第七話『探索と癒し』
2020年7月4日、改変
アンデッドがいるような世界だ埋葬しないわけにはいかない、それに戦闘の痕跡もできるだけ消したい。溶けだしたのは無理だがゴブリンたちを軽く葬った。
まあ段差に一纏めにして回りの土や石を集めた程度だが。
「それにしても、腹減らないな。今は助かるけどこの体、後で飯食べられるのかな?」
霧の外も、植物以外ほとんどの生き物のいない森。草食動物もいないし、野菜や果物の安全もわからない。
━━サァァ━━
風の音しかない森がここまで不気味とは、多少はまともに見えたものが一枚剥げばこうも違う。
「あ~あ、わからないことだらけ。あのゴブリンたちも霧を出していたが、霧の中にはまるでいなかったし」
滝の滴を纏った風のおかげで涼しいが多分夏だろうに、虫の声一つ聞こえない。
森の異常は霧のせいとも言えないから、原因も結果もまるでわからない。
大きく伸びをした後に何時動いても良いように軽く準備運動をする、川を飛び越えソナーが妨害された南東に向かった。それにしても、何時かは妨害されると思ってたけどこんなに速いのか結構自信あったんだが。
「うーん霧を出してる奴が、霧とは関係ない清浄?な空気の方に多くいるって言うのは不思議だ」
見た渡すと多数の異様な痕跡が見える。握り潰されたり溶けたり無数の穴の開いた死体や木だ、水分が飛んでカサカサなのがわかる。それでも虫の一匹も集ってはいないし腐ってもいない様だ。近くで見なくてもかなりの時間が経過しているのに荒らされもしていないのが、森の異常性がわかる。
「痕跡はあるのに姿は見えない、あのゴブリンどもいるのかいないのかわかりにくいな」
そうやって口に考えをまとめながら歩いていると、魔法に良くある認識障害か、目と鼻の先にいきなり現れたのは薄い光の膜だった。どれくらいの範囲が覆われているのかがわからないが、ソナーで感知がされているのに、目で近くに来ないと見えないのはかなり複雑な魔法だろう。
「これ、硬くないぞ?むしろ何も感じないな空気みたいだ、あぁでもそのわりには」
魔力を軽く打ち出すと膜の表面に滑るように動き四方八方に魔力を弾いた。これじゃソナーが効かないわけだ、だがそれでもサイズはあまり大きくないようだ。手が入った時点で何もないってことは………よし中に入って見るか!。
「くっ…わぉ。これは凄いな、…………何か言いたいけど語彙力が足りなかったぁ」
全身の少しの厚を抜け、境界面を突破した。その内部は無数の光の粒が溢れた森。特に異常はそれくらいでやっぱり、ここでも生き物はいない。
「上は案外浅いみたいだ、それにしてもこの光はヤバいな。もうこれじゃ阻害所か封印だ、魔力を出すことも出来ない」
触れた光の粒は魔力をバラバラに裂いて、ただ消滅させた。それに地面にかなりの凹凸や壁があるせいで進みが遅い。
「このままだと間違いなくまた夜になるな」
なんとか使おうと試行錯誤していく、広げたり、素早く放ったり、どれも切り裂かれ弾かれとなんの手応えもなかった。
でも魔力を身体の中に留めてから放ったものは、少しの手応えと共に切り裂かれずに光を弾いたのを見た瞬間占めたとつい笑みが浮かんだ。
魔力を留めて圧縮して密度を上げる。それがわかったことで簡単な押し留めることから初めた。【闇属性】か【精密操作】のお陰か、慣れてほんの数分でやっと弾かれない程度に出来た。でもこれは光も密度の高い魔力で出来てるみたいだし、多分基礎なんだろうな。
光に裂かれて魔力に関するスキルがほぼ使えなかったが、多少の足止めで使える。一回使えばその度に練らないといけないが、この調子ならもっと速く練れるだろう。
「このままちびちびやるよりも、素早く動きと連動して練れるように慣れないと」
それにしても、ほとんど素の能力でも隠されていた所々の痕跡が見てとれる。意識しないでも【解析】が素の洞察力に補正をかけているのかもしれない、紙でもあればそれなりに考えが纏められるんだけど。
「幻影か?それと木に何かを被って溶けた様な傷後、か」
この森の探索はかなり難航していた、地面に印をつけながら進むが似通った風景ばかり。印も出たり消えたりと進んでいるのか戻っているのか、分かりゃしない。
「紙すら無しに探索なんて無茶だったか。こんな術が使えるような相手に敵対したくないけど、本格的に迷ったらまた木倒して行くしかないな」
そんなことを口に出すと呆れられたのかそれともどうにでもできると思われたのか、光の粒が消えると周囲をぐるぐる回っていた様だ。実際にはかなり小さな結界だったのかもしれない。広場と言える場所に無数の印をつけてあった、他所から見れば余程隙だらけだったろうに。
「攻撃してこなかったってことは今、話せますか?」
奥の何本か組み合った枯れ木の下にある穴、ソナーを使ってようやくわかったそこに話かけて待つ
……返事はない。少したってから近付いて行く。
「ずいぶん酷い傷だ、けどまだ生きてるぞ!」
攻撃されないと踏んではいたが、死なばもろともと覗きこむと暗く見辛い穴の中でもわかるほどの傷を負った人がいた。中に入って近くによって口に手を当てる。………息はあるが薄い、一目で危険な状態だとわかる。
「意識を保っていられない程のダメージ、俺が近づけたのはほとんどの偶然か」
このままじゃあ傷なんてよくわからないだろうと明かりを入れる為、【錬金術】を使って上の木に分かりにくい穴を開けた。多少大雑把だが今は一刻を争う仕方がないか、それでも【夢魔法】で少しだけでも幻影をかけて置いた。
外から何度か上手く隠れているか確かめた見たが、大丈夫だろう。
「…殴られるか蹴られる様な?複数の痣後が重なって分かりにくいな。いやそれよりも火、いや液体?」
光によってよく見える。擦り傷や打撲などは多いが、ひどいのが背中に広がる放射状の火傷だ。俺は医者じゃないから傷の判断はつかないが、酸何かの溶解物を受けたみたいだ。
「この傷を治すのは時間がかかるな」
最初は方法がない訳じゃない、補助魔法で生命力を強化するだけでも少しは癒えるはずだ。回復と言っても回復力の強化と言う点なのだから大丈夫の筈だ。
などと時間はかかれどそんな簡単にすむと思っていた、掛けて見た所効果はあまり無い。それは多分としか言いようがないが、根元と言っていい生命力が弱まっているのだろう。それでも多少効果があったようだ、痣は薄くなっている。
落ち着いたのだろうか先ほどまでの浅い息も今は吹き返しているようだ。
「今ので回復魔法でも取得出来てたら、………まだか」
スキル説明は何度か見るたびに内容は変わっているが、ほとんどは自分で編み出した使い方位だった。これは多分本来スキルを見る為のスキルではないステータス観覧だからだろう。一応本命の回復魔法はかの字もない、使えるようになりたいけど。
「そんな余裕もないか」
熱を手で計ってみるとかなり熱かった、今の俺との体温を比べるのは正しいのかはわからないがこのままでは死んでしまう。
「今は清潔な場所、いやそれと安全もか。あの霧ゴブリン3体以上なら俺も危ないからな」
迷宮なら可能性として安全で清潔な場所に出来…嫌、無理か。只薄暗くなる程度で何が出来る。
「何が足りないんだ、一体どうしたら」
このままではと悩み、その度に刻一刻と手の内の熱が上がっていく。もう迷宮とかそんな暇はないと切り捨てる。脳裏には強い不快感と罪悪感――幼い少女をこんな姿で見殺しにする――がふつふつと沸いて、考えが散漫になっていく。
そう悩んでいるうちに、腰に括ってあった夢喰いが鳴いている、まるで意思があるみたいに。それを見て触れて目を閉じる。
「ふぅ、そうだ。落ち着け、落ち着くんだ」
柄を握り大きな深呼吸しながら膝たちからゆっくり座り込むと、張りつめていた空気が少しずつ落ち着いていく。頭に雲っていた何かが晴れるようだ。
「何もわからないまま諦めるなんて。俺じゃない――
パンッと強く響く音。かなりの力で頬を挟むように叩く、真っ赤に腫れている。頬の痛みなんか、心が熱くて気にも止めなかった。
――問題なし!」
絶対に助ける!、そう自分に強く啖呵を切った。そんな簡単な言葉一つでも、今までの俺に思い付かなかったことが少しずつ浮かんで来た。
「そうだっ回復できないのなら無理やり自分にすれば!」
何処かから湧いてくるイメージに添い【錬金術】【夢魔法】【解析】【精密操作】【補助魔法】使えるものは何でも使って、自分の体を無理矢理変えていく。人間じゃ絶対に出来ない様なことも何も問題なく出来ると深く集中する。
手が感覚を保ったまま黒い粒子の如く変わる。それはまるでまだ使えない物を無理やり使っている様なそんな感覚だった、相手の身体に触れそのまま少しずつ沈めていく。
「君には聞きたいことが山ほどある、こんな所で死なれると困るんだ。だから生きろ!」
今までとは比べ物にならない脱力感、少しずつ身体に自分を残しながらゆっくりと抜き取る。やっと出来た繋がりはまるで冷えたガラスで出来た糸の様、折れる度にヒビが入る度に【錬金術】で修復して魔力を流して、これを繰り返す度に身体に流れる微量の魔力が一滴一滴圧縮と増加を繰り返す。
糸の中にまるで流体の神経が生える様な感覚。やっと出来た繋がりに握れるほどの魔力を持って【肉体再生】を使うと、少しずつでも目に分かる速さで傷が埋まっていった。
それを眺めていると、またピースがきっちりはまったような感覚がした。ステータスを見ると新しいスキルが、追加されていた。【圧力】だ、このスキルは圧力を掛けることを強化するようだ。薄い眠気で考えが纏まらない、言葉の通りならかなり役に立つだろうが今は後回しで。
「くっ、はぁ。あー疲れた、もうやりたくないなぁ」
疲れを大きく漏らすと身体を見下ろした、思った通り特に異常はなく五体満足で凄く怠いがその程度だ。我ながら酷く無茶をしたが、隣に寝ている少女の寝顔を見ればそんな物も報われ様な気がした。
気が抜けると先程から来る脱力感に大きく座り込む、身体は疲れていないのにこの精神的な疲れがなかなか慣れない。
「それにしてもこんなに無茶な思い付きが出来たのはこいつのおかげだな」
夢喰いの腹をポンポンと撫でると鳴りは収まっていく、それが照れている様でどこかおかしかった。
そんなことを考えながら強い疲れからウトウトしてしまった、もしかすれば少し眠っていたのかもしれない。
気が抜けていればその分隠れるのもお粗末だ、いくら小さな声を心がけていても喋っていればその分気づかれる。助けることに意識を割きすぎた。
妙に甲高い耳障りな濁音と何がが溶ける様な音が聞こえてくる。それで一気に目が覚めた。




