
「ユウナ、ワイバーンは物理攻撃と魔法攻撃に耐性があるけど、土属性が弱点。そして物理魔法攻撃には耐性がない」
ヨナさんからは私が先ほど知ることとなった情報が告げられました。私は近づいてくるワイバーンに対して視線を合わせます。
【ワイバーン(ドラゴン族)・物理耐性の才能(初級)・魔法耐性の才能(初級)・風耐性の才能(初級)・自己再生の才能(小)・弱点(土属性)】
すると遠くに見えるワイバーンの横に、パソコンなどで見られるウィンドウのようなものが浮かび上がり説明文が表示されました。ヨナさんの説明と一致していますね。これは『女神の加護の魔眼(小)』の能力によるものなのですが、私は先ほどまで知りませんでした。というのも実は女神長様経由で貰った『女神の加護の魔眼(小)』について、うかつにもギルドカードで説明を確認していなかったのです。何故かというと、女神長様直々に「ユウナ・イチノセは視力・動体視力について常人より優れたものを得るでしょう」と説明してもらったからです。視力と動体視力が上がったから他の能力を得たと思ってもいませんでした。本当にうかつですよね。ギルドカードに表示された『女神の加護の魔眼(小)』をタップします。
『女神の加護の魔眼(小)』
女神の加護により魔眼を得る。視力と動体視力が上昇する(効果:小)。
使用可能スキル:アナライズ
続いてアナライズをタップします。
『アナライズ』
意識して見ることで敵の情報を表示する。表示される情報量はスキル使用者の能力により左右される。スキル対象者の抵抗力により情報が制限されることもある。
RPGゲームの定番のアナライズですね。いえ、今では定番は鑑定でしょうか?このアナライズは敵に限定されているので味方であるヨナさんや、装備品を見ても情報は出てきませんでした。…ヨナさんと敵対すれば情報を得ることが可能なのでしょうか?まぁ、そのようなことはないですけどね。…ないですよ!!『女神の加護の魔眼(小)』を得た後に戦闘になったのはマイホームを手に入れるきっかけになったゴースト戦だけですが、天使ネコさんによる華麗なサーチ・アンド・デストロイにより意識してゴーストを見る暇がありませんでした。ところで、ヨナさんの説明でわからないものが1つありました。
「あの物理魔法攻撃とはなんですか?」
「物理攻撃に似た属性の無い魔法攻撃のこと。でも、物理攻撃でも魔法攻撃でもない不思議な攻撃。エルフネコさんたちが使う魔力を変換してできた武器による物理攻撃も実は物理魔法攻撃に含まれる。ヨナのサジタリウスの矢もそう。もちろん魔法攻撃だけに魔法の中にも物理魔法攻撃はあるがとても珍しい。とある種族が使うことで有名」
「とある種族ですか?」
「そう。でも、ユウナが見ることはない。もう、滅んだと言われている種族だから」
滅んだ種族?なら、確かに見ることはできないですね。しかし、魔力によって造られた武器とはいえ、物理魔法攻撃とはややこしいです。
「つまりエルフネコさんたちの攻撃はワイバーンの耐性を無視できるということですね」
「そう。ゴブリンキングと対峙した時のエルフネコさんの攻撃は強力だとミラから聞いた。ワイバーン相手でも有効打を与えられるはず。しかも地上に落とせばネコさんたちも有効打を与えられる」
えっと、ヨナさんが私たちがワイバーンを倒せると確信した理由は、私がアナライズで得た情報から考えた攻撃方法とは違ったようです。
「でも、ユウナが協力した方がよりダメージを与えられる。さっき言ったようにワイバーンは土属性の攻撃が弱点」
「えっ?それはもしかして…私の土魔法の魔力を元にエルフネコさんが行う土属性攻撃ですか?」
「おー、正解。ユウナは属性攻撃のことを知っていて賢い。でも、ヨナの秘策を知っていて残念」
えっと、本当は正解でした。私がアナライズの情報の中で注目したのは『弱点(土属性)』の部分だったのです。エルフネコさんが合流した時に見せてくれたギルドカードには魔弓の説明がこうありました。
『魔弓の才能』
魔力を物質変換して弓を造ることができる。魔力を込めながら弦を引くと魔法の矢が現れ、魔力量により矢の威力は増減する。魔力の性質により属性攻撃が可能になる。
最後の一文に魔力の性質により属性攻撃が可能になるとあります。ネコさんの『魔爪の才能』にもありましたね。実は属性攻撃といういかにもファンタジーで魅力的な響きに興味を覚えて時間のある時にルゥちゃんに教わりに行ったことがあります。通常は自分が扱える属性魔法の魔力や、属性を帯びている魔石を元に属性武器を具現化するそうなのですが、他者の魔力を元に造り出すことも可能なのです。ただ、それには条件があって魔力を提供する側の魔法制御力が高いことと、お互いの魔力の相性が良いことが必要とされます。
「ユウナは魔法制御力が高い。ネコさんたちと仲が良いから魔力の相性もいいはず。もしも失敗してもヨナの土の魔石を使えばいい」
なるほど、私たちをワイバーン討伐に推薦した時に「ユウナたちは仲が良い」から大丈夫と言ったのは、こういう理由があったのですね。
「属性攻撃はルゥちゃん…魔法の先生に教わって実際に使ったことがあるので大丈夫です」
『妖精の針子』ではネコさんと実際に練習させてもらい、エルフネコさんとはマイホームを手に入れて数回だけですが自主的に練習しました。
「ルゥは『妖精の針子』の新しい店主のこと?あの天才児が先生なら問題ない」
「ヨナさんはルゥちゃんを知っているのですか?」
「『妖精の針子』は先代店主の時によく利用している。だから、孫のルゥともよく会うから友達になった。ルゥは幼くなくして魔法学園に入学卒業したことから天才児と知れ渡っている。でも、それ以上に祖母のルシアさんが有名」
「確かルシアさんは魔装技師として一流なのですよね」
「それ以外でも有名。ルシアは生産職である魔装技師にしてSランクの冒険者」
「えっ!!ルシアさんってSランクの冒険者なのですか!?」
「にゃふ!?」
意外な事実に私とネコさんたちは思わず驚きの声を上げてしまいました。確かSランクの冒険者は世界に十数名しかいないとノーラさんが言っていたはずです。
「ユウナたちは知らなかった?そう。過去に起こった帝都の危機を救った立役者の1人。ただ本職の生産職より冒険者としての知名度が上がってしまったことに嫌気がさして、冒険者を辞めようとした。そうしたら冒険者ギルドの幹部連中が土下座をして引き留めた話は有名」
「そういえば、ルシアさんは冒険者登録だけはしていると言っていましたね」
「ユウナはルシアさんと会ったことがある?」
「先ほど会いましたよ…って、ルシアさんがSランクの冒険者なら防衛戦参加の依頼が行われているのでは!?街に入る時に身分確認されていますよね」
「ユウナ、残念だけどそれは無理。Sランク冒険者へ直接依頼できるのは国王クラスの権力者だけ。緊急クエストでも例外ではない。Sランクの冒険者が行動すればいろいろなバランスが崩れることが原因。あと、Sランク冒険者のギルドカードは素性を隠すために架空の人物の情報を表示する機能がある。Sランクの冒険者が移動すればそれだけで騒ぎになることから配慮されている。それにルシアさんが顔を隠して門を通過していたら、戻ってきていることにも気づかない」
「えっ!?門って顔を隠して入れるのですか?」
「ユウナ、これも知らなかった?ギルドカードは他人には使えないから、ギルドカードの情報を提示できた時点で本人だと証明したことになる。そもそもギルドカードに所有者の顔の絵は描かれていないから、顔を見ても本人確認にはならない。もちろん、凶悪事件などが起これば顔の確認など一時的に警備強化はされる」
「そうだったんですか…才能などの表示を隠せると説明は受けたのですが」
「ギルドカードは本人以外が所持していたら情報は表示されない。なりすましを防ぐための技術。本人が見せる意思を持って、一時的に手渡した場合は例外。あとギルドなどが持っている専用の道具を使えば強制的に情報を提示できる」
よくよく考えるとタップして新たな情報を表示したりする技術があるのですから、そういったなりすまし対策などがあっても不思議ではないですね。ただ、ノーラさんも説明してくれていたらよかったのに…やっぱり、ドジっ娘?
「今の時点でルシアさんの噂が出ていないからユウナとネコさんたち以外は気づいていない。ルシアさん自身も防衛戦に参加する意思はないと思う」
冒険者が多いから大丈夫だろうとルシアさんは言っていたので、ヨナさんが考えている通りなのでしょう。
「話がそれてしまった。ユウナとエルフネコさんで土属性の攻撃ができるのなら、ワイバーンは必ず倒せる。…そろそろ『古木の弓』がワイバーンに攻撃をしかける」
「あっ、本当ですね」
遠く離れた位置にいる『古木の弓』ですが魔眼によって行動が見て取れます。どうやら、ヘイトを集めるマジックアイテムを付けた一撃は命中したようで、先頭のワイバーンのみが群れから離れて『古木の弓』へと襲い掛かっていきました。ワイバーンへ矢や魔法などが放たれてダメージを与えているようです。
「あっ!!ワイバーンが墜落しました」
ワイバーンとの戦闘開始から数分で地上に落とすことに成功したようです。
「流石はBランクパーティー。だけど、本番はここから。羽はワイバーンの中では傷つけやすい部位。でも、本体はとても固い。手間取っていると羽の傷が治って飛行してしまう」
ゴブリンキングも持っていた『自己再生の才能(小)』によるものですね。しばらくすると、『水の斧』がワイバーンへ攻撃を開始する位置に魔物の群れが到達しました。
「次は『水の斧』が攻撃を仕掛けた。ワイバーンの誘導成功。…あの弓使い、意外と強い。」
「えっと、魔弓エクスカリバー(嘘)の使い手の方ですね。あれ?放たれた1本の矢が複数に分裂したり、外れたはずの矢が軌道を変えてワイバーンに命中しましたよ?えっと…『古木の弓』より早く撃墜しましたね」
「嬉しい誤算。支援者も多いから2体目は確実に片が付くと思う。あと、10分もすればユウナたちの番」
「そうですね。そうだ、ドワーフネコさん良ければギルドカードを見せてもらってもいいですか?『才能』と『加護』を確認したいのですが」
「にゃぷっと」
先ほど自分のギルドカードの確認を怠っていたことを反省したのですが、よく考えるとドワーフネコさんと出会ってから『才能』と『加護』の確認をしていませんでした。ドワーフネコさんは快くギルドカードを提示してくれます。
「えっと、『魔槌の才能』や『女神の加護』がありますね。…そういえば、ドワーフネコさんはスキルを持っていますか?」
私が持っているスキルは【アナライズ】だけです。『女神の魔眼の加護』の説明項目の中にスキルとして表示がありました。でも、『魔槌の才能』にはスキル表示はありませんでした。
「にゃぷっと。にゃぷにゃぷ」
ドワーフネコさんはギルドカードをタップ操作をして、また提示し直してくれました。
「えっと、これはスキル一覧ですね。そのような便利な機能があったのですか」
スキル一覧というタイトルの下にはお馴染みの【クリエイトツール】や、初見の【フルスイング】といった文字が並んでいます。そういえば、先ほどのヨナさんの説明でギルドカードは『本人が見せる意思を持って、一時的に手渡した場合は例外的に情報が表示される』と教えてくれました。試しに【フルスイング】の項目をタップしてみます。
【フルスイング】
スキル発動後の最初の一撃の威力が上昇する。威力の上昇はスキル発動後から攻撃までの時間経過に比例するが、威力上昇の上限値はスキル使用者の通常攻撃力の3倍となる。代償にスキル発動後は移動速度が低下する。
これはボス戦にピッタリのスキルですね。
「ありがとうございました」
「にゃぷっと」
スキル一覧に軽く目を通し、ギルドカードをドワーフネコさんに返します。
「…ユウナ、ちょっといい?ユウナはネコさんたちのギルドカードを確認していなかった?」
「えっと、ドワーフネコさん以外のギルドカードは見せてもらっていました。ただ、スキル一覧があることは今初めて知りました」
私の返答にヨナさんが神妙な表情を浮かべます。
「…ところでユウナ、ワイバーンとの戦闘に緊張している?」
「えっと、あの…はい、緊張といいますか…怖いと思っている…のでしょうか?」
表現しにくいのですが、怖くて逃げだしたいという気持ちはありません。ただ、不安というか、現実感がないというか、もやもやした感覚がくすぶっています。
「…ユウナは冒険者のルーキー特有の病気にかかっている」
「え!?病気ですか?」
「病気といっても心の病気。ユウナは戦闘行為に対して感情がマヒしている」
「感情がマヒ?」
「そう。ルーキーが実力以上の敵を倒したら、次の戦闘も大丈夫だろうと思ってしまう。」
「えっと、そのようなことはありません。私は冒険者として素人ですし、初級魔法が使える以外には力はありません。弱い魔物相手でも倒されることはあると思っています」
「そう。ユウナは賢いから自己評価はできている。それは間違いない。でもそれなら、ユウナはなぜBランクの冒険者に襲われたときに戦うことを選んだ?」
「それは…街外れで襲われて周辺に人がいなかったからです。逃げ切ることもBランクの冒険者相手だと難しいと思いました」
「その考えも正しいと思う。でも、大声を上げたり、魔法を上空に放ったりして助けを呼ぶこともできたはず」
「あっ…」
確かにヨナさんの言うとおりです。ザインに襲われた時、私がネコさんに構えるように指示を出しました。ノーラさんからBランクの冒険者の強さの説明を受けていたにも関わらずです。今にして思えば、正解不正解は置いておいて、状況を判断したうえである種冷静に戦うことを選びました。
「実はラルフからある相談を受けていた。最近知り合ったユウナという少女がよくトラブルに巻き込まれていると。だからヨナはユウナに会いに行った。ユウナと接していると心優しくて、賢くて、いい子だとわかった。でも、おかしなことがある。ユウナは危険なことには近づきたくないと思う慎重な性格。戦闘を意識していないから、現にドワーフネコさんの『才能』や『加護』の確認を今この場で初めて行ったほど。冒険者ならパーティーになった時点で戦力として確認するはず。ユウナは魔物との戦闘を想定して生活していない証拠」
「あっ!?」
確かにヨナさんの言う通りです。異世界転移・転生モノの小説なら、ステータスやスキルの確認を頻繁に行う描写は多くありました。それなのに私といえば必要に迫られた時点でしか確認していません。
「なのに、ユウナはゴブリンキングと戦闘になったり、Bランクの冒険者に襲われたり、幽霊屋敷の依頼を受けたりしている。そして今は街の防衛戦でワイバーン討伐の主要ポジションについている。ユウナはその性格と反して戦闘が多い」
「えっと、でも、ワイバーンとの戦闘はヨナさんが推薦したのではないですか?」
「ヨナは後押しをしただけ。本当にしたの…時間切れ。ワイバーンが戦闘開始範囲に近づいてきた。話の続きはまた後で。ヨナはユウナに嫌なことを言ったけど、意地悪をしたいわけではない」
あっ、ヨナさんが悲しそうな表情をしています。
「ヨナさん、大丈夫ですよ。ヨナさんが私を心配してくれていることはわかります。ただ、何故このタイミングで告げられたのかに戸惑っていただけです」
「にゃむっと。にゃむむ」
「ユウナ、エルフネコさん、ありがとう。ヨナは今回のワイバーンとの戦闘でユウナが魔物との戦闘に対し、本当は積極的なのか消極的なのか知りたかった。結論はあやふや。いろいろな状況が降りかかりすぎて、最終的に答えが出せなかった。だから、この戦闘の後に落ち着いたら真実を確認する。ユウナの選択はユウナ本人によるものなのか、外的要因によるものなのか。でも、今はワイバーン討伐が最優先。ユウナ、エルフネコさん、土属性攻撃でまずは翼を攻撃する」
話をしているうちに、魔物の群れが私たちが攻撃を仕掛ける地点付近まで進んでいました。ヨナさんが言っていたことを考えると、ある結論が即座に頭に浮かびました。でも、今はワイバーン討伐が最優先です。ヨナさんが言うように結論は、この戦闘が落ち着いてからにしましょう。…でも、これも戦闘ありきの考えですね。…とにかく今はワイバーンの討伐だけを考えましょう!!
「えっと…そうですね。エルフネコさん、いけますか?」
「にゃむっと」
エルフネコさんは頷くと魔弓を具現化させました。同じく具現化した矢の先端にヘイトを集めるマジックアイテムの袋を結び付けてあげると、照準をワイバーンに合わせました。
「ネコさん、天使ネコさん、ドワーフネコさん、準備は良いですか?」
「にゃふっと」「にゃきゅっと」「にゃぷっと」
ネコさんたちは頷き、ヨナさんも先ほど装備した最強装備のままでいざという時に備えてくれています。
「エルフネコさん、お願いします」
「【にゃーむにゃむ】、【にゃむむ―】」
エルフネコさんは頷くと、スキルを使用したようでヨナさんと同じように目や身体がスキルの光に包まれました。
「にゃむー!!」
エルフネコさんは一鳴きすると矢を放ちました。放たれた矢はまだ離れた場所を飛行しているワイバーンの頭部へ見事に命中します。すると、先端に付けていた袋が衝撃で破れ、光り輝く粉がワイバーンに降りかかりました。
「成功。ワイバーンが向かってくる。まずはワイバーンを地上に落とす」
「わかりました、ヨナさん。エルフネコさん、頑張りましょう!!」
「にゃむっと!!」
▽▽▽
マジックアイテムの効果によりワイバーンだけが近づいてきました。距離はまだ十分にありますが、大きく感じます。小型のドラゴン種とのことですが、翼を広げた長さは5メートル以上でしょうか?かなりの迫力です。
「エルフネコさん、いきますよ」
「にゃむー」
私が使える土魔法は初級魔法の【クレイ】。ゴブリンキング戦で使いましたが、魔法制御力が高いと事前に魔法を発動してその場に待機させておくことが可能です。その要領でエルフネコさんの前に土属性の魔力を浮かべます。ここで難しいのが魔法の【クレイ】そのものでなく、【クレイ】を形作る前の土属性の魔力でないといけないということです。【クレイ】は土属性の魔力を加工し終わった後の完成品です。完成した魔法は形を変えることはできないそうなので、私がエルフネコさんに提供するのは【クレイ】を形作る前の材料である土属性の魔力そのものでないといけないのです。土属性の魔力なら他者であるエルフネコさんが土属性の魔弓を造る材料として使うことができるそうなのです。
「…エルフネコさん!!」
「にゃむっと!!」
私はエルフネコさんの前に【クレイ】を形作る前の魔力をイメージして待機させます。すると、エルフネコさんはその魔力を引き寄せ魔弓の材料として形づけました。
「にゃむー!!」
エルフネコさんが一鳴きすると、その手には岩を加工してできたかのような弓が握られています。成功ですね。
「エルフネコさん、射って下さい!!」
「にゃむっと。…【にゃむむにゃむー】」
エルフネコさんの一撃は先ほどのヨナさんの一撃と同じように螺旋をえがきながらワイバーンの片翼へと飛翔していきます。
ザシュ!!
「凄い!!ワイバーンの片翼を貫きました」
ワイバーンは片翼にダメージを受けたことで飛行が不安定になっています。しかし、墜落には至っていません。
「エルフネコさん、もう一撃放つ」
「にゃむっと。【にゃむむにゃむ―】」
エルフネコさんは先ほどと同じ一撃を反対側の翼へ打ち込みました。
ザシュ!!
「あっ、墜落しました」
ワイバーンは轟音を響かせ、見事に地面へと打ち付けられます。撃墜成功ですね。
「これからが本番。ユウナ、エルフネコさんたちに指示を出す。ゴブリンキング戦の時はユウナが作戦を考えたと聞いた。今回も頑張る」
「えっと、わかりました」
私たちが戦うことが決まってからワイバーンとの戦う方法はある程度考えていたのでヨナさんの言葉にも戸惑いはありませんでした。でも、これもルーキー特有の病気のせいでしょうか?いえ、今はそのことは置いておいてネコさんたちに指示を出しましょう。急がないとワイバーンの傷が回復してしまいます。
「それでは…エルフネコさんは翼のダメージ回復に注意していてください。攻撃は援護をメインに、先ほどのスキル攻撃を数回は放てる程度に余力を残しておきましょう」
「にゃむっと」
「天使ネコさんは回復役としてネコさんたちの上空で待機してください。攻撃はエルフネコさんと同じく援護程度で【セイント】を放って下さい」
「にゃきゅっと」
「ネコさん、今から土属性の魔爪を造りますよ」
「にゃふっと」
ネコさんへの属性魔力譲渡はルゥちゃんの家で何回も練習しています。エルフネコさんの時と同じ要領で土属性の魔力を待機させると、ネコさんは簡単に岩で出来た爪を造り上げました。
「ドワーフネコさんも土属性の武器を造りますか?」
ドワーフネコさんとは属性魔力譲渡の練習をしていません。ネコさんたちと同じように魔力の相性はいいはずですが、本人に確認してみます。
「にゃぷぷ」
ドワーフネコさんは首を横に振りました。職人気質なドワーフネコさんだからぶっつけ本番はいやなのでしょうか?どうやらノーマルの魔槌で戦闘を行うようです。
「では、役割ですがメインアタッカーはドワーフネコさん。ネコさんはスピードを活かした攻撃でワイバーンのかく乱。エルフネコさんと天使ネコさんと私は援護射撃を行います。ただメインアタッカーであるドワーフネコさんの攻撃がワイバーンに対してどれだけ有効打となるのかわかっていません。まずは、一撃を入れてほしいのですが、大丈夫ですか?」
「にゃぷっと」
「では、ドワーフネコさんの攻撃によるダメージで私たちでワイバーンが討伐可能か判断しましょう。では…必ず生きて帰りましょう!!」
「にゃふっと!!」「にゃむっと!!」「にゃきゅっと!!」「にゃぷっと!!」
今回はゴブリンキング戦と違って特別な策は無く、正攻法での勝負です。私の知識から参考にするのは行動選択式のRPGゲームではなく、リアルタイムにマイキャラクターと敵キャラクターが動くアクションゲームです。攻撃によるダメージもそうですが、ワイバーンの攻撃を回避できるかも重要です。先ほどした指示の通り、ドワーフネコさんが一撃もそうですが、それまでの攻防も参考に討伐が可能なのかの判断をしなければいけません。
「まずは私たち援護組が攻撃をしますから、ネコさんとドワーフネコさんはその隙にワイバーンへの接近を試みてください。行きますよ…【クレイ】」
「【にゃきゅきゅと】」
「にゃむー!!」
私たち援護組が墜落したワイバーンに対して先制攻撃を放ちます。それぞれの攻撃は命中して、エルフネコさん、私、天使ネコさんの順によりダメージを与えられているようです。私がダメージを与えられているのは弱点属性によるものですが、【セイント】については天使ネコさんの魔法威力が強いからでしょうか?
「にゃふー!!」
ネコさんは私たちの攻撃を追いかけるようにワイバーンに詰め寄ります。まずはドワーフネコさんの攻撃を成功させるべく、攻撃を織り交ぜながら回避に専念していますね。ワイバーンも今はターゲットをネコさんに絞っています。
「グギャー!!」
「えっ!?」
「にゃふ!?」
ネコさんはアクロバティックに回避しながら攻撃をしていました。それを嫌ったワイバーンが頭部をネコさんに向けて振り払うと、偶然にもネコさんの土属性の爪がワイバーンの右目へと突き刺さってしまったのです。すると痛みに苦しむワイバーンはその首を、巨体を、尻尾を乱暴に振り回して暴れだしました。これにはネコさんはどうすることもできなく後方へ退避しました。えっと、これは想定外です。暴走状態といえるワイバーンの凶荒にはドワーフネコさんの接近は難しく、攻撃ができません。
「ドワーフネコさん、危険ですから一度下がって下さい」
「にゃぷぷ」
まだ、ワイバーンに対して攻撃の意思を持っているドワーフネコさんに声掛けします。しかし、ドワーフネコさんは首を横に振り、魔槌をワイバーンへと突き出しました。その先には翼があります。
「あっ!?」
そうでした。ワイバーンは【自己再生の才能(小)】を持っていました。暴走がおさまるのを待っているうちに翼が再生して再び飛翔してしまいます。
「えっと、エルフネコさん。ワイバーンが飛翔したら、もう一度撃墜できますか?」
「にゃむっと。…にゃむにゃむ~」
私の問いかけに肯定こそしてくれましたが、その後に申し訳なさそうな表情での一鳴きが続きました。どうやら、撃墜こそできるけどその後の展開に不安を感じているようです。…考えてみれば当たり前のことですね。ワイバーンの飛翔を許すということは戦闘開始時点に戻るということです。もちろん、ワイバーン側だけであり、私たち側は攻撃に費やした分が疲弊しているわでですから。
「ユウナ、どうする?ヨナが倒したら良い」
「にゃふふ」「にゃむむ」「にゃきゅきゅ」「にゃむむ」
ヨナさんの問いかけにネコさんたちが即座に首を横に振ります。
「ユウナはどうする?」
「えっと…」
考えがまとまりません。想定外のことにパニックになっています。…いえ、想定外ではなく、考えが足りなかったのです。ゲームでも一定のダメージを受けた敵が暴走状態になる設定は多くあったのですから。もしも、ドワーフネコさんの攻撃力を知るための攻撃が予想以上の有効打になっていたら、同じくワイバーンは暴走していたはずです。しかも、今私が体験していることはゲームではなくて現実です。狙った個所に必ず攻撃を与えられるでもなく、設定された結果のみが発生するでもありません。
「ユウナ、ワイバーンみたいな【自己再生の才能】を持っている魔物と戦うのは即断即決が重要。ネコさんたちはやる気だけど、無理と思えばあきらめる決断をする。それがリーダーの役目。悩んでいても時が過ぎるだけで、時は戻らない」
「そうですね…悩んでいても時は戻りませんね…うん?時は戻らない…あっ!!ヨナさん、ワイバーンがこのように暴れるのはどうしてですか?えっと、他のワイバーンは攻撃されているのにこれほどまでに暴れていませんよね」
【古木の弓】と【水の斧】もまだ戦闘が続いており、ワイバーンはダメージを負っていますが暴走はしていません。
「もちろん、右目をつぶされたから。魔物とはいえ目をつぶされたらパニックになり暴走する」
「なら、右目が治れば沈静化しますか?」
「ヨナの経験上、魔物は傷が治れば沈静化する。だけど、右目が治るのを待っていれば、翼も治って再び飛翔してしまう」
「いえ、右目が治ると沈静化するのならば大丈夫です。それでさらに質問なのですが…」
そうです。この世界は現実ですからゲームや小説の知識ばかりを参考にするのは危険です。だから、今の現状を打破するのには『この世界での常識』で考えなければなりません。私がヨナさんに質問をすると求めていた結果が返ってきました。ヨナさんから得た情報を元に皆さんに私が考えた作戦を説明します。
「ネコさん、エルフネコさん、天使ネコさん、ドワーフネコさん。ワイバーンとの戦闘は仕切り直しです。ワイバーンが沈静化すればドワーフネコさんの【フルスイング】で攻撃して、倒せると確信すれば皆で総攻撃です。もちろん、総攻撃ですからエルフネコさんの温存もしませんよ。ただ、【フルスイング】が有効打とならなければ、即刻ヨナさんに倒してもらいます。異論は認めません。ヨナさんも良いですか?」
「にゃふっと!!」「にゃむっと!!」「にゃきゅっと!!」「にゃぷっと!!」
私の言葉にワイバーンの戦闘前と同じくネコさんたちが頷いてくれました。
「ユウナ、良い覚悟。ユウナの作戦が失敗したらヨナが責任を持ってワイバーンを倒す」
「ヨナさんがそう言ってくれるのなら安心です。それではワイバーンが回復する前に作戦開始です。天使ネコさん、お願いします」
「にゃきゅっと!!」
天使ネコさんは心強く返事をして空へと飛び立ちました。
▽▽▽
私の作戦は成功してワイバーンの討伐を達成でき、ワイバーンを除く魔物たちもラルフさんと冒険者たちの活躍により、カーヤの街へ到達を許さず討伐成功となりました。これにてカーヤの街へ平穏が戻り、私はマイホームを拠点にネコさんたちとの異世界生活を満喫するはずでした。…ですが今私はそのマイホームの庭で危機に陥っています。その危機は私がこの世界に転移したことにより…いえ、転移する前のこの世界の因縁で起こった危機なのですが…私はこの危機を乗り越えることができるのでしょうか?私は今とても重大な決断を迫られています。それは…。
お読みいただきありがとうございました。




