第十八話:好評な海鮮和食
お日様が空の一番高い場所へと向かい、辺境の町フロンティアの通りに明るい光をたっぷりと落としている。
私の買い取った古い建物を改修して作った『食堂 しゃーろっと』の厨房は、今日も朝からたくさんの熱気とすばらしい匂いで満たされていた。
市場の奥にあるお魚屋さんから、海の魚と大量の黒い海藻を持ち帰ってから数日が経過している。
天日でしっかりと乾燥させ、かまどの弱い火でサッと炙って作ったパリパリの海苔。そして、きれいなお水で戻して一口の大きさに切り分けた、緑色のワカメ。
この海の恵みをふんだんに使った海鮮和食定食は、お店の新しいお食事として出したその日から、信じられないほどの大人気になっていたのだ。
巨大な土鍋の中では、ふっくらとした白いご飯が炊き上がり、真っ白な湯気を勢いよく上げている。お米の一粒一粒が真珠のように立ち上がり、かき混ぜるたびに甘い匂いが厨房の中に広がっていく。
その隣の厚い土のお鍋では、市場で買った大きな赤いお魚が、お醤油とすりおろした生姜、そして甘い果物の汁を合わせたタレの中でコトコトと静かに煮込まれている。お魚の脂が甘辛いタレの中に溶け出し、表面がキラキラと光っている様子は、見ているだけでお腹が大きく鳴ってしまいそうになるほど魅力的だ。
さらに別のお鍋では、お肉の骨から取った出汁と自家製のお味噌を合わせた温かいスープの中で、鮮やかな緑色のワカメがたっぷりと泳いでいる。
「コテツちゃん、お魚の火加減は今のままを保ってちょうだい。お汁が少なくなりすぎないように気をつけてね」
私が声をかけると、かまどの前に立つコテツちゃんは無言で大きく頷いた。
彼は空気の通り道を微調整し、お鍋を温めるための炎を一番良い状態に保ってくれる。彼がいなければ、これほどたくさんのお料理を同時に進めることは絶対にできない。私の自慢の頼りになる相棒だ。
私のお店はお昼のみの営業だ。そのため、町の人たちや冒険者のみんなは、この時間になるとお腹を空かせて一斉にやってくる。
「いらっしゃいませ! 食堂しゃーろっと、本日のお昼の営業を始めます!」
私がお店の入り口にある重い引き戸を横に開け、表に手作りの看板を出すと、すぐに大通りの方から賑やかな声が聞こえてきた。
「おう、お嬢ちゃん! 今日も一番乗りだぜ! あの海苔巻きおにぎりと、赤い魚の煮付けを頼む!」
大きな足音を立ててやってきたのは、冒険者ギルドのガンツさんだった。
彼の後ろには、いつものように大きな武器を背負った冒険者たちが五、六人ほど続いている。彼らは一番最初のお客さんとして、土間の客席にある一番大きな木のテーブルを囲んでどっしりと腰を下ろした。
「はい、すぐに用意しますから待っていてくださいね」
ガンツさんたちが入ってきたのを合図にするように、表の通りで待っていた町の人たちも次々とお店の中に入ってくる。
あっという間に土間に並べた木のテーブルはすべて埋まり、店内は注文の声を上げるお客さんたちでいっぱいになった。
私は急いで厨房へ戻り、作業台の上でおにぎりを握り始めた。
手をきれいなお水で洗い、市場で買った粗塩を少しだけ手のひらにまぶす。
温かいご飯を両手で優しく包み込むようにして取り、その真ん中に、細かく切った生姜焼きのお肉を入れる。ご飯とご飯の間に適度な空気を持たせるように、ふんわりと三角形の形に整えていく。
そして、仕上げに火で炙ったばかりの海苔をぐるりと巻きつける。
ほかほかとしたご飯の温かさと湯気を受けて、パリッとしていた海苔が少しだけしんなりとする。お米の白と海苔の黒の対比が、とても美しく仕上がった。
「コテツちゃん、配膳をお願いね」
私が木のお皿にお魚の煮付けと海苔巻きおにぎりを乗せ、お椀にワカメのお味噌汁をよそうと、コテツちゃんはすぐにお盆を受け取りに来た。
彼は太くて頑丈な両手に一つずつお盆を持ち、さらに平らな頭の上にもう一つのお盆を乗せる。
そして、大きな体を揺らすことなく、中に入っているお味噌汁を一滴もこぼさずに、滑らかな動作で客席へとお食事を運んでいく。
大柄な彼が静かに正確にお盆を置く様子は、お客さんたちもすっかり見慣れたもので、「今日も力持ちだな」「ありがとうよ」と嬉しそうに声をかけていた。
「わふっ! わんっ!」
入り口のそばでは、ハクが大きな尻尾をものすごい速さで左右に振りながら、お客さんたちの間を歩き回っていた。
彼はお客さんがお食事の端っこを落とさないかと期待して待っているのだ。冒険者の一人がお肉の端っこを少しだけ投げると、ハクは空中で見事にキャッチしてパクリと飲み込み、さらに尻尾の動きを速くして愛嬌を振りまいていた。
お店の床にこぼれたご飯粒もきれいに舐めとってくれるので、お掃除の手間が省けてとても助かる。美味しい匂いがいっぱいのこの空間が、ハクにとっても大好きな場所になっているようだった。
私は次々と注文を受けながら、手を休めることなくおにぎりを握り続けた。
客席のあちこちから、美味しいという声が耳に届く。
「この黒い紙みたいなやつでおにぎりを巻くと、何度食べても飽きないうまさがあるな! 海の匂いが口の中で弾けるみたいだ!」
ガンツさんが手で持った海苔巻きおにぎりを大きく口を開けて頬張り、とても美味しそうに噛み砕いている。海苔がちぎれる小気味良い音が、厨房にいる私のところまで聞こえてくるようだ。
「俺は、この緑色の草みたいなやつが入った汁がたまらないぜ! これを飲むと、ダンジョン探索の疲れが全部お腹の底から消えていくみたいだ!」
「こっちには赤い魚の煮付けのタレを多めにかけてくれ。この甘辛いタレだけで、白いご飯がいくらでも食べられるぞ!」
みんなが満面の笑みでお食事を口に運び、勢いよく器を空にしていく。
この世界で誰も見向きもしなかった未知の食材が、この町の人たちにこれほど受け入れられている。私が前世の記憶を頼りに作り上げた和食が、彼らの生活の一部になりつつあるのだ。
自分の作ったご飯をこんなにも美味しそうに食べてくれる様子を見るのは、私にとって何よりも嬉しいことであり、お料理を作るための大きな活力になっていた。
そんな風にお昼の営業が最も忙しい時間を迎えていた時だった。
お店の入り口に、少し戸惑ったような顔をした一人の男性が立っていた。
頭にねじり鉢巻をきつく巻き、水仕事に使うような分厚い前掛けをしている大柄な男性。
それは、私が市場の奥で海の魚と一緒にあの黒い海藻を譲ってもらった、魚屋のおじさんだった。
「おじさん、いらっしゃいませ!」
私が厨房から元気に声をかけると、魚屋のおじさんは店内のものすごい人数のお客さんを見て、目を丸くして驚いていた。
「おう、お嬢ちゃん。……なんだか、とんでもなく繁盛しているな」
おじさんは、ガンツさんたちが夢中になっておにぎりを食べている姿を見て、信じられないというような顔をしたまま、少し遠慮がちに中へ入ってきた。
「ちょうどあそこの席が空いていますよ。お昼ご飯を食べに来てくれたんですか?」
私が指を差して案内すると、おじさんは少し気まずそうに頭を掻きながら、空いている椅子に腰を下ろした。
「いやな、実は市場の商人たちの間で、最近ずっとこのお店のことが話題になっているんだよ」
おじさんは、厨房にいる私の方へ少し身を乗り出して、声を潜めるようにして話し始めた。
「大通りの外れにある新しい食堂で、海の幸を使ったとんでもなく美味い料理が出されているってな。しかも、それがただの魚料理じゃないらしい。真っ黒な紙みたいなもので巻いた飯や、緑色の草が入ったスープが絶品で、一度食べたら毎日通いたくなるって、野菜売りのおかみさんや道具屋の親父が大きな声で自慢げに話していたんだ」
私は嬉しくなって、満面の笑みで頷いた。
「はい、あの日おじさんから譲ってもらった海藻で作ったんです。海苔巻きおにぎりと、ワカメのお味噌汁ですよ」
「……本当に、あの海のゴミを料理にしたのか?」
おじさんは私の言葉を聞いて、さらに目を丸くして大きな声を出した。
「ああ、俺はてっきり、お嬢ちゃんが魚の下に敷いて見栄えを良くするための飾りにでも使うんだとばかり思っていたんだ。あんなもの、海辺に住んでいる漁師だって誰も食べないぞ。煮ても焼いても味がしないし、本当に食えるものなのか?」
「百聞は一見に如かず、ですよ。おじさんにも、あの時のお礼を兼ねて海鮮和食定食をご馳走します。少し待っていてくださいね」
私はすぐに新しいお盆を用意した。
ふっくらとした白いご飯に、火で炙ったばかりのパリッとした海苔を巻いたおにぎりを二つ並べる。
お肉の出汁と自家製のお味噌に、つるんとしたワカメをたっぷり入れたお味噌汁をお椀によそう。
そして、おじさんのところで買った赤いお魚を、お醤油で甘辛く煮付けたものを木のお皿に乗せた。上からとろみのあるタレをスプーンでたっぷりと回しかけると、お魚の表面がとても美しく光った。
「コテツちゃん、お願い」
コテツちゃんがお盆を運び、魚屋のおじさんの目の前にそっと置いた。
「さあ、冷めないうちにどうぞ」
私が言うと、おじさんは少しばかり緊張した手つきでお盆の上の料理を見つめた。
自分が毎日邪魔なゴミだと思って捨てていた黒い草が、おにぎりに巻かれ、スープの中に入っている。その事実に、まだ少しだけ抵抗があるようだった。
「おじさんのところで買った赤いお魚、とっても美味しかったですよ。お醤油という特別な調味料で煮てあるんです」
私の言葉に背中を押されるように、おじさんは木製のフォークを手に取った。
まずは、自分が見慣れている赤いお魚の煮付けから口にするようだ。
フォークの先でお魚の身を少しだけ崩すと、ほとんど力を入れなくてもほろりと柔らかく身が解けた。それに甘辛いタレをしっかりと絡めて、おじさんは大きく口を開けて放り込んだ。
その瞬間、おじさんの口の動きがピタリと止まった。
彼はゆっくりと数回噛み、それから大きく息を吐き出した。
「なんだこの味付けは……。俺は毎日魚を食っているし、色々な調理法も知っているつもりだったが、こんなに深い味の魚料理は初めてだ。魚の脂と、このしょっぱくて甘いタレが、口の中で見事に一つになって……とんでもなく美味いじゃないか」
おじさんは驚きの声を上げ、すぐにもう一口お魚の身を口に運んだ。
お醤油と生姜の力に、完全に圧倒されているようだった。
「次は、その黒い海苔が巻かれたおにぎりを食べてみてください」
私が促すと、おじさんはフォークを置き、さらに緊張した手つきで海苔巻きおにぎりを持ち上げた。
鼻を近づけて匂いを嗅ぎ、それから思い切って端っこをガブリと噛みちぎる。
パリッ。
海苔がちぎれる小気味良い音が、土間の客席に小さく聞こえた。
おじさんは目を大きく開いたまま、口をモグモグと動かし続けた。
そして、信じられないものを見るような顔で、自分の手にあるおにぎりをまじまじと見つめた。
「こ、これは……本当にあの黒い草なのか? あの網に絡まっていた海のゴミが、こんなに良い香りがして、パリッとした食感になるっていうのか!」
おじさんは椅子から立ち上がりそうになるほどの勢いで大声を出した。
「白いご飯の甘みを、この磯の香りがものすごく引き立てている! 噛めば噛むほど、海の良い匂いが口いっぱいに広がるぞ! これが……俺が毎日樽に放り込んで捨てていたゴミの味だって言うのか!」
おじさんの叫び声に、ガンツさんたち他のお客さんも楽しそうに笑い声を上げた。
「おう、魚屋の親父! お前もこの店の飯の凄さに驚いてるな! お嬢ちゃんは魔法使いみたいに、どんなものでも最高に美味い飯に変えちまうんだ!」
「その通りだ! この店の飯を食ったら、他の酒場の飯なんて味がしなくて食えなくなるぜ!」
冒険者たちの言葉に、おじさんは呆然としたままワカメのお味噌汁のお椀を持ち上げた。
ズズッと音を立てて汁を飲み、中に入っている緑色のワカメを噛む。
「……ツルッとしていて、歯ごたえが良い。ただの葉っぱじゃない。汁にも海の出汁がしっかりと出ている。美味い……本当に、美味い」
おじさんはそのまま夢中になっておにぎりとお魚を食べ進め、あっという間にお盆の上の料理をすべて平らげてしまった。
最後の一口を飲み込んだ後、おじさんは木のお茶碗をテーブルに置き、とても真剣な顔で私の方を見た。
「お嬢ちゃん」
おじさんは、自分の手で前掛けをギュッと握りしめていた。
「俺は、とんでもない間違いをしていた。こんなに素晴らしい海の恵みを、ゴミだと言って毎日捨てていたなんて。魚屋の看板を掲げておきながら、海の幸の本当の価値を全く分かっていなかった」
おじさんは私に向かって深く頭を下げた。
「あの海藻を、こんなに美味い飯に変えてくれて、本当にありがとう。お嬢ちゃんのおかげで、俺の魚屋としての目が覚めたよ」
「顔を上げてください、おじさん。おじさんが遠くの海から氷の魔石を使ってお魚と一緒に運んできてくれたからこそ、私はこの和食を作ることができたんです。私の方こそ、とても感謝しているんですよ」
私が笑顔で言うと、おじさんは顔を上げ、大きな手で自分の顔を一度力強く拭った。
その目には、新しい決意のようなものがはっきりと見えた。
「お嬢ちゃん、頼みがある。これからは、あの黒い海藻も、立派な商品として俺の店で扱うことにする。魚を運んでくる港の仲間に手紙を書いて、海藻だけを丁寧に集めてきれいに洗ってから持ってくるように手配する。だから、うちの店から定期的に買ってくれないか?」
それは、私にとってこれ以上ないほど嬉しい提案だった。
海苔やワカメの材料が、これからも安定して、しかもきれいな状態で手に入るということだ。
「本当ですか! ありがとうございます、ぜひお願いします!」
「おう、任せておけ! それに、遠くの港町には、この町にはまだ入ってきていない珍しい魚や、大きなエビやカニなんかの海の幸がまだまだたくさんあるんだ。お嬢ちゃんなら、それもとびきり美味い料理に変えてくれるだろう。これからは、うちの店が責任を持って、最高の海産物を他の港町からも集めてこの食堂へ卸すぜ!」
おじさんは力強く自分の胸を叩いて、私に約束してくれた。
和食の献立がさらに広がる未来を想像して、私は嬉しさで胸がいっぱいになった。
私がずっと望んでいたお魚料理の食材が、これからは安定してこの厨房へ届くようになるのだ。フロンティアの町での仕入れの地盤が、これで完全に強固なものになった。
「わんっ! わふぉん!」
ハクも私と一緒に喜ぶように、元気よく声を上げて前足を床にバンバンと叩いた。
コテツちゃんは無言のまま、空になったおじさんのお盆を片付けるために静かに近づいてきた。
王都のエヴァンス伯爵邸にいた頃は、台所に入ることすら許されず、薄味のスープばかり飲まされていた。
理不尽に家を追い出された時はどうなることかと思ったけれど、今はこの辺境の町へ来て本当に良かったと心から思える。
お日様の光が差し込む広い土間には、お客さんたちの楽しそうな笑い声がいつまでも続いている。
私の食堂は、今日も大繁盛している。
お米とお味噌、お醤油の力。そして海の恵み。
新しい食材を手に入れるたびに、私の作る和食はさらに豊かに広がっていく。
私は大きく息を吸い込み、気合を入れ直して、次のおにぎりを握るために温かいご飯を両手で優しく包み込んだ。




