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追放令嬢の和食食堂経営 ~バカにされた土魔法で最高の相棒とともに和食を作ったら、最強のもふもふが住み着きました~  作者: 速水静香
第三章:和食食堂の開店へ

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第十一話:特急便で届いた「白い穀物」と「茶色い豆」

 フロンティアの町にやってきてから、私たちの毎日はとても穏やかで充実したものになっていた。

 私が買い取った古い建物の厨房は、土属性魔法の力ですっかり使いやすくなっている。


 トントントントン!


 広く頑丈な作業台の上で、包丁が軽快な音を立てている。

 今日のお昼ご飯は、市場のお肉屋さんで買った厚切りのお肉と、葉っぱのお野菜をたっぷり使った炒め物だ。あの大きなコカトリスのお肉は、毎日いろんな料理にして食べていたら、あっという間になくなってしまった。巨大な魔物のお肉だったけれど、ハクの底なしの食欲にかかれば数日も持たなかったのだ。だから最近は、町の大通りにある市場まで出かけて、美味しそうな厚切りのお肉を新しく買ってきている。


「よし、お野菜はこれくらいでいいわね」


 切り終わった緑色のお野菜を大きなお皿に避けておく。キャベツによく似た丸くて青々とした葉っぱのお野菜と、カブのような形をした白い根菜だ。

 隣では、かまどの上に置かれた大きな鉄のお鍋が、すでにチリチリと音を立てて熱くなっていた。


「コテツちゃん、もう少しだけ火を強くしてくれるかしら。お肉を一気に焼き上げたいの」


 私が声をかけると、かまどの前に立つコテツちゃんは大きく頷いた。

 彼が太い腕を動かして空気穴の大きさを調整すると、パチパチと燃える薪の勢いが増し、お鍋の底に当たる炎が少しだけ大きくなる。

 彼が行う火の管理は本当に手際が良い。私が細かい指示を出さなくても、料理の進行に合わせた一番良い状態を常に保ってくれるのだ。


 お鍋の中に豚の油を引き、細かく切ったお肉を先に入れる。


 ジュウウウッ!


 激しい音と一緒に、お肉の焼ける匂いが厨房に広がる。

 お肉の表面が白くなってきたら、ざく切りにした葉っぱのお野菜と、甘い根菜を加える。

 味付けは、市場で買った粗塩と、森で見つけた爽やかな香りのする葉っぱを細かく刻んだものだけだ。


 ザッ、ザッ。


 長い木べらを使って、お鍋の中身を大きくかき混ぜる。

 お肉の香ばしい匂いと、お野菜の甘い匂いが一つになり、厨房の中にたっぷりと広がっていく。

 窓を開け放つと、外から吹き込む風に乗って、その美味しそうな匂いが通りへと運ばれていくのがわかった。


 私の足元では、ハクが前足を床に擦り付けながら、待ちきれない様子で短い声を出していた。

 大きなお鼻を上に向けてヒクヒクと動かし、お鍋の縁から立ち上る湯気を追いかけている。お口の端からはよだれがこぼれ落ちそうになっていて、彼は慌てて長い舌でペロリと舐めとった。


「もうすぐできるからね、ハク。お野菜がしんなりしたら完成よ。もう少しだけ待っててちょうだい」


 私が笑いかけながら木べらを動かすと、塩と香草がお肉とお野菜にしっかりとなじみ、つやつやとした油が全体を覆う。

 食材の端が少しだけ茶色になったのを確認した。


「よし、これでいいわ」


 お鍋を火から下ろし、大きなお皿に山盛りに盛り付ける。

 もくもくと立ち上る湯気と匂いに、私のお腹もぐうと大きな音を鳴らした。


「さあ、お昼ご飯にしましょう。二人とも、手を洗って……あ、ハクは前足を拭いてからね」


 私はハクの専用の大きなお皿に炒め物をたっぷりとよそい、少しだけ冷ましてから床に置いた。


 ガツッ! はむはむはむ!


 ハクは大きなお口を開け、お肉とお野菜に勢いよく噛み付いた。

 シャキシャキとしたお野菜を噛み砕く音と、ハクが夢中になってお肉を飲み込む音が厨房に聞こえてくる。彼は本当に食べるのが大好きだ。その見事な食べっぷりを見ているだけで、私は料理を作ってよかったと心から嬉しくなる。


 コテツちゃんも、私が用意した濡れ布巾を受け取り、自分の腕や顔を綺麗に拭いている。彼は食事をしないけれど、私たちが食べている間はいつもそばに立って、優しく見守ってくれているのだ。


 私も自分のお皿に炒め物を取り分け、作業台の前に立ったままフォークで一口食べた。

 お野菜の自然な甘みと、お肉から溢れる強い旨味が、塩のしょっぱさによって引き立てられている。香草の風味が後味をさっぱりとさせてくれて、とても美味しい。市場で買ったお肉も、十分すぎるほど美味しい。弾力もちょうどよく、噛むたびに肉汁が口の中に広がる。


 けれども。


 私は持っていた木製のフォークをお皿の上に置いた。


 美味しい。たしかに美味しいのだ。

 毎日工夫をして、違う食材を組み合わせたり、焼き方を変えたり、煮込み料理に挑戦したりしている。

 でも、やっぱり物足りない。


 私のお皿の上にあるのは、単なるおかずだけなのだ。

 このしょっぱくて旨味のある炒め物を、ふんわりとした白いご飯の上に乗せて食べたい。

 炒め物の油と塩気が染み込んだ白いご飯を、大きなお口を開けて頬張りたい。

 そして、もしここにお醤油という最高の調味料があれば、お肉とお野菜の味はもっともっと奥深くなるはずだ。お塩の味付けはすばらしいし、素材の味を引き出してくれる。だけど、毎日お塩ばかりではどうしても単調になってしまう。味に深みが出ないのだ。

 お醤油があれば、お肉を焼くときに数滴垂らすだけで、焦げたお醤油の香ばしさがキッチン中に広がり、食欲を強烈に刺激する。大豆が持つ独特の旨味が合わされば、同じお肉でもまったく違う料理に生まれ変わる。

 そしてお味噌。温かいお味噌汁があれば、食事の満足度は格段に跳ね上がる。どんなご馳走よりも、一杯の温かいお味噌汁が心を落ち着かせてくれるのだ。


 私は小さく息を吐き出し、お皿の横に置いたお水の入ったコップを手に取った。

 一口飲んで口の中をさっぱりさせても、私の頭の中にある和食への強い思いは一向に消えてくれない。


 冒険者ギルドの仕入れ屋であるキースさんに依頼をしてから、すでに数週間が経過している。

 彼なら絶対に見つけ出してくれると信じているけれど、やはり待つ時間はひどく長く感じてしまう。

 大陸中を走り回っているのだから、そう簡単に見つかるものではないと分かっている。それでも、毎日の食事のたびに、お米とお豆への渇望が日に日に強くなっていく。


「早く会いたいな……白いご飯」


 私がぽつりとつぶやくと、お皿を綺麗に舐め終わったハクが、不思議そうに首を傾げて私を見上げた。


「ごめんね、ハク。とっても美味しかったわよ。ただ、もっともっと美味しいものを作りたくなっちゃったの。ハクにも絶対に食べさせてあげるからね」


 私がしゃがみ込んでハクのふかふかした頭をよしよしと手でさすってやると、ハクは嬉しそうに鼻を鳴らして私の手にすり寄ってきた。


 昼食の片付けをコテツちゃんに手伝ってもらいながら、私はこれからのことを考えていた。

 もしお豆が手に入ったら、すぐにでも発酵の準備に取り掛からなければならない。お醤油やお味噌を作るためには、年単位の長い時間が必要になる。将来お店を開いてからもずっとお料理を提供し続けるためには、届いた大量の食材を安全に保管して、常に仕込みを繰り返す場所が必要だ。

 この建物のどこかに、大きな貯蔵用の空間を作ろうか。魔法を使えば、地下に涼しい部屋を作ることも難しくはないはずだ。


 そんなことを頭の中で思い描いていた、まさにその時だった。



 ヒュオオオオオッ!


 突然、建物の外から強い風の音が聞こえてきた。

 ただの風ではない。もっと重たくて、空気を叩きつけるような大きな音だ。

 それと同時に、お店の前の通りが何かに覆い隠されたように暗くなった。何か途方もなく大きなものが、町の上空を飛んでいるようだった。


「なにかしら」


 私が顔を上げると、ハクが外の異常に気づき、入り口の引き戸の方へ走っていった。

 コテツちゃんも動きを止め、入り口の方へ顔を向けている。

 私もエプロンで手を拭きながら、ハクの後を追って引き戸に手をかけた。


 ガラッ。


 重い戸を開けると、ものすごい突風が吹き込んできた。

 砂埃が舞い上がり、私は思わず腕で顔を覆う。


 バサッ、バサッ!


 巨大な翼が風を起こす音が連続して聞こえ、お店の前の広い通りに、信じられないほど大きな生き物が舞い降りた。

 鷲のような鋭いクチバシと頭、そしてライオンのような力強い胴体を持った巨大な獣。

 それは絵本でしか見たことのない、空の王者グリフォンだった。


「なんだありゃ!」

「空から化け物が降ってきたぞ!」

「武器を持て!」


 通りのあちこちから、冒険者たちの怒声や叫び声が聞こえてくる。みんな、剣や槍を引き抜いて、身構えていた。

 無理もない。辺境の町に突然こんな巨大な魔獣が降り立てば、誰だって驚く。


「おいおい、物騒なものを向けるんじゃねえ。こいつは王都の正規の輸送便だ。襲ってくるような野良の魔獣とは違う」


 よく通る声が聞こえた。

 巨大なグリフォンの背中には立派な鞍が取り付けられており、そこから一人の男性がひらりと身軽に飛び降りてきた。

 目立たないくすんだ色の服を着て、全身に白っぽい土埃をかぶっている。

 冒険者ギルドで出会った、あの気難しい凄腕の仕入れ屋、キースさんだ。


「キースさん! どうしてグリフォンなんかに乗っているんですか!?」


 私が大声で尋ねると、キースさんは服の埃を手でパパンと払いながら、口の端を上げてこちらへ歩いてきた。


「よう、お嬢さん。待たせたな。あの無茶な依頼の品を届けてやったぜ」


 彼の顔には明らかな疲労が見えたが、それ以上に、大きな仕事をやり遂げたという強い自負のようなものが表れていた。


「届けてやったって……まさか、そのグリフォンで?」


「おう。お嬢さんがミノタウロスの素材の代金をごっそり前金として渡してくれたからな。その莫大な資金をフルに使わせてもらった。歩いて大陸中を探し回っていたら、何年かかるかわからねえ。だから、王族専用の特急輸送便を金に物を言わせて貸し切ったんだ」


 キースさんは親指で背後のグリフォンを指し示した。


「この特急のグリフォンを使えば、山を越え、川を越え、大陸の端から端まで数日で移動できる。お嬢さんの依頼は時間との勝負だと思ったんでな。俺の持っている独自の情報網と、この空の移動手段を組み合わせたってわけだ」


 私は驚きのあまり言葉が出なかった。

 未知の食材を探すために、王族が使うような超高級な移動手段を使うなんて、普通は考えられない。彼がいかに本気でこの依頼に取り組んでくれたかが伝わってくる。


「すごい……キースさんは本当に凄腕の仕入れ屋なんですね」


 私が素直に感心して言うと、キースさんは照れ隠しのように鼻を鳴らした。


「プロの仕事ってやつさ。情報網の構築にも手間をかけたぜ。各地にある大商会の長たちに速達の鳥を飛ばして、白い穀物と大きな茶色い豆の情報を一斉に集めさせた。王都の商人、港町の海運ギルド、砂漠の行商人。俺の持つすべての伝手を総動員したんだ」


 キースさんは自分の胸をドンと叩いた。


「その結果、東の果ての湿地帯と、南の果ての山岳地帯に目当てのものがあることがわかった。俺はすぐさまグリフォンで飛んでいって、直接交渉をしてきたんだ」


 キースさんが説明している間に、大通りの向こうから、ガラガラガラという重たい車輪の音が近づいてきた。

 四台もの大きな荷馬車が列を作って、お店の前に到着する。

 それぞれの荷台には、パンパンに膨らんだ麻袋が山のように積まれていた。その周りには、剣や槍を持った強そうな護衛の冒険者たちが何人もついている。


「品物は馬車で運ばせた。俺はグリフォンで先回りして村人と交渉し、買い取った品物を一番近い大きな町の商人たちに運ばせる手配をしたんだ。それから腕の立つ護衛をつけて、ここまで一気に運ばせた」


 キースさんは一番手前の荷馬車の方へ歩き出しながら、今回の探索の旅について語り続けた。


「東の果ての湿地帯。腰まで泥に浸かるような場所だ。現地の案内人を何人も雇って、ようやくたどり着いた。村の長老に金貨の山を見せて交渉したが、最初はかなり渋られたぜ。神聖な食べ物だと言い張るからな。だから、俺はさらに金を積んで、なんとか買い取ることに成功した。もちろん、お嬢さんとの約束通り、今後も定期的に収穫物を買い上げて、この町まで直送する長期の契約もしっかりと結んできたぜ」


 彼は荷台に積まれた麻袋の一つを引き寄せ、太い紐をさっと解いた。


「そこにあったのは、お嬢さんの言う通り、水辺で大切に育てられている不思議な植物だった。さあ、見てみろ。これがその白い穀物だ」


 彼が麻袋の口を大きく開ける。


 私は前に進み出て、袋の中を覗き込んだ。


 そこにあったのは、私が前世で毎日見ていた、あの見慣れた白い粒だった。

 一つ一つの粒が小さくて、丸みを帯びた形が綺麗に揃っている。欠けているものはほとんどない。

 私がそっと両手でその白い粒をすくい上げると、サラサラと心地よい音を立てて手のひらからこぼれ落ちた。

 ひんやりとした感触と、独特の穀物の匂い。お日様の匂いと、大地の匂いが一つになったような、とても懐かしい匂いがした。

 間違いない。これはお米だ。


「ああ……これです。私がずっと探していたものは、これです!」


 私の声は、喜びのあまり大きく上ずっていた。全身が喜びに沸き立つのがわかる。

 王都を追い出されてから、ずっと心の中で思い描いていたもの。

 それが今、私の手の中にあるのだ。嬉しさのあまり、その場で飛び跳ねてしまいそうになる。


「わんっ!」


 ハクも私の足元で、麻袋の中に顔を突っ込もうとして背伸びをしていた。

 彼も、私がこれほど喜んでいるのを見て、これがとても美味しいものになるのだと理解したのだろう。尻尾の振りがものすごい速さになっていて、風を起こすほどだ。


「ふん。お嬢さんがそこまで喜ぶなら、苦労して探した甲斐があったというものだ」


 キースさんは得意げに口角を上げた。


「だが、これで終わりじゃないぜ。もう一つの注文だった、大きな茶色い豆。あれを見つけるのも一苦労だったんだ」


 キースさんは次の荷馬車へ向かい、別の麻袋の紐を解いた。


「こっちは南の乾燥した山岳地帯だ。普通の豆よりもずっと大きく育つ品種があるという情報を頼りに、山を越えてきた。そこの村人たちは、この豆を家畜の餌にするか、すり潰してスープにとろみをつけるためだけに使っていた。発酵させるなんて発想は欠片もなかったようだがな。こっちの村とも、定期的な仕入れの契約を済ませてある。これで食材が途切れる心配はない」


 彼が開けた袋の中には、コロコロとした丸くて大きな茶色い豆がぎっしりと詰まっていた。

 大豆だ。

 これも私の記憶にあるものと全く同じだ。いや、前世で見ていたものよりも、一つ一つの粒が大きく、中身がしっかりと詰まっているように見える。

 私は茶色い豆を一粒取り出し、前歯で少しだけ噛んでみた。

 非常に硬いが、中はしっかりと乾燥していて、かすかに豆の甘みを感じる。


「すばらしいです、キースさん。水分が飛んでいて、これ以上ないほどの状態です。しかも、これから先も定期的に運んでもらえるなんて。これがあれば、私の思い描く最高の調味料が絶対に作れます」


 私が茶色い豆を手に取って満面の笑みで言うと、キースさんはやれやれというように頭を掻いた。


「お嬢さんの言う通り、すぐに調理や仕込みに使える状態で持ってきた。乾燥具合も村の連中に確認させて、一番状態の良いものを選んである。これだけ大量にあれば、お嬢さんの言う発酵とやらが失敗しても、何度でもやり直せるだろう」


 キースさんの仕事ぶりは、専門家としてすばらしいものだった。

 ただ見つけてくるだけでなく、品質までしっかりと見極めて、最も良い状態で届けてくれたのだ。特急のグリフォンを使いこなし、大陸中の情報網を駆使して、数週間という信じられない速さで依頼を達成してくれた。定期的な取引の契約までしっかりと結んでくれたのだから、これ以上の結果はない。


「キースさんには、どれだけお礼を言っても足りません。これは約束の報酬の残りです。どうかお受け取りください」


 私は、コテツちゃんにお願いして持ってきてもらった重い革袋を、両手で抱えるようにしてキースさんに差し出した。

 冒険者ギルドでミノタウロスの素材を売って得た資金の半分はすでに前金として渡してあるが、これはその後半分の残金だ。彼が今回やってくれた凄まじい仕事の価値を考えれば、これでも安いかもしれない。


 キースさんは革袋を受け取り、その重さを片手で確かめるように上下に揺らした。

 チャリン、と中に入った大量の金貨が重たい音を立てる。


「確かに受け取った。これだけの実入りがある仕事は久しぶりだったぜ。特急のグリフォン代で前金はかなり飛んでいったが、この残金があれば十分にお釣りがくる。困難な依頼だったが、職人としては大いに楽しませてもらった」


 彼は満足そうに大きく頷き、荷馬車の御者たちや護衛の冒険者たちに手の合図で指示を出した。

 それを見た彼らが、荷馬車の荷台から麻袋を次々と地面へ下ろし、お店の前の通りに積み上げていく。

 数十個にも及ぶ大きな麻袋が、あっという間にお店の前に山積みになった。


「それじゃあ、俺はこれで失礼する。定期便の運送手配の仕事も残っているしな。お嬢さんのその料理とやらが完成したら、俺にも一口ご馳走してくれよ。あれだけ苦労して空を飛んで探した食材がどんな味になるのか、少しは興味が湧いてきたからな」


 キースさんはひらりと身軽な動作でグリフォンの鞍に再び飛び乗った。

 グリフォンが低く鳴き声を上げ、太い脚で地面を蹴る準備をする。


「もちろんです! お店が正式に開いたら、一番にご招待しますから!」


 私が両手を大きく振って見送ると、キースさんは短く手を上げて応えた。


 バサァァァッ!


 グリフォンが巨大な翼を広げて強く羽ばたくと、再び大きな風が巻き起こった。

 あっという間に空高く舞い上がったキースさんは、遠くの雲の方へと小さくなっていき、やがて見えなくなった。荷馬車の列も、仕事を終えて町の大通りを引き返していく。


 お店の前に静けさが戻ってきた。

 私は、お店の前の通りに山積みになった麻袋の前に立った。

 私の背丈よりもずっと高く積まれた、数十個にも及ぶ大きな袋。

 白いお米と、茶色い大豆。

 この二つの食材が持つ可能性を考えると、全身の血が熱く巡るのを感じる。

 家を追い出された日から、私はこれを求めてここまで来たのだ。


「コテツちゃん、ハク。ついに手に入れたわ」


 私が振り返って声をかけると、コテツちゃんは両手を高く上げて万歳のポーズをとり、ハクは「わんっ! わぉん!」と元気いっぱいに吠え回った。

 相棒たちも、私の喜びを自分のことのように感じてくれているのがわかる。


「さあ、このまま外に置いておくわけにはいかないわね。コテツちゃん、この荷物を全部、お店の中の土間まで運んでちょうだい」


 私がお願いすると、コテツちゃんは力強く頷いた。

 彼は太い両腕で、重たい麻袋を一度に三つも四つも抱え込み、軽々とお店の中へ運び入れていく。大人が何人もがかりでやるような作業を、一人で、しかも驚くべき速さでこなしていくのだ。

 数十個もあった麻袋は、あっという間にすべてお店の広い土間へと移された。


 道具も、場所も、そして一番求めていた食材も。

 必要なものはすべて揃った。


「休んでいる暇はないわ。すぐにこれを綺麗なお水で洗って、仕込みの準備に取り掛かるのよ」


 私は腕まくりをして、大きく息を吸い込んだ。

 和食の命であるお醤油とお味噌を作るための、長く大切なお仕事が、いよいよここから始まるのだ。


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