隊長、行き倒れを助ける②
「私は悪いことは何もしていません。それはどうか信じてください」
手配書を突き付けられたジョニーは、自分が魔導具職人のジョセフであることをあっさりと認めた。
「まあ、罪状も書いてないし『尋ね人』だからね。でも訳ありなのは確かなんでしょう。アンタ何やったの?」
口調を崩した僕に、びくびくしながらジョセフは言った。
「答えられません……」
「どうして?」
「誰にも言うわけにはいかないんです」
マーカス隊長が大きくため息をついた。
「ジョセフ。気持ちはわからなくもないが……本当に悪さをしてねぇなら、俺たちを頼ってくれないか」
「でも……」
ジョセフは膝の上でぎゅっと拳を握っている。
「ジョセフ。この人のことは信じていいよ。うちの隊長は筋金入りのお人好しだからね」
安心させるように微笑んでみせる。それでもジョセフはしばらく考えていた。
「たとえ何者でも、悪いようにはしないと約束する」
マーカス隊長は自分が助けたという責任も感じているのだろう。けれどジョセフは警戒し、怯えているように見えた。
「だったら……このまま見なかったことにしてくれませんか」
「それで、ここを出た後の行くあてはあるのか?」
ジョセフは俯いて自嘲し、つぶやいた。
「……食事とシャワーに、つられるんじゃなかった。魔法士団の詰所じゃ、逃げ場なんて」
「逃げなきゃいけないようなことがあるんだな?」
マーカス隊長に聞かれて、ジョセフがため息をつく。
「捕まるわけにはいかないんです」
「なら、事情を教えてくれ。協力できることもあるかもしれん」
「……信じてもらえるかどうか」
「ジョセフ。俺はな、闇属性の魔法士だ」
マーカス隊長が自分の魔法について語るのは珍しい。
「その気になれば、眠らせることも麻痺させることも、自白させることだってできる。できるが……したくないんだよ、なぁ」
隊長がジョセフの顔を覗き込んで懇願する。
「俺に魔法を使わせないでくれ。頼む。一緒に食事をした仲だろう?」
「…………わかりました」
ジョセフが顔を強張らせながら、うなずいた。
「あなた方に無関係なことでもありません」
「そりゃ、どういう意味だ?」
「私は国から追われています。正確には王立魔法研究所から、です」
これは……思ったよりも大事かもしれないな。
「なんでそんなことになった?」
「私が作った魔導具について、技術の提供を拒否したからです」
大人しく渡していれば追われずに済んだということなのだろう。
「俺たちに関係があるってのは?」
「あれをもし戦争に応用されたら、大変なことになるのです。魔法士が使い捨ての兵器にされてしまう」
「それは……」
マーカス隊長が口ごもる。
「どうします、隊長」
ディアンが言った。
「相手が魔法研究所なら、かくまうのは難しいですよ」
ディアンの言うとおり。魔法研究所は魔法士団と協力関係にある。僕たちが魔法士団の魔法士である以上、本来なら魔法研究所のために動くべきなのだ。ここにジョセフがいることや話を聞いたことが他の魔法士に知られたら。ジョセフを引き渡さないという選択は、マーカス隊全体が責任を問われるかもしれない。
けれど。今聞いたことが事実なら。あまりにも物騒な話である。
「使い捨てって……どういうこと?」
「詳しい説明はできません。ただ、魔法士に強い負担がかかるんです。魔法が使えなくなるかもしれないほどの」
レスターもフレッドも不安そうな顔をしていた。他の隊員たちも茶化すようなことを言う者はおらず、張り詰めたような雰囲気に口を閉じ、ただ隊長を見ていた。魔法士が魔法を使えなくなることが、是とされるような兵器。そんなもの、存在しない方がいいと僕は思う。
「そうか」
マーカス隊長がつぶやいた。
「それが本当なら、確かに、あなたを引き渡すわけにはいかないな」
ジョセフがホッとしたような表情を浮かべる。信じてもらえるとは思っていなかったのだろう。
「隊長。今の話……」
マーカス隊長が僕にうなずいてみせる。
「嘘じゃあなさそうだな。俺の魔法には反応がなかった」
「そうですか」
マーカス隊長に対して嘘をつき通すのは難しい。何故なら、闇属性の魔法の中には相手の精神的な動揺を察知するものがあるからだ。
面倒なことになった。いっそ相手の嘘なら良かった。もし、ジョセフの身柄を引き渡せば、魔法士全体が危険に晒される。しかし、引き渡さなければ、国が探している人物をわざと逃がすことになり、責任を問われることになる。
「ディアン、レスター、サイラス」
マーカス隊長が隊員たちの名前を呼んだ。
「フレッド、クライヴ、カイル……」
ひとりひとり、全員の名を呼んで。
「ウォーレン」
最後に僕をじっと見て。
「お前たちを巻き込むことになる……すまない」
マーカス隊長は頭を下げた。
「隊長……」
「最悪、マーカス隊はなくなるだろう。それでも。俺はジョセフを引き渡すことは、したくねぇ」
なんともいえない空気が流れた。誰も何も言えなくて、ジョセフが申し訳なさそうな表情で縮こまっている。
「……わかりました」
沈黙を壊したのはディアンだった。
「それがマーカス隊長の決定なら、俺は従います」
「僕も。隊長の決定に反対はしません」
レスターが言った。
「でもどうするんですか、この人」
「……ウォーレン」
マーカス隊長が僕を見た。何を期待されているかは、なんとなくわかってしまう。
「仕方がありませんね。どうにかしますよ」




