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うちの隊長はお人好しが過ぎる【連載版】  作者: 夕月ねむ


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17/23

あがく

 監査なんてものは、急に来るから怖いのであって、来るとわかっているのならできることもある。僕はレスターとフレッドに手伝いを頼んで、マーカス隊のこれまでの帳簿や、備品のリストなど、書類を片付け始めた。ちなみにマーカス隊長とディアンは街の見回りに行けと追い出した。隊長の確認が必要な書類もまだあるが、後でまとめて見てもらえばいい。


「ウォーレン先輩。この『茶菓子代』って……」

「ああ、それはマーカス隊長がアルバート隊長と食事に行った時のやつ。アルバート隊長は酒を飲まないから。交際費ってことにしといて」

「わかりました」

「ちょっといいですか。魔石の在庫と書類上の数が合わないです」

 しまった。エルマーの所へ持って行ったやつだ。今頃はすでにミアの腹の中である。

「それは僕の私物でどうにかするよ」

 痛い出費だが仕方がない。


「すみません。川をせき止めた件なんですけど……」

「街の治安維持上必要な行動だった、で押し通す」

「いけますか、それ」

 レスターが訝しんでいるけど、僕だって無理のあるこじつけだということはわかっている。

「他にどうしようもないだろ」


「例の職人が使ってた食器、どうします?」

「処分して。あ、待って。ステラのために買ったってことにしよう。カトラリーは処分、皿はステラに」

「はい」

「そのステラの食費なんですが」

「準隊員扱いで経費出てるでしょ、確か」

「そうなんですか?」

「うん。軍用犬に準ずるってことになってる。よく確認して」


「雑費の中の『角砂糖』って、これなんですか?」

「ああ、妖精に貢いだやつ。ちゃんと必要経費」

「わかりました、そう処理しておきます」

 今までの予算の動きを計算し直し、必要なら隠し、ごまかし、つじつまを合わせ……でもあくどいことはせずに、どうにかきれいにまとめていく。見た目だけなら悪くない。これで少しでも監査部からの小言を減らしたい。ほとんど丸一日集中して書類と向き合っていた。手が疲れるし、肩も首も背中もこわばっている。


「お疲れ、二人とも。今日はそろそろ切り上げよう」

 手伝ってくれたレスターとフレッドをねぎらう。お茶でも淹れようかと、席を立った。

 そこへ、警邏(けいら)を終えたマーカス隊長とディアンが戻ってきた。

「あ。隊長、おかえりなさ……なんで野菜を持って帰ってくるんです!?」

「仕方ねぇだろう、もらったんだから」

 マーカス隊長は『前が見えないんじゃないか』と思うくらいの大荷物を抱えていた。




 ***




 過去五年間の帳簿の振り返りと整理。叩いても埃が出ない状態に整えていく。その作業に、数人がかりで三日を費やした。

「とりあえず、ここまでかな」

「お疲れさまでした、先輩」

「うん。レスターもありがとう」

「お茶を淹れてきましたよ」

 フレッドが香りのいい薬草茶を持ってきてくれた。


「これでどうにかなりますかね?」

 レスターに聞かれて、苦笑する。

「わからない。やらないよりはマシだと思うけど」

 他に何かできることがあるだろうか。お茶の渋みが疲れた頭には心地よかった。


「ウォーレン!」

 執務室のドアが乱暴に開けられる。息を切らして駆け込んできたのは、ディアンだ。

「ディアン? どうした?」

 ディアンの他に人影はない。隊長が一緒にいたはずなのに、どうして。

「監査部の連中が、マーカス隊長を連れていった」

「えっ?」


「団長室に呼び出しって。ひとりで来いって。ついて行こうとしたら、断られた」

「そんな……」

「書類、無駄でしたかね?」

「それ今は言わないでよ、レスター」

「すみません、つい」


 団長がマーカス隊長を呼び出した。このタイミングだ。ジョセフの件が無関係だとは思えない。もし、責任を追及されたら。マーカス隊長は全部ひとりでかぶろうとするだろう。そんなの、懲戒免職で済めばまだ良いくらいの話じゃないか。

「落ち着け」

 ディアンが僕の肩に手を置いた。

「まだ悪いことになると決まったわけじゃないだろ」

「でも、他に何があるって言うんだ」

「あー。確かになぁ……少なくとも表彰ではないよなー」


「様子を見に——」

「待て」

 立ち上がりかけた僕をディアンが止めた。

「放っておけって言うのか!?」

「だから落ち着けって言ってるだろ。お前が行って何ができるんだ。下手すりゃ、余計に隊長の立場が悪くなる」

「それは……でも……」

「いいから動くな。今は駄目だ。わかるだろ?」

 悔しいけれど、ディアンの言う通り。僕が団長室に押しかければ、マーカス隊長には『部下を制御できない』という評価が下される可能性が高い。


「どうすれば」

「相手は団長だからな。魔法でさぐるとか、盗聴しようなんていうのは最悪な結果にしかならねぇだろうな」

「もう、待つしかないんじゃ……」

 フレッドが不安そうに言う。

「僕らはどうなるんでしょうか」

「さあな。でも、今考えてもどうしようもない」

 確かにそうだ。できることがないのだから。

 ぽっかりと開いた暗い穴に落ちていくようで、心許なく、落ち着かない。


 結局、終業時間までに隊長は戻ってこなかった。

「ウォーレン。お前、今夜は俺の部屋に来い」

「何言って」

「ひどい顔してるぞ、自覚あるか。ひとりにならない方がいい」

「わかったよ、ディアン」

「それと、ついでに作りすぎたシチューを減らすの、手伝ってくれ」

 昨日の、隊長がもらってきた野菜か。

「仕方ないな。ちゃんと食えるんだろうね、それ」

「味は悪くないぞ。ただ、量が多いだけだ。ああ、フレッド。お前も来るか? でかい鍋にたっぷりあってさ。このままじゃ食べきる前に悪くなっちまう」

「……そういうことなら」




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