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追放令嬢の和食食堂経営 ~バカにされた土魔法で最高の相棒とともに和食を作ったら、最強のもふもふが住み着きました~  作者: 速水静香
第一章:追放と辺境での新しい生活

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第四話:追放令嬢、土魔法で最高の厨房を作り上げる

 冒険者ギルドでの手続きと討伐報酬の受け取りを済ませた私は、ギルドマスターであるガンツさんに連れられて町を歩いていた。


 大通りから少しだけ外れた道を、私たちはゆっくりと進んでいく。

 王都のきれいに整えられた石畳とは違い、フロンティアの町はよく踏み固められた土の道が真っ直ぐに続いている。道の両側には木造の建物が並び、さまざまなものを売る露店が並んでいた。

 歩いている人たちの服装も、貴族のような窮屈なドレスや飾り立てた服ではなく、動きやすい革の服や、簡素な布の服ばかりだ。すれ違う人たちはみんな活気に満ちていて、大きな声で挨拶を交わしている。

 私の隣を歩くハクは、あちこちから漂ってくる食べ物の匂いに鼻をヒクヒクさせていた。私の後ろには、コテツが大きな足音を立てないように気遣いながら静かについてきている。


 しばらく歩くと、周りの建物よりも少しだけ背の低い、古い木造の建物が見えてきた。


「ここが俺の言っていた空き家だ」


 ガンツさんが立ち止まり、太い腕でその建物を指し示した。


「昔はそこそこ繁盛していた酒場だったんだ。だが、前の店主が年を取って引退してからは、ずっと誰も使っていなくてな。ギルドで管理している物件なんだが、少し古すぎるから誰も買い手がつかなかったんだ」


 ガンツさんの言う通り、建物はずいぶんと長い間使われていなかったことが一目でわかった。

 外の板壁は何枚か外れかけていて、建物の内側が見えそうになっている場所もある。屋根の板も浮いており、強い風が吹けば今にも落ちてきそうだった。入り口の引き戸も木が少し腐っているように見える。


 ガンツさんが建物の正面にある重そうな引き戸に手をかけ、力を入れて横に引いた。


 ガタガタガタ。


 重くて鈍い音がして戸が開くと、中からむわっとした古い空気とホコリの匂いが飛び出してきた。


「わふっ」


 私の足元にいたハクが、鼻をヒクヒクさせて小さなくしゃみをした。

 私も思わず手で口元を覆いながら、建物の中をのぞき込んだ。


 中はとても薄暗く、外からの光が差し込む場所にはたくさんのホコリが舞っているのが見えた。

 床には木くずや枯れ葉が散らばり、壊れた木の椅子や脚の折れたテーブルがそのまま放置されている。壁際にはお酒を置いていたと思われる大きな棚があるが、それも板が割れてしまっており、使い物になりそうにない。

 いかにも長い間放置された空き家といった様子だ。


「どうだ。中はかなりひどい状態だ。床も壁も傷んでいるし、掃除するだけでも何日もかかるだろう。もし気に入らないなら、別の小さな家を探すこともできるぞ」


 ガンツさんが心配そうに私を見て言った。

 でも、私は建物の奥へと足を踏み入れながら、じっくりと中を観察した。

 確かにホコリだらけで散らかっている。しかし、それ以上に良いところがたくさんあることに気づいた。


 まず、とても広い。

 入り口から入ってすぐの土間のような場所は、テーブルをいくつも置けそうな余裕がある。これならたくさんのお客さんを迎えられる。そして、その奥には一段高くなった広い板の間があり、そこに私の理想とする大きな調理場を作れそうな十分な広さがある。

 さらに、建物の裏手につながる勝手口があり、壁には窓がいくつもついている。これなら、窓を全部開ければ風が通り抜けて、調理の熱や煙もすぐに外へ逃げてくれるはずだ。


「あの、裏には何があるんですか」


 私が勝手口を指さして聞くと、ガンツさんが答えた。


「裏には小さな井戸がある。長いこと使っていないが、水は枯れていないはずだ。それから、少しだが土の庭みたいな場所もあったはずだな」


 井戸があるのは大助かりだ。料理にはたくさんの水を使う。それに裏庭があれば、ちょっとした野菜や香草を育てることもできるかもしれない。

 私が思い描いていた食堂を開くのに、これほどぴったりの場所はない。

 古いことや汚れていることなんて、どうにでもなる。


「ガンツさん、私、ここが気に入りました。この建物を私に売ってください」


 私が振り返ってそう言うと、ガンツさんは大きく目を開いた。


「本気か。見ての通り、ボロボロだぞ。大工を呼んで直すにしても、かなりの金と時間がかかる。それに、あんたみたいな若い娘が、一人で掃除なんてとても無理だろう」


「大丈夫です。掃除も修理も、今日中に終わらせてみせますから」


 私が自信を持って答えると、ガンツさんは信じられないものを見るような顔をした。

 無理もない。普通なら何日もかかる作業だ。しかし、私には土魔法と頼りになる相棒たちがいる。


「まあ、あんたがそういうなら止めないさ。あの巨大なコカトリスを倒す連中なんだ。俺の常識なんて通用しないのかもしれないな」


 ガンツさんは大きく息を吐きながら、革の袋から書類のようなものを取り出した。


「建物の代金は、さっきギルドで渡したコカトリスの素材の買取金で十分お釣りがくる金額だ。ここで金を受け取れば、すぐにでもあんたの好きに使っていい」


 私は王都を出る時に持ってきた袋を取り出す。

 ずっしりと重い。

 この中にはお父様から渡されたお金と、自分がこっそり貯めていたお金、さらにコカトリスの素材の買取金が入っているのだ。


「これで足りるかしら」


 私は、ガンツさんが指定した金額を取り出して渡した。


「よし、確かに受け取った。何か困ったことがあったら、いつでもギルドに来てくれ。あんたの食堂の料理を、俺たち冒険者も楽しみにしているからな」


 ガンツさんは豪快に笑い、ギルドの方向へと歩いていった。



 建物の前に残されたのは、私とハク、そしてコテツだ。

 馬車は建物の横の空き地に停めてある。荷台には、解体を楽しみに待っている大きなコカトリスのお肉が積まれている。


「ぐぅぅぅぅ」


 突然、大きな音が鳴った。

 ハクのお腹の音だ。ハクは私の足元にすり寄り、私を見上げながら「わんっ」と短く鳴いた。

 コカトリスを倒した後から、ずっとお肉を食べるのを楽しみにしていたのだ。


「ごめんね、ハク。お腹が空いたわよね。でも、お肉を料理するためには、まずはこの厨房をなんとかしなくちゃ。今日中にお掃除も厨房作りも全部終わらせるわよ」


 私が建物の奥にある板の間を指さすと、ハクは「わふぅ」と少し残念そうに鳴き、その場にお座りをした。

 おとなしく待っていてくれるようだ。本当に賢い子だ。


「コテツちゃん、出番よ。まずは大掃除から始めましょう」


 私が声をかけると、建物の外で待機していたコテツが、大きな体をかがめて入り口から入ってきた。

 ガシャン、ガシャンという重い足音が板の間に広がる。


「中にある壊れた椅子や机、それから木の破片を全部外の空き地に運んでちょうだい。使えるかもしれないものは別にしておいてね」


 私の指示を聞くと、コテツはすぐに動き出した。

 両手で一気に三つも四つも壊れた椅子を抱え込み、ひょいと持ち上げて外へ運んでいく。大人が何人もがかりでやるような力仕事を、コテツはたった一人で、しかも信じられないような速さでこなしていく。背もたれの取れた椅子も、真っ二つに割れたテーブルも、次々と外の空き地へと出されていく。

 コテツが外へ行くたびに、中がどんどん広くなっていく。


 その間に、私は窓を順番に開けて回った。

 木の枠が古くなっていて少し開けにくかったが、力を入れるとなんとか動いた。

 全部の窓を開けると、外から気持ちのいい風が吹き込んできた。建物の裏から入り口へ向かって、スーッと風が抜けていく。

 思っていた通り、とても風通しがいい。これなら涼しく料理ができそうだ。


「わふっ。わふっ」


 ハクが何かを追いかけるようにして、板の間をピョンピョンと跳ね回っていた。どうやら、舞い上がったホコリで遊んでいるらしい。

 真っ白な毛並みが、あっという間に灰色に汚れていく。


「こらこら、ハク。ホコリだらけになっちゃうわよ。終わったらお水で綺麗にしてあげるからね」


 私が笑いながら注意すると、ハクは大きな尻尾を振って応えた。


 コテツの素晴らしい働きのおかげで、建物の中の不要なものはあっという間に外へ運び出された。

 床にはまだ土や細かいゴミが残っているが、それは私が魔法で綺麗にする。


「それじゃあ、次は修理ね。クリエイト」


 私は床に意識を向け、魔力を練り上げた。言葉に出し、心の中で結果をはっきりと想像する。

 土属性魔法は、土や岩の形を変えるだけではない。建物に使われている古い土壁や、床の土台になっている部分の土に働きかけて、形を整え直すこともできるのだ。


 私の魔法に合わせて、床下の土がもこもこと盛り上がってきた。

 その土が、散らばっていたゴミやホコリを包み込みながら、床の表面を洗い流していく。まるで土の波が動いているようだ。

 さらに、壁のひび割れている部分や、穴が空いている部分に向かって土が伸びていき、きっちりと穴を塞いでいく。腐りかけていた外の板壁も、土で補強して頑丈な土壁へと変えていく。

 グラグラしていた床板も、下から土の支えを作ってしっかりと固定した。


 数分後。

 ホコリだらけでボロボロだった空間は、見違えるように綺麗で頑丈な部屋へと変わっていた。


「よし、これで建物の修理はできたわ。次はいよいよ、メインの厨房作りよ」


 私は板の間の奥、一番広くて使いやすそうな場所の前に立った。

 ここからが私の得意な作業だ。

 王都の屋敷では、小さな即席のかまどや鍋を作ることしかできなかった。

 でも、ここなら誰の文句も気にせずに、私の思い通りの台所を作ることができる。


 前世の記憶が頭の中を駆け巡る。

 使いやすい台所とはどんなものか。

 火を使う場所、水を使う場所、食材を切る場所。それらが順番に並んでいて、無駄な動きをしなくても料理が進められる形が一番だ。


「まずは、かまどね。大きなお鍋を二つ置けるようにして、火加減を調節しやすいように空気の通り道をしっかり作って」


 私は床に両手をつき、強く魔力を込めた。


「クリエイト」


 床の土が生き物のようにうねり、高く盛り上がっていく。

 土はあっという間に私の腰の高さまで伸び、大きな長方形の形になった。

 そこから、上に大きなくぼみを二つ作る。ここに鍋をはめ込むのだ。

 下の方には薪を入れるための大きな口を作り、中で火がよく燃えるように、奥へ向かって空間を斜めに広く設計する。空気の通り道を工夫することで、少ない薪でも強い火力を出せるようになる。

 表面の土をギュッと固めて、熱に強くて硬いレンガのような手触りに変えた。


「かまどはこれで完成。次は、隣に石窯を作りましょう。パンを焼いたり、お肉の塊をじっくり焼いたりするのに絶対必要だもの」


 私はかまどのすぐ横に、ドームのような丸い形をした石窯をくっつけて作った。

 熱が逃げないように中を丸くするのが一番だ。分厚い土と岩を混ぜ合わせて、熱をしっかり閉じ込められるようにする。

 私は土の表面をペタペタと手で叩きながら、形を整えていく。


「わふっ」


 ハクが私の作業を不思議そうに見て、首を傾げた。

 魔法でどんどん形が変わっていくのが面白いのか、それともここから美味しいものが出てくるとわかっているのか、尻尾をパタパタと振っている。


「もう少し待っててね。これで美味しいお肉を焼いてあげるから。大きな塊のお肉だって、この窯なら中までふっくら焼けるのよ」


 私が声をかけると、ハクはお肉という言葉に反応して、大きく口を開けて「わんっ」と元気よく鳴いた。そして、またよだれをタラリと垂らしている。

 本当に食いしん坊な子だ。


 かまどと石窯の形ができあがると、私は次に作業台の作成に取り掛かった。

 これは料理をする上でとても重要だ。広くて、平らで、使いやすい高さでなければならない。

 私はかまどと石窯の反対側の壁に向かって、魔力を放出した。


「クリエイト」


 地面から土が伸び上がり、長方形の大きな台ができあがる。

 表面は私が両手を広げてもまだ余裕があるくらいの広さだ。お肉を切り分けたり、たくさんの野菜を並べたりしてもビクともしないように、土をとても硬く固めた。

 さらに、表面がザラザラしていると汚れが溜まりやすくなるので、川にある丸い石のようにツルツルになるまで土の成分を細かく調整する。

 手で触ってみると、ひんやりとしていて気持ちがいい。


「高さはどうかな。うん、ちょうどいいわ」


 私は作業台の前に立ち、包丁を握って野菜を切るふりをした。

 高すぎると腕が疲れるし、低すぎると腰が痛くなる。私の身長にぴったり合わせた、私だけの専用の作業台だ。


 作業台の奥には、水受けの鉢を作った。

 料理には水がたくさん必要だ。野菜を洗う水、お鍋に入れる水、そして道具を洗う水。

 ガンツさんが言っていた裏の井戸から、水をここまで引いてこられるかもしれない。とりあえず、たっぷりと水を溜めておけるように、深くて大きな鉢を土で作っておく。

 鉢の底には小さな穴を開け、外の地面へ水が流れていくように溝も作っておいた。これで、汚れた水も簡単に捨てられる。


 壁に沿ってたくさんの棚も作った。

 お鍋やフライパン、お皿を並べるための棚だ。下の方には重いものを入れられるように大きく作り、上の方には調味料を置けるように細かく仕切りを作った。


「今はまだ空っぽだけど、いつかここにお醤油とお味噌の樽を並べるのよ。お米を入れる大きな壺も必要ね」


 私は空っぽの棚を見上げながら、これからのことを想像して思わず顔をほころばせた。

 お米と大豆を見つけ出し、思い通りの調味料を作って、この棚をいっぱいにする。それが私の目標だ。



「よし、厨房はこれでいいわね。次は、生活するための場所を作らなくちゃ」


 私は厨房のすぐ横、建物の裏手にある勝手口のそばへ移動した。

 王都を出発してから、ずっと野宿や馬車の中での生活が続いていた。土魔法でお湯を沸かして体を拭くことはできたけれど、やっぱりしっかりとお湯に浸かって疲れをとりたい。

 それに、着ている服もそろそろ綺麗に洗いたいところだ。

 清潔な身だしなみは、美味しい料理を作るための第一歩である。


「ここに、お風呂場と洗濯場を作りましょう」


 私は再び地面に両手をつき、魔力を練り上げた。

 まずは空間を区切るための壁を作る。家の中の一画、勝手口と井戸に近い場所を四角く囲うように、床から頑丈な土壁をせり上がらせる。


「クリエイト」


 新しい空間ができあがった。

 その奥に、大人が足を伸ばしてゆったりと入れるくらいの、大きな石造りの浴槽を作る。お湯が冷めにくいように、分厚い石と土を混ぜ合わせた構造にした。

 肌が直接触れる内側の部分は、怪我をしないように滑らかに磨き上げる。


「ただお湯を張るだけじゃ冷めちゃうから、お風呂専用のかまども必要ね」


 私は浴槽のすぐ隣に、小型のかまどを作った。

 このかまどで火を焚くと、浴槽の底に敷き詰めた石が直接温まり、中のお水がお湯に変わるという仕組みだ。これなら、いつでも好きな時に温かいお風呂に入れる。


 浴槽ができたら、次は洗濯をするための場所だ。

 お風呂のすぐ横の空いているスペースに、石の台を作る。ただの平らな台ではなく、斜めに傾斜をつけて、水が流れやすいようにした。

 そして、その表面に細かく波打つような溝を魔法で均等に彫り込んでいく。


「洗濯板ね。これにお洋服を押し当てて洗えば、土ぼこりや汚れも綺麗に落ちるはずよ」


 立ったまま作業ができるように高さを調整し、水受けと洗濯板の機能を持つ台が完成した。使った後の汚れた水が、壁の穴を通ってそのまま外の地面へ流れていく構造になっている。


「あと、私の私室も作っておかないと」


 私は厨房のすぐ横、勝手口のそばの空いているスペースを、もう一度土属性魔法の壁で四角く囲って仕切った。

 寝台と、荷物用の小さな棚があるだけの簡素な作りの部屋だ。

 でも、扉を開けるだけで目の前に理想の厨房が広がる部屋の配置となっている。


「ふぅ、これでどうかな」


 私は立ち上がり、額の汗を拭った。

 土魔法はとても便利だけれど、これだけ一気に大きなものを作ると、少し疲れる。


 ガシャン、ガシャン。


 外に壊れた家具や木くずを運び出していたコテツが、戻ってきた。

 彼は私が作った新しい厨房と、生活のための部屋を見て、ピタリと足を止めた。そして、大きな首をゆっくりと左右に動かして、部屋の中を見渡している。


「コテツちゃん、お疲れ様。見て、私たちの新しい厨房と、生活するための場所よ。かっこいいでしょ」


 私が自慢げに胸を張ると、コテツは大きく頷き、両手を持ち上げてバンザイのポーズをとった。彼なりの大絶賛だ。


「わふぅぅ」


 ハクもコテツの真似をするように前足を上げて、嬉しそうに吠えた。

 二人とも、私の作った新しい場所を気に入ってくれたようだ。


「さっそくなんだけど、コテツちゃん。裏の井戸からお水を運んで、この大きな浴槽をいっぱいにしてくれる? 夜には温かいお風呂に入って、今日の汚れと疲れをさっぱり落としたいの」


 私がお願いすると、コテツは静かに頷いた。

 私がさっき土魔法で作っておいた大きな手桶を両手に持ち、勝手口から裏庭へ出ていく。

 すぐにバシャバシャと井戸の水を汲む音が聞こえ、コテツはあっという間に往復して、浴槽を澄んだ水で満たしてくれた。


「ありがとう。私はお風呂用のかまどに、薪を入れておくわね。これで、あとで火をつけるだけでいつでもお風呂が沸かせるわ」


 私はかまどの下に薪をきれいに並べ、夜の準備を整えた。


 私は新しい建物の真ん中に立った。

 広くて頑丈な作業台。火加減を自由に調節できるかまど。熱を逃がさない石窯。たっぷりの水を使える水受けの鉢。たくさんの道具をしまえる棚。

 扉を開ければすぐ厨房に出られる私の部屋。

 そして、夜の準備が整った大きなお風呂と、綺麗にお洗濯ができる専用の洗い場。

 窓からは涼しい風が吹き込み、部屋の空気をきれいにしてくれる。


 ここは、王都の屋敷にあった、広くていつも清潔だけど、料理人やメイドたちがビクビクとしている台所とは全然違う。

 誰にも文句を言われず、好きなものを好きなだけ作れる、私だけの特別な場所だ。

 ユリウスは私の土属性魔法を泥遊びだと馬鹿にしたけれど、この力があったからこそ、短い時間でこんなに素晴らしい生活空間を作り上げることができたのだ。

 本当に、家を追い出されてよかったと心から思う。


「よし、おうちの準備はこれで完了。次は……」


 私は窓の外を見た。

 夕暮れが近づき、空がオレンジ色に染まり始めている。

 外には、馬車の荷台に乗せられた巨大なコカトリスのお肉が待っている。


「コテツちゃん、外のお肉を運んできてちょうだい。ハク、お待たせ。今日からここが、私たちの新しいおうちよ。さっそく、とびっきり美味しい夕ご飯を作りましょう」


 私の言葉に、コテツはすぐに外へ向かって歩き出し、ハクは飛び上がって喜んだ。


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