【幕間】深淵
暗い話です。
暗い暗い洞穴の奥で母親が隠れるように自分を生んだ。
外は怖いよと教えられ、ずっとずっと洞穴の奥で母親と2人でひっそりと暮らしていた。
それが暴かれたのはいつかなんて自分は覚えてはいない。
強い光と共に沢山の人間が洞穴を暴く。
母親の咆哮はなき叫ぶ声に変わりそれは誰の耳にも聞こえない。
自分の母親を呼ぶ声をかきけす怒号と爆音。
最後に聞いた母親の声は断末魔。
誰かはわからず首を捕まれ、馬車に乗せられる。
洞穴を暴いた人間の顔はわからない。覚えていない。
口々に聞こえる単語はその当時の自分にはわからないものばかりだった。
自分はこれからどうなるのか。
母親はどうなったのか。
怖くて目を瞑った。
見なければなかったことになる気がした。
連れられた場所は寂れ、寒かった。
必要最低限の食事。
暗い場所に自分ただ1人だけ。
時折来る黒い男が自分を痛め付ける。
痛め付けるだけ痛め付けたら「人を怨め、全てを憎め」と暗い言葉を残していく。
痛い。
痛い痛い。
痛い痛い痛い。
腹から痛みと共に沸き上がる暗い黒い強い気持ち。
あぁ…これが
これが…
きっとこれが…
***
暗い地下、黒のローブを着た青年と同じ黒いローブを着た妙齢の女性が足下を見つめる。
そこには黒い塊が溶けていた。
元の造形はなくみるも無惨でその黒い塊は生き物だったのかすらあやしい。
壁や床は元の茶色い地面の色ではなくタールを溢したような黒に染まっている。
「綺麗ね…怨み辛みが全てに溶けているわ」
「あの塊が溶きれば完成ですよ」
「素敵だわ…きっとあの方たちの復活も近いわ。でもその前に依り代と呪いを振り撒く場所を探さなくてはダメね」
「ちょうどいい依り代がいる。隣国の令嬢がそれはそれは美しい真っ白な魂だと聞きました」
にたりと言う嫌な笑い方をした青年に女性は嬉しそうに答える。
「それはきっと綺麗に黒く染まるわね」
黒い塊は今も溶け続ける。




