【航海日誌10】
Ship’s Log ’527/9/5
Location: Planet Austella/Unknown Sector
Status: Tier9
色々あって、知らないところに来ました。
ここは毎日曇っていて陰気です。
早くアルドゥナに帰って、南の海が見たいです。
ジュノはおひさまが大好きなのだから。
「まてまてまて‥‥これ本当に私が描いたの?!」
しばらく落ち着かなかったので、書けていなかった航海日誌をしようと一念発起したヴェスタは、とりあえず恒例なので、前回の日誌に目を通した。
航海日誌は本来付けるもので、しようと思うものではないのだが、そこは問題ではないらしい。
ヴェスタは両手で顔を覆い、震えている。
新しく作ったCセクター、センターショップ横の拠点には、個室がある。
誰にも迷惑をかけずに、感情に溺れる事すら出来るのだ。
「‥‥くくくく‥‥あはははぁ!!」
突然狂ったように笑い出すヴェスタ。
「おっかしぃー!!なにこれえぇ?!あはははぁ」
ひとしきり大笑いして転げ回ったヴェスタ。
急にピタリと止まり、そおっと画面をもう一度見る。
「あはははは!!」
ばんばんと床まで叩き出すヴェスタはしばらく腹筋が痛くなる思いをした。
「コホン‥‥」
流石に10分も転げ回って、これではまずいと思ったか、真面目な顔になるヴェスタ。
チラと画面をみて、ぷーっクスクスと我慢して笑いながら、新規作成で画面を消した。
「ま、まぁ、ジュノへの深い思いやりと愛情は感じ取れるわね‥‥目の中に思いでが描かれている辺りに斬新さもあったわ‥‥」
くくっとまた笑いそうになるヴェスタ。
ヴェスタは自分の書いた航海日誌で、ここまで楽しめる人間だった。
自己分析と内省のレベルも高かったのだ。
日誌を付けた時の自分の感情までもありありと思い起こすことが出来て、それもヴェスタを高みへといざなう。
それは自分の日記でやれよと、どこかで誰かが呟く気配はヴェスタには届かない。
ヴェスタは書き始めまでは、これが汎銀河連邦連邦領土開発省外縁開拓局公文書で、極秘資料扱いだが省内の資格者は閲覧する可能性のあるものだと把握している。
書き始めるまでは。
笑いを、いや心を落ち着かせる呼吸法に入るヴェスタ。
部屋の中央に置いた椅子に静かに座る。
まっすぐに伸ばした姿勢や、空気すら動かさない所作には、長年鍛えられ躾けられた理念が見える。
ヴェスタは幼い頃から、とても厳しく行儀や作法、言葉遣いや所作を躾けられている。
その必要があったからだ。
深い腹式呼吸で呼吸を整えてから、ゆっくりと足が上がり結跏趺坐となる。
目は鍛えられた寝ぼけスキルで半眼に固定され、ピクリとも動かない。
数秒で瞑想の境地に入るヴェスタ。
左手は丹田にそえられ手のひらは上に向き人差し指と親指がつきあわされ環をなす。
右手は肩の高さに上げ、手のひらを横に向け親指と中指薬指が結ばれる。
神々しい姿には気品すら有り、見るものがいれば拝みたくなるほどの何かをまとっていた。
誰も見ていなかったが。
ヴェスタがいつ立ち上がり、いつ動いたのか見るものがいても気付くことは出来なかっただろう。
全てが終わった後に、やっと常人の認識が追いつくのだ。
そこに描き上げられた航海日誌を見て。
ちなみに文字はジェスチャー入力に拘っている。
掛け声も無く、呼吸さえ感じ取れない静かな瞑想から、部屋を立ち去るヴェスタまでの間を認識できない何かの奇跡が起きているのだった。
そして数瞬の後に、あわててかけてくるヴェスタが保存ボタンを押した時、初めて常人の時が動き出すのだった。
Ship’s Log ’527/10/4
Location: Planet Austella/Unknown Sector
Status: Tier9
今日は久しぶりに拠点を作りました。
とても楽しかったです。
そしてとても疲れました。
あと、ジュノがとても甘えてきて困っちゃいます。
でも嬉しい。




