隊長と迷子
「ちょっと待っていてください。すぐ戻ります」
マーカス隊長と二人で見回りの途中、怪我人が出た。大事ではないが、放ってもおけない。ただ、間の悪いことに迷子を保護した直後だった。
「隊長はその子をお願いします。すぐ戻るのであまり遠くには行かないでくださいね」
「わかった。早く行ってやれ」
マーカス隊長の隣に、小さな女の子が立っている。泣き腫らした目をしていたが、隊長に手を握られてだいぶ落ち着いたようだった。親探しを隊長に任せて、僕は少しの間その場を離れた。
怪我人は庭師で、庭木の枝の処理中、自分の手を切ってしまったという。出血は派手だったが、あれなら後遺症は残らないだろう。その庭師の手当てを終えて戻ると。
「……なんで子供が増えてるんですか」
最初の女の子の他に、今度は男の子が二人。三人の子供たちは二人が隊長に手を繋がれて、もうひとりは隊長の足にしがみついている。その隊長の足元には大きな袋が置いてあって、中から葉物野菜がはみ出していた。なんでこうなる。
「この野菜は何ですか」
「さっきそこで知り合いに会った。くれるっていうんだ、断るのも悪いだろう」
「で、子供の方は?」
「一人は迷子で、もう一人はこっちの女の子の友達らしい」
隊長は悪びれた様子もなく言った。遠くに行かないでくれとは言ったが、こうなるとは思っていなかった。どうして追加の迷子が出るんだ。マーカス隊長は子供を引き寄せる何かを出しているんじゃないだろうな。
「それじゃあ、改めて話を聞きますね」
しゃがんで子供たちと目線を合わせる。女の子はルーシーという名前で、男の子のひとりはパット。ルーシーはお母さんとはぐれたらしい。パットはルーシーの友達で、一緒に母親を探していたらしい。さらにもうひとりの男の子がショーンで、兄弟と遊んでいるうちに道に迷ったという。かくれんぼをしていたようだ。
「今日はお母さんと一緒だったんだよね。お母さんの名前は言えるかな? どこに住んでるの?」
僕はひとまずルーシーにたずねた。
「えっとね、おかあさんはマーサ。おうちはね……」
僕が子供たちから情報を引き出している間、マーカス隊長は三人にまとわりつかれたまま立っていた。引き離そうとすると子供が泣きそうな顔をするのでそのままにしている。まあ、それはいい。
問題は、隊長の周りに人が集まりやすいということだ。ただ立っているだけで声を掛けられる。
「ああ。隊長さん。先日は大変お世話になりました」
見覚えのある顔だった。この間の農家のおやじさんだ。荷車を引いている。
「いや、こちらこそ。とてもおいしいジャムだった。今日は?」
「市場に出ているんですよ。よかったらこれ、持っていってください」
芋だった。小ぶりな芋が数個、隊長の袋に追加された。
「ウォーレン。持ってくれ」
「はい」
荷物持ちは僕か。まあいい。隊長は子供にまとわりつかれているし、手が空いていないものは仕方がない。
市場を見回りながら、ルーシーの母親を探し、ショーンの知り合いがいないかも尋ねていると、馴染みの店主が次々と声をかけてきた。
「お。マーカス隊長、いつもありがとうよ。これ食べてってくれ」
素朴な焼き菓子が差し出され、子供たちが目を輝かせた。喧嘩にならないよう、ひとつずつ持たせる。さっそく隊長の隊服の裾に菓子のカスがついた。けれど隊長は何も気にしていない様子だ。
「あらぁ。隊長さん、今日も精が出るねえ。果物持っていきな」
果物を売る露店で追加の荷物が増えた。林檎が五つ。袋がずっしりしてきた。
子供たちは菓子を頬張りながら隊長の腕にぶら下がり、足に飛びついたり、背中に登ろうとしたり。すっかりはしゃいでしまって、なかなか前に進めない。
まあ、迷子に号泣されるよりはいいのだろうが。
「隊長、あの……」
「わかっている」
「全然進んでないですよね」
「わかっている」
これではいつ子供たちの保護者が見つかるかわかったものではない。大体の家の場所は目星がついていても、そこまでたどり着けないのだ。
結局、途中で合流したディアンとフレッドに子供たちを頼むことにした。ルーシーの母親は市場で買い物をしていたらしく、フレッドが見つけ出した。パットは自分の足で帰れると主張したが一緒に帰らされ、ショーンはディアンが送っていくことになった。
解散して、僕は重くなった袋を抱え直した。
「しばらく野菜には困らなさそうですね」
「分ければすぐになくなるだろう」
「まあ、それもそうですね」
宿舎に戻れば、自炊をしている隊員は少なくないから、誰かが欲しがるはずだ。
歩きながら、ぼんやりと考える。今日は怪我人の手当てに気を取られたのが悪かった。かといって、怪我をしたと言われて放っておくわけにもいかない。ただ、ちょっとそばを離れた間にこうなるのは……。
「あまり目を離すのも考えものだな」
独り言のつもりだったが、隊長に聞こえたらしい。
「俺のことか」
「そうは言ってません」
「言ってないが、そう思ってるだろう」
否定できなかった。だって、仕方がないじゃないか。腕の中の野菜と果物が、ずっしりと重い。




