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うちの隊長はお人好しが過ぎる【連載版】  作者: 夕月ねむ


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ハズラムの兄姉①

 ジョセフの身柄は魔法研究所には引き渡せない。そうと決まれば、どこかへ逃がすか、かくまう必要がある。けれど、大人の男をひとり隠すのは容易ではない。

「しばらくは俺と一緒に行動してもらう」

 マーカス隊長がジョセフに言った。

「目くらましの魔法をかけるから、あまり俺から離れるな」

「すみません……お世話になります」


 なるべくジョセフの存在を隠し、秘密裏に国外に逃がす……そんな案も出たけれど、それには僕は反対した。

「申し訳ないけれど、僕はジョセフをそこまで信用できない」

「ウォーレン。それはどういうことだよ?」

 ディアンが理解できないという顔をしているので、説明してやる。


「ジョセフが本当に、兵器になるような危険な魔導具を作れるというのなら、それを利用しようとするやつがこの国以外にもいるはずなんだ。頼れるものもない外国で、今回みたいに食い詰めた時、誰かにその技術を渡す可能性がないと言い切れるか?」

「それは……」

 ディアンが言葉に詰まり、ジョセフは気まずそうに縮こまっていた。


「ジョセフ本人を守るものが必要なんだよ。見張りと言ってもいい。この人が誰にも余計なことを言わず、危険な目に遭わず、ちゃんと生活していけるようにしないと」

「でもそんなのどうやって。ここにずっと置いておくわけにもいかないだろう」


「そうだね。それは僕もわかってる。ところで」

 僕はジョセフをじっと見つめた。

「アンタは魔導具職人なんだよね? 幻影の魔法を利用した変装用の魔導具なんてものもあるはずだけど、持ってないの?」

「逃げるだけで精一杯で、荷物は何も……」

 それはそうか、財布もなくて食事もできずに行き倒れたんだ。


「外見を変えることができるなら、僕に考えがある」

「本当ですか!?」

 ジョセフがすがるような目で僕を見上げた。

「何をする気だ、ウォーレン」

 マーカス隊長は心配そうだが……元は自分が蒔いた種だと自覚しているから、なおさらなのだろう。


「兄たちに助力を頼みます。必要なら弟妹にも。僕はハズラム子爵家の三男ですから」

 実子と養子を合わせて十七人いるきょうだいは、僕を含めて八人がすでに成人している。魔法士として働いているきょうだいが多いけれど、他の仕事を選んだ者もいる。そのきょうだいたちに頼めば、ジョセフの新しい居場所を用意してやれるかもしれない。

「すぐには無理です。数日は時間がかかります」

 マーカス隊長はちょっと苦い顔をして、短く「わかった」とつぶやいた。

「悪いが、頼らせてくれ」

「ええ、できるだけのことはしてみます」




 ***




 マーカス隊長がジョセフに変装の魔導具を用意した。似合わない丸眼鏡で、それをかけている間は髪の色が違って見える。それでも部外者だ。魔法士団本部にいること自体が問題になりかねない。そこは隊長の闇魔法でできるだけ隠し、昼間は執務室から出ないようにしてもらった。夜はこっそりと隊長が宿舎に連れ帰り、泊まらせている。

 そんな生活をいつまでも続けられるわけがない。ここは魔法士団本部で、マーカス隊長の魔法を見抜くかもしれない魔法士だっているのだ。早くジョセフをどこかへ逃がさなければ。


 僕がまずしたのは、菓子を買いに行くことだった。とあるカフェが持ち帰り専用で販売している、数量限定のアップルパイ。これをどうにか確保して、ディアンと二人で兄の店に向かう。

 ハズラム家の養子の一人、僕の兄であるエルマーは、古本屋の店主だ。魔法士としての才能もあったけど本人は歴史研究に夢中になり、古い魔法やまじないについて調べているうちに、何故かそれに関連する書籍を扱う店を持つことになった。魔法士の例にもれず甘いものに目がない。アップルパイはエルマーへの賄賂だ。


 狭い路地を歩き、書店の看板が出ている古い店に入った。

「あれ。ウォーレン?」

「久しぶり、エルマー」

「そっちの人は……あ、もしかしてディアン?」

「はい。お久しぶりです」

 ディアンがかしこまって挨拶をした。エルマーは魔法学校の先輩でもある。

「エルマー、今時間ある? 良いものを手に入れたから一緒に食べようかと思って」

 エルマーはドアに臨時休業の札を掛けると、僕たちを奥に招き入れてくれた。


 お茶を淹れてもらって、アップルパイを出した。かすかに埃を感じるのは、古い本がたくさんあるからか。

「で、何か頼みでもあるの、ウォーレン」

「なんでそう思う?」

「君が俺にわざわざ甘いものを持って会いにくるなんて、他に理由が思いつかない」

 まったく。察しの良い兄である。

「ちょっと借りたいものがあって」

 ディアンが首を傾げた。ジョセフのことを頼むと思っていたのだろう。


「連絡用の『さえずり鳥』貸してくれない?」

 僕がここに来た理由。それはこの兄に直接ジョセフのことを頼むためではない。伝言を他の魔法士に素早く届けることができる魔法生物をエルマーが飼っているからだった。

 エルマーはちょっと嫌そうな顔をした。

「ミアを? なんのために」

「兄上たちに連絡を取りたい」


「シミオン兄様やハリエットに? 急ぐの、それ」

「急ぐ。できる限り早く返事が欲しい。普通の手紙を待ってはいられないんだ」

 連絡手段としての『さえずり鳥』を欲しがる人は多いが、実際に飼われている数は少ない。魔法士団のものは借りられないし、公的な機関で頼めば使用履歴が残る。エルマーが飼っている『さえずり鳥』のミアなら、そういった煩雑さや使いにくさとは無縁だ。


「条件がある」

 エルマーが言った。

「なんのために『鳥』を使うのか、洗いざらい喋って。それでもし、俺が納得できないならミアは貸さない」



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