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第5話 誰だお前

彼女に連れられて、ヒロは初めて街へ出ることになります。


 身の上のことを話したのは初めてだったが。


 フィーネは変に同情もせず。


 疑いもせず。


 ただそういうものとして受け入れていた。


 長命種だからなのか。


 それとも単に大雑把なのか。


 たぶん両方だろう。


 ただ、この時の俺はまだ知らなかった。


 昨日ドブの横でへらへらしていた酒カスエルフが。


 なぜか尊敬される側の存在だということを。


 そして俺が何度も「誰だお前」と思うことになるなんて。


――――――――――


「さて」


 フィーネは紅茶を飲み終えた。


「今日はどうしましょうか」


「どうするって」


「ヒロはこの世界に来たばかりなのでしょう?」


「ああ」


「なら、まずは街を見て回った方がいいですね」


 たしかに。


 昨日は酒瓶との戦いで終わった。


 異世界を知るどころではない。


「そうだな、できればそうしたいところだ」


「それに」


 フィーネは少し考えるように言った。


「今後のこともありますし」


「今後。」


「冒険者登録をしておいた方が便利でしょう」


「あー」


 異世界のお約束だ。


 ギルド。


 冒険者。


 ランク。


 一度くらい見てみたい。


「登録には紹介状とか必要なのか?」


「いえ」


 フィーネは首を振る。


「私が一緒に行けば大丈夫でしょう」


「便利だな」


「便利ですよ」

 

 かえって高くつきそうだが、まあいい。


 案内してもらえるなら助かる。


「じゃあ頼む」


「ふふっ、お任せください」


 優雅に微笑む。


 思わず見とれそうになる。


 だが画角外に転がっている大量の酒瓶が目に入り、一瞬で現実に引き戻される。


 やっぱり昨日の酒カスと同一人物には見えない。


――――――――――


 しばらくして。


 二人で家を出た。


 朝の街は活気に満ちていた。


 石畳の道。


 露店。


 行き交う人々。


 パンの焼ける香り。


 ようやく異世界らしい景色である。


「おお……」


「どうしました?」


「いや」


 思わず見回す。


「異世界だなって」


「そりゃあヒロにとっては、ばっちり異世界ですから」


「それもそうだ」


 正論だった。


――――――――――


 通りを歩く。


 すると。


「フィーネお姉ちゃーん!」


 子供が走ってきた。


 勢いよくフィーネに抱きつく。


「おはようございます」


 フィーネは自然にしゃがみ込んだ。


「おはよー!」


「元気ですね、もう怪我は大丈夫ですか?」


「うん!」


 そう言って膝を見せる。


 綺麗に治っていた。


「それは良かったです」


 頭を撫でる。


 子供は満足そうだった。


「また弓見せて!」


「ええ、ちゃんとお母さんに許可をもらってくださいね?」


「うん!約束だよ!」


「はい」


 子供は元気よく走り去っていった。


「なんか普通に慕われてるな……」


――――――――――


(誰だお前……?)


――――――――――


 昨日。


 路地裏でキラキラ放出していた奴と同一人物とは思えない。


「あんた……人気者なんだな」


「そうでしょうか?」


「そうだろ」


「よく分かりませんが、悪い気はしません♪」


 本気で言っているらしい。


――――――――――


 さらに歩く。


「おはようございます、フィーネさん」


 今度は八百屋のおばさんだった。


「おはようございます」


「この前は助かりました」


「いえ、そんな」


「おかげで今じゃ孫もすっかり元気ですよ」


「それは良かったです、また熱を出したらいつでも呼んでください」


 にこやかに会話を交わす。


――――――――――


(誰だお前!!)


――――――――――


 二回目だった。


――――――――――


 さらに歩く。


「フィーネ殿!」


 今度は兵士だった。


 鎧姿の男である。


「お久しぶりです」


「こちらこそ」


 そして。


 男は深々と頭を下げた。


「先日の討伐の際は本当に助かりました」


「お気になさらず」


 自然なやり取りだった。


 だが。


 俺には自然ではなかった。


――――――――――


(誰だお前ー……)


――――――――――


 三回目だった。


――――――――――


「なあ」


「なんでしょう」


「お前、思ったより凄い人なのか?」


「そんなことはありません」


「さっきの屈強なおじさま」


「守備隊長さんですね」


「深々と頭を下げてたぞ」


「そうですね」


「普通の人にはあんなことしないだろ……」


「そうかもしれませんね」


 フィーネは平然としている。


「何者なんだ」


「弓使いです」


「絶対それだけじゃない」


「そうかもしれませんね」


 そう言って微笑んだ。


――――――――――


 そして。


 街の中心部へ辿り着く。


 そこには大きな建物があった。


 石造り。


 頑丈そうな扉。


 武器を持った人々が出入りしている。


「ここです」


 フィーネが指差した。


「この街、アルセリアの冒険者ギルドです」


「おお、思ったよりでかいな」


「このあたりでは一番大きい支部ですね」


 ちょっとテンションが上がった。


 異世界っぽい。


 かなり異世界っぽい。


 俺たちはそのまま中へ入る。


 そして。


「フィーネ様!?」


 受付嬢が立ち上がった。


 ギルド中の視線が集まる。


「え?」


「フィーネ様?」


「帰ってきてたのか」


「おお、フィーネ様!」


「本物だ」


 ざわざわ。


 ざわざわ。


 俺は横を見る。


 フィーネは困ったように笑っていた。


「お久しぶりです」


 受付嬢は明らかに緊張している。


 冒険者たちも同じだった。


 俺はゆっくりフィーネを見る。


――――――――――


(だから誰なんだお前……)


――――――――――



ヒロの感想はたぶん最後の一言に尽きます。


「だから誰なんだお前」


次回はたぶん冒険者ギルドです。

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