まだ去らぬ一難
一瞬の静寂のあと、トリエ様は立ち上り礼をし「フォンセ王国、第1王子トリエ・カテドラルと申します」と自己紹介をしてくれた。
私は慌てて淑女の礼をとり「リアナ・コーラル・スコルプと申します。挨拶が遅れ申し訳ありません」と返す。
一体、何が起きているのだろうか?
正直理解できなかった。
知らされていない事実をいきなら突き付けれ、光栄に思えと言われても私はそう思えない。
しかもストーリーでは私の婚約はまだ3年後だし、相手も“第2王子”だったはずだ。
「母上、婚約のことは聞いておりません。どういうことですか?」
お父様も知らされていなかったのだろう。お父様の声はいつもよりワントーン低く、怒りを感じる。
「ウォルター、お前に言う必要はないでしょう。どうせ、会わせずに断るのでしょう?そうなっては困ります。その話は後でいたします。トリエ様、御前で失礼いたしました。リアナ」
お祖母様は有無も言わせぬ迫力で私を見つめ「トリエ様に屋敷を案内しなさい」と言う。
親子喧嘩がこれから始まる中、王子様をここに居させる訳にはいかないだろう。
「はい、トリエ様。私がご案内いたします」
そうトリエ様に声をかけるとともに執務室から出ていく。
おそらくその後はお祖母様とお父様の激しい言い合いだろうと容易に想像できるのであった。
「お見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ありませんでした」
執務室からまずはサロンに案内をしようと歩いていた廊下でトリエ様に謝罪をする。
「いえ、私も急に訪問してしまい申し訳ありませんでした。ご迷惑でしたでしょう」
トリエ様は申し訳なさそうに私を見る。
心の中ではかなり迷惑ですと思いながらも鍛えられた表情筋は微笑みから動かすことはなく「いえ、驚きはしましたが、迷惑ではありません」と答えた。
「ふふふ、君は中々の強かさんなんだね。正直、顔に迷惑だって出ると思った。アイテルに色々話は聞いていたけど、きちんと貴族としての嗜みもあるんだ」
現実では精霊はいまだに見えていないのだが、アイテルはあれ以来夢の中のお茶飲み友達となっていた。
以前夢の中でアイテルは王族の魂の美しさを絶賛していた。人の上に立つものは高潔なる美しい魂でも持っていないとなれないのだろう。
トリエ様も王族、例外なく精霊に気に入られているのであろう。
「トリエ様はアイテルにお会いしたことがございますか?」
「ああ、彼から魂は正直好みではなく、魔力が強い訳ではないが気に入っている子がいると言う話を聞いて是非とも会ってみたいと思った。もし互いが気に入れば是非、婚約者にとは私の母と君のお祖母様にお話させていただいたのだが…こんなに早く実現するとは思っていなかった。すまなかった」
彼は実際悪くはない。
隣国との繋がりが欲しいお祖母様の暴走の一種だろう。
「トリエ様が謝る必要はございません。祖母が連絡を怠ったためこのようになってしまったのです。せっかくいらっしゃったのですからゆっくりしていって下さい」
「そうさせて貰おうかな」
そう微笑んだトリエ様はまさしく異国の王子、とても美しくて一瞬ときめいたのはここだけの話だ。




