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【航海日誌9】

Ship’s Log ’527/7/30

Location: Planet Alduna/Lemuria Sector

Status: Tier8

今日はみんなで海水浴。

ホテルの上にあるプールでも泳ぎました。

ジュノはとても綺麗でした。


挿絵(By みてみん)



「雑念が払いきれていないわ‥‥むしろ雑念だけで描き上げてある‥‥」

過去の航海日誌を見るヴェスタの目は厳しい。

厳しい目が見つめるのはジュノの愛らしい微笑み。

突然にんまりと笑うヴェスタは蕩けそう。

いやいやぶんぶんと首をふる。

そもそも航海でも日誌でも無いことには気付かない。

そこを見ていないから。


パタリと航海日誌端末を閉じるヴェスタ。

目を閉じ明鏡止水に至る。

くわっと目を開き、もう一度航海日誌端末を開いた。

きりりと見つめる視線の先。

そこには天使のような微笑みのジュノが、愛らしくヴェスタに微笑みかける。

にへらと顔が崩れるヴェスタ。

えんえんとニマニマしながら見続ける、どこに精神統一の必要があったのかは謎だ。

よだれもちょっとたれてきている。

はっと我に返るヴェスタ。

じゅるりとよだれを拭い、慌てて新規作成ボタンをつんとする。

「き‥‥危険だわ‥‥ジュノの微笑みには魔力があるのだわ‥‥危うく自分を見失うところだった」

そもそも航海日誌的には、自分を見出してすらいないとは思考が及ばない。


すくと立つヴェスタは、いつもの精神統一からマインドフルネスを志す。

綺麗に力の抜けた自然体で立ち、心にはシンメトリックな単独峰を思い浮かべる。

そこには不動の山が思い描かれた。

その力強い姿から、揺るがぬ気持ちを受け取るヴェスタ。

右足がすいと内側に上がり、両手は合わせられ天を突く。

揺らがぬ重心にヴェスタのさとりが見て取れた。

(そう‥‥わたしは木よ‥‥年月を重ね揺るがなくなった大木‥‥)

ヴェスタの中で、最近見た大木が思い浮かべられる。

それは青い森に高々と幹をそびえさせる姿。

風にも雨にも揺るがず、ただひっそりと佇む。

そして何者かが近づこうものならパリパリと帯電していく。

ヴェスタの髪の毛がふわりと浮かび上がる。

それはオーラの仕業か、はたまた静電気か。

(ぴしゃぁーん!!)

くわっと目を見開くヴェスタの瞳には閃く雷が写されていた。

この星特有のヴルクシャーサナ(木)のポーズを解き、静かに歩み進むヴェスタの先には航海日誌端末。

ぴしゃーんじゃねえよ、という誰かの突っ込みの声はヴェスタには届かない。

今ここに雷神ヴェスタが降臨したのだった。


空を切る美しい指先。

十分に速度を持つのだが、滑らかさ故にたおやかにすら写る。

つぎつぎと指先は複雑な型を、正確に繰り出していく。

恐るべき技量のジェスチャー入力。

そもそもタイプすれば1/10程度の労力で入力できるのに、たった数行の文字列に、これだけを込める。

そこには完成された美があった。

航海日誌を描く時、そこには麗しい女神が降臨しているのだ。

誰の目にも写ること無く‥‥

なんの必要も無く。


美しい所作には、始まりも終わりも記憶に残らない。

あまりに自然すぎて、それを認識できないのだ。

気付いたら終わっている。

それが達人も夢見る、神なる技だ。

今ここにヴェスタがそれを成す。

航海日誌を書きあげるために。

描きあげるものでは無いと気付く日は来るのか。

「お粗末様でした‥‥」

そっと告げて3歩さがり膝を着き四つん這いになる。

あまりの航海日誌で無さについに気付き嘆いたのか?

すいぃと頭を下げ胸を着くヴェスタ。

大きな胸が邪魔でポーズが乱れているのだが、そこは気にしない。

ピシっと固まったのはウッターナシショーサナのポーズ。

伸びをする子犬のように背骨を伸ばした。

むくっとポーズを解いたヴェスタは、るんるんとシャワーを浴びに行く。

かなりの出来栄えなのだろう。

嬉しそうな鼻歌が漏れていた。


バタンとしまったドアが勢いよく開いても、もう誰も驚かない。

走ってきて保存ボタンをつんつんするところまでがヴェスタの航海日誌なのだから。
























Ship’s Log ’527/9/5

Location: Planet Austella/Unknown Sector

Status: Tier9


色々あって、知らないところに来ました。

ここは毎日曇っていて陰気です。

早くアルドゥナに帰って、南の海が見たいです。

ジュノはおひさまが大好きなのだから。










挿絵(By みてみん)





ジュノだったのか。

そこに戦慄したのは、誰であったか。

定かではない。


航海日誌に果はないのだから。

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