マティアスさんのタメ息
マティアスさんは、一瞬唇を合わせ、疾風のごとく出掛けてしまった。
慌てて『行ってらっしゃい』って言ったけれど、もう、姿が見えなくなってしまった。
今日のところはこれで満足しておきますか。
自分の唇を指でなぞる。
うん、マティアスさんの感触は残っている。
今日も1日頑張れます!
『あら、マティアスったら、もう行っちゃったの?
もっとヒロちゃんと別れを惜しむかと思ったのに。』
『夜には帰ってくるさ。』
マティアスさんのお父さんとお母さんに心配をかけちゃダメですね。
寂しくっても、お利口さんで待ってましょうね。
『さ、遅くなったけど、朝ごはん食べましょう。
食べたら、ヒロちゃんはお母さんとお買い物に行きましょうね。
ああ、娘がいる生活って、なんて潤いがあるのかしら。
もう、マティアスが結婚に煮え切らなかったら、ヒロちゃん、うちの子供になりなさいな。
マティアスの妹。
どう?!』
いや、どう?!って言われても困ります。
お母さんの娘にはなりたいですけど、マティアスさんの妹になるのはちょっと。
マティアスさんにお嫁さんが来ても、心からお祝いが言えないと思うんですよね。
だって、私がお嫁さんになりたいんですから。
『母さん、朝ごはんを食べたいんだが。』
『あら、今持ってきますね。
ヒロちゃん、手伝ってちょうだいな。』
『はい!』
何かこういう夫婦、良いですね。
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馬車を貸し切って、高速で走ってもらう。
多少遅刻だろうが、普通の乗り合い馬車に乗っているよりかは、かなり早く到着する。
両親の家から仕事に通うなら、馬車は効率が悪い。
仕方がないから、以前王家から報酬として賜った転移石を使うとするか。
転移石は、行ったことのある場所ならば念じて移動出来てしまう高価な宝なのだが、魔力を失い過ぎるのが困り物なのだ。
なるべく使いたくはなかったが、実家から通うのは無理があるので、宝を使用する事にしよう。
今が平和な時で良かった。
ヒロに幾日も会えぬのは寂しいからな。
タメ息を付き、目を閉じる。
ヒロの成長した瑞々しい姿が思い浮かび、柔らかな唇の感触を思い出す。
ーーー、ヨメ、か。
どうしたものかな。




