精霊の申し子
セヴィが我が家に来て4日ほど経過した。
虐待があって初めは大人にビクビクしていたセヴィだったがまだ恐怖はある様子だがここは安全な所だと感じてきた様子で時折安堵の顔を見せるようになった。
同じ子供だからか初日の夜のことがあったからか私には割りとべったりでお父様は羨ましそうに私たちを見つめていた。
お母様は微笑ましいものを見るようにしていて誰もセヴィに悪感情を抱いていない。
ロゼリアへはセヴィが家に慣れていないため面会はお互いにしていない。
私もセヴィがべったりなためロゼリアとはしばらく会っていない。
ーセヴィと一緒にいれるのは嬉しいんだけど、ロゼリアに会えないのは寂しいなー天使は元気かな。
「リアナ様、手がお留守ですよ」
今日は歴史や経済など社会学の家庭教師のサーシャ先生の授業だ。
実は今習っている教科(数学、語学、社会学、マナーの4種類学んでいる)の中でも一番苦手だ。
正直、横文字覚えにくい。
もちろんある程度はリアナとしての知識、前世の星ラプの知識でわかる範囲はある。しかし隣国のフォンセ王国の事は全くわからない。
「では昨日復習です、フォンセ王国が産出世界一のものは何でしょうか?」
「魔石です」
これはファンタジー過ぎて嬉しくなってすぐに覚えたことだ。
魔石は宝石のように産出しやすい場所がある。
魔力に富み、精霊に愛されし土地を掘り進めていくと産出される。しかし、魔石は石油と同じ限りある資源なのだ。
魔力が枯渇したり大量に取ってしまうと魔石は二度と産出されない。
フォンセ王国は条件が合致する土地が豊富のだ。
魔石の利用方法は様々で精霊の恩恵により属性が変化する。
例えば水の魔石を使用すれば水道、火の魔石を使用すればコンロといったように上手く生活に利用されている。
「ではフォンセ王国の魔石の主な産出都市は?」
「えっと…ノッテ?」
「ノッテは首都でございます」
「お姉ちゃん、ネグルだよ」
「セヴィ様、正解でございます」
セヴィは私から全然離れなかったので3日前から一緒に授業を受けている。
たった3日ほど一緒に受けただけなのにセヴィは驚くほど知識を吸収していった。
元々、乙女ゲームの攻略者。
能力値は一般よりは高い。
私も自分で言うのもなんだが出来が悪い訳ではないと思うのだが…この有り様である。
「セヴィはすごいわ。よく覚えているわね」
私が誉めるとセヴィは照れてもじもじする。
「リアナ様…当主様のお話しだと明日から今の科目の他に魔法学が始まるそうですよ。覚えることも増えますからね。より一層リアナ様も頑張っていただかないと…」
「魔法学ですか!?」
「えぇ…」
私は興奮のあまり大きな声を出してしまった。普段はあまり大きな声を出さない私にサーシャ先生は若干ひいている。
「大声を出して申し訳ありません、サーシャ先生」
「いえ、魔法学が楽しみなのはよくわかりました。しかし今は社会学の時間です。集中いたしましょうか」
「はい」
再びサーシャ先生の授業が始まる。
魔法学へのワクワクを隠しながらも一生懸命に授業に臨む。
本日の授業は終了し、夕食の時間になった。
夕食の後、お父様に魔法学が明日から始まるのを確認し私は楽しみ楽しみで仕方がなかった。
「魔法学って?」
夕食の後、サロンでお父様とお母様、セヴィの団欒の際セヴィが私に問いかける。
「魔法と魔石の使い方を学ぶことよ。いつもみたいに家庭教師の方に来ていただいて教えてもらうの」
「何で家庭教師?魔法は精霊さんに教えてもらうものでしょ?」
セヴィの言葉にお父様とお母様はぎょっとしていた。
ーあー、セヴィが精霊の申し子なのはお父様もお母様も知らないか。
「お父様、お母様。セヴィは精霊の申し子みたいなのです」
私が二人にそう伝える。
お父様はうーんと腕を組みながら考え込む。
お母様も困った顔でセヴィを見る。
セヴィは不穏な空気を感じとり私にピッタリとくっつく。
「お父様、セヴィが不安に感じます。精霊の申し子の何が悪いのですか?」
お父様は意を決したようにセヴィと私を見る。
「精霊の申し子自体は悪くない。精霊が見え恩恵を受けれれば幸せな人生が待っているとも言われている。しかし精霊の申し子はこの国では王位継承候補の証なのだ」
「お父様、しかし精霊の申し子は全てが男性だとは限りません。女性の可能性もありますよね、なのに王位継承とはどう言うことですか?」
「確かに王位継承は男性の場合だが、女性の精霊の申し子は王妃候補となり王位継承権を持つものの婚約者となるのだ。」
ー…なんだってー!!?
つまりセヴィには王位継承権がある。
また星ラプの通りになれば精霊の申し子であるロゼリアと王子の婚約阻止も難しくなる。
しかも厄介なことはセヴィに王位継承権があることが周りにばれれば、王位争奪の血で血を洗うような世界に可愛いセヴィが身を投じざるをえないことになる。
また王位継承権があることがわかればセヴィの出生の秘密が貴族たちの格好のゴシップになってしまう。
そんな…そんなのは認められない。
セヴィにもロゼリアにも穏やかな幸せを掴んで欲しいんだ!
「セヴィ…」
「何?」
「精霊が見えることはここだけの秘密にしましょう」
「何で?」
セヴィはこてんと首をかしげた。
可愛いんだけど…ではなく…。
「セヴィに精霊が見えるとわかると悪い人たちがセヴィを利用しようとセヴィに寄ってきて私たちと離されてしまうかも知れない」
絶対そうだとは限らないが、王位継承権があればセヴィの親戚だなんだと余計な人が寄ってきてセヴィを祭り上げいいように使う可能性がある。
お母さんに会わせてあげるとかお母さんの病気を治してあげるとか耳障りのいい出来もしない甘い言葉をかけ利用するだけする。
貴族の世界はそんなものなのだ。
「お姉ちゃんと会えなくなるの?でも…一緒にいるって…」
段々と小さくなる声に心が痛む。
セヴィは膝の上で手を強く握り下を向く。
私は膝の上にあるセヴィの手を握りお父様をじっと見つめる。
お父様はセヴィに向かい
「そうならないように出来るだけ私も尽力する。しかし降りかかる火の粉は払わねばならない。セヴィ、リアナ。この事は家族の他に話してはならないよ」
「わかりました。お父様」
「セヴィもわかったね?」
セヴィは消えそうな声で「はい」と答えた。
まさか団欒がこんなにお通夜みたいな雰囲気になるとは思ってもみなかった。
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