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うちの隊長はお人好しが過ぎる【連載版】  作者: 夕月ねむ


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ハズラムの兄姉②

 僕はマーカス隊長がジョセフという男を拾ってきたこと、それが魔法研究所に追われている尋ね人であり、魔法士を使い捨ての兵器にしてしまえる魔導具の開発者であること、どうにかしてハズラムの目が届く場所で保護したいと考えていることを、全部隠さずエルマーに打ち明けた。

 エルマーは深くため息をつき、アップルパイを口に運んで、呆れ顔で僕を見た。

「まったく。君が隊長さんを敬愛しているのも、世話になっているのも知っているけど……」

 お茶をひと口飲んだエルマーは、もう一度ため息をついた。


「魔法士を兵器にするって? しかも使い捨て? そんな国家機密みたいな話に、君はアップルパイひとつで俺を巻き込むのか」

「もちろん、あとでちゃんとお礼はするよ」

「……ミアを貸すだけだ。俺はそれ以上のことは知らない。それでいいなら」


 僕は身を乗り出して礼を言った。

「ありがとう、兄さん!」

 エルマーが半眼で僕を睨む。

「ウォーレンはこういう時じゃないと俺を兄とは呼ばないんだから……」

「それはうちのきょうだい関係が複雑なのがいけないんだよ。年上かどうかと家族になって何年経つかが合わないんだから」

「それもそうかもね」


 僕たちは世間話や隊長のこと、仕事の話なんかをしながら、アップルパイを食べた。ディアンが落ち着かなげな様子だったけど、具体的な行動の前にまずはアップルパイを食べてしまうことにしたのだ。放置してももったいないから。もっとも、マーシアの結婚式の時にも一応顔を合わせていたから、それほど積もる話があったわけでもない。


「ついておいで」

 エルマーに言われて二階に上がる。大きな窓がある部屋で、緑色の小鳥がくつろいでいた。

「これが『さえずり鳥』?」

 ディアンが不思議そうに言う。

「案外普通って言うか、本物の鳥にしか見えないな」


 ディアンが訝しむのも当然で『さえずり鳥』は生き物に見えるけれど、実際は魔導具に近い。魔石を食べて動き、水も飲まない。飼い主の指示にはとても従順で、人の手で郵便物を届けるよりもずっと早く伝言を運べる。エルマーはミアをとても大事にしていた。


「ミア、仕事だよ」

 エルマーが呼ぶと、小鳥が飛んできて腕にとまった。頬のあたりを撫でてやりながら、エルマーは僕を振り返った。

「魔石は持ってきたんだろうね、ウォーレン?」

「もちろん。用意してきた」


 僕はエルマーからミアを受け取ると、持参した魔石の欠片を与えた。小鳥は嬉しそうにそれをついばんで、飲み込むと僕をじっと見上げてきた。

「シミオン兄上に伝言を頼みたい」

 ミアがうなずいてから、首を傾げた。『さえずり鳥』は魔石をくれた人間の声と言葉を覚えて、別の人間に伝えることができる。


 僕は追加の魔石をミアに与えて、小さな額にそっと指をあてた。

「覚えて。『シミオン兄上、ウォーレンです。面倒なことになりました。人をひとりかくまいたいのです。他人に偽装するための身分証を手に入れられませんか。痩身の成人男性です。背丈は標準、年は三十歳くらい。ハズラムの目が届く場所で保護したいと思っています。なるべく内密に——』」


 指を離すと、ミアが二、三度まばたきをして、僕の言葉をそっくり繰り返した。

「喋った!」

 ディアンが驚く。普通に生活していると、こんなに間近でこの鳥を見ることはないからな。

「そりゃ喋るよ。『さえずり鳥』なんだから」


「伝言はもういいかな?」

 エルマーに言われてうなずく。僕の手からミアを受け取ったエルマーは、ミアに行先を指示すると、大きな窓を開けた。

「行っておいで」

 緑色の小鳥が飛び立つ。


「ひとまずはこれでいいとして。必要なのは身分証だけってわけじゃないよね?」

「別人に偽装したあとは、新しい居場所も用意しないと」

 その前にシミオン兄上が協力してくれるかどうかだけれど、それはあまり心配していない。ハズラム家の長男であるシミオン兄上は、どういうわけか昔から僕に異様に甘いのだ。


「ハリエットにも連絡するんでしょう? ミアの帰りを待つ?」

「できることなら。それとヘザー姉さんにも連絡を」

 エルマーがやれやれとため息をつく。

「ここからシミオン兄様の所までとなると、ミアでも往復に丸一日はかかる。今日は帰って、またおいで」




 ***




 次の日。僕はマカロンとメレンゲの焼き菓子を用意して、エルマーを訪ねた。

「ミアは?」

「まだ帰ってないけど、そろそろだと思う」

 エルマーはまた臨時休業の札をかけて、僕を奥に招き入れた。

「流石に『さえずり鳥』を二羽飼うのは無理だからなぁ。ミアが戻るのを待つしかないね」


 ヘザーは僕の姉のひとりだけれど、魔法士ではなく薬師である。なんとかいう田舎町で薬草園を管理しながら薬を作っている。規模はそれなりに大きく、人手が足りないとぼやいていた。ヘザーの薬草園なら、身元が多少怪しくてもひとりくらい雇ってくれるだろう。何より僕が頼むのだから。


「まったく……君は時々、ものすごく図々しいね、ウォーレン」

「兄や姉に甘えるのは弟の特権でしょう?」

 僕はにこっと笑ってみせた。その時、窓をコツコツと叩く音がした。ミアが帰ってきたのだ。



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