王都からの便り
「魔法士さん。手紙だよー」
村に来る行商人は郵便も運んでくれていた。その中に珍しく、魔法士団の印が押された封筒があった。
マーカス隊長が封を切ると、中から出てきたのは、見たことのある几帳面な文字。
「お。フレッドからですよ!」
手紙には、フレッドがアルバート隊に移ったこと、今はそれも慣れてきて友人もできたこと、レスターが魔物討伐部隊に引き抜かれたこと、レベッカ班長がステラに会いたがっていること、それから王都で新しくできたカフェに美味しいフルーツタルトがあったことなどが書かれていた。
「フルーツタルト……」
ディアンがうらやましげにつぶやく。
「この前、村長の奥さんがパイ持ってきてくれただろ。酒場でもいつも美味しいものを食べてるんじゃないのか」
「そうだった!」
まったく、魔法士というものは甘いものが好きだ。ディアンは僕が作る料理も残さないから、普通の人の倍くらい食べているというのに。
「けど、そっか。レスターは前線に行ったかー」
ディアンの声は少し寂しそうだった。
「能力はあったからな。家族のこともあって本人はずっと迷っていたが」
「氷で川をせき止めてけろっとしてましたからねぇ」
「大きなけがをしなけりゃいいけど」
「魔法士は騎士ほど怪我は多くないから……」
なんとなくしんみりとした空気。そこにコツコツと窓を叩く音がした。
「あれ? ミア?」
窓の外にいたのはエルマーのささやき鳥、ミアだった。
僕の肩に乗って、ミアが人語で鳴く。
『久しぶりだね、ウォーレン。実は俺、王都の店をたたむことになったから。近いうちに遊びに行くよ。悪いけど、俺が泊まれるようにしてね』
「……は?」
思わず間抜けた声が出た。
店をたたむとはどういうことだ。まさかあの古書店を他人に譲ったのか。
「……エルマー殿がここに来るのか?」
元々魔法士としての才能で期待されてたのに本屋になった人だ。自由なのは知っていたけど急すぎる。
「宿はどうする? 村長殿に頼むか?」
「そうですね。……いや。いい機会かもしれません」
怪訝な顔をした隊長に、僕はエルマーという魔法士がどれだけ規格外なのかを説明した。
***
魔法士団ドゥダル支部が建て直された。あの物置があった場所に、二階建てのちゃんとした建物ができたのだ。
「こんなもんでいいか?」
僕を振り返って、エルマーが言った。
「一階が事務所、二階が倉庫と会議室って感じかな」
土魔法で壁を立て、屋根を乗せ、あっという間に建物ひとつを作り上げた兄は、息も切らさず、顔色も変えず「悪いがドアと窓と家具はどうにかしてくれ」などと言い、村人たちを驚愕させた。村人だけじゃない。マーカス隊長もぽかんとしていた。エルマーの能力を知っていたディアンだけが……いや、ディアンも驚いているな。
「とりあえずはここの二階に泊まらせてもらうけど、いいよね?」
エルマーは何でもないことのように言った。
「寝具だけ貸してよ、ウォーレン」
「必要だったか、この建物。魔法士団の仕事って今までに何かありましたっけ?」
ディアンがそんなことを言って、首をかしげている。
「ここでしていることと言ったら、釣りと、農作業と、家畜の世話と……」
隊長も、魔法士団の仕事と言われて思い出せるものがないらしい。
「一度だけ魔物が出たな。ウサギの魔獣が。魔法じゃなくても倒せる程度のやつだったが」
「あとはウォーレンが読み書きを教えているくらいでしょう?」
確かに、どれも魔法士団の仕事とは言い難い。
「仕事のない田舎で冷遇しているつもりなんだろうが……」
「楽しいですけどねー、釣りも」
「新しい本がすぐに手に入らないのだけは困るかな」
「それだって、頼めばどうとでもなるだろ」
「どうしても欲しかったらね」
そんなわけで、僕たちは特に何も不利益を被ってはいないんだよなぁ。
「ところでエルマー。店をたたんだって?」
「ああ。本は人に任せて、魔法薬の研究をしようかと」
「気まぐれだなあ。でも、それならヘザー姉さんの所へ行けばよかったのに」
「もちろん行くよ、ただ、その前に」
エルマーが僕の顔を見て、にこっと笑った。
「……何?」
「慣れない環境で、可愛い弟が寂しがっていないかと思って」
つまり僕が心配で様子見に来たのか、この人は。
「大丈夫だよ、僕は」
「ならいいけどな。熱出したりしてないか?」
「してない」
僕はエルマーを連れて、村の案内をした。
「良い村だな。のどかで。でもちゃんと店もあって」
「うん」
「ところで、その黒猫は?」
そういえばステラの話はしていなかったか。
「ステラっていうんだ。一応、僕の飼い猫……かな」
「へぇ……賢そうな猫だな」
「たまに言葉が通じている気がするよ」
「なあ、ウォーレン。それ、気のせいじゃないかもしれないぞ」
エルマーが手を差し出した。ステラはその手を確認し、ふいと顔を背けた。
「なるほど、俺ではお気に召さないか。ウォーレンを守ってくれているんだな」
「守る……?」
「気付いてないのか?」
エルマーが言って「いや」とつぶやいた。
「古い文献に少し記述があるだけだ。知らないのが普通か」
この兄は魔法についての本を大量に扱い、自分でも読んでいる。僕が知らないことを昔から沢山知っていた。
「エルマー? それ、どういう……」
「おーい、ウォーレン!」
ディアンが呼ぶ声がして、エルマーは意味ありげに微笑んだ。
「行こうか。話は、またあとで」




