第2話 酒カスエルフの家には入れませんでした
酒カスエルフの生態調査回になります。
ヒロはまだ知りませんが、フィーネは思っていたよりだいぶ駄目です。
嫌な予感がする。
ものすごく嫌な予感がする。
たぶん、このエルフは俺の人生をめちゃくちゃにする。
そんな確信だけはあった。
「じゃあ、また明日ねぇ~」
フィーネはへらへら笑いながら手を振った。
「明日どころか、二度と会わん」
「ひどいよ…およよ…」
「会った初日に金を借りようとする奴に言われたくない」
「お金じゃないもん、返すもん!」
「しかも酒代だったな」
「そうそう」
「なお悪い」
俺はため息を吐いた。
とにかく宿を探そう。
今日は疲れた。
異世界転生したと思ったら神様に変な加護を押し付けられ、路地裏で酔っ払いエルフ?と遭遇した。
情報量が多すぎる。
今日はもう寝たい。
そんなことを考えながら歩き始めた。
数秒後。気配。
「………………なんでついてくるんだ」
振り返る。
いた。
普通にいた。
フィーネがいた。
「え?(ニコニコ)」
「え?じゃない」
「えへへ、方向が一緒だった」
「絶対嘘だろ」
「ばれた?」
「ばれる」
当たり前だ。
ずっと俺の服の裾を掴んでいる。
方向一緒も何もない。
「帰れ」
「やだ」
「帰れ」
「やだぁ………」
「帰れ」
「やだああああぁ!」
「子供か!」
「二百八十歳だよぉ」
「なおひどいわ!」
エルフってもっと神秘的な種族じゃなかったのか。
俺の知ってるエルフ像と違う……。
だいぶ違う。
「というか、お前家あるんだろ」
「あるよぉ」
「じゃあ帰れ」
「帰れないの」
フィーネがしゅんとした。
ちょっとだけ。
本当にちょっとだけ可哀想に見えた。
「なんだ……何かあったのか……?」
「ぐすん」
「泣くな」
「わたしのおうちなのに」
「うん」
「入れなくなっちゃったの……」
「重い話だったら帰るぞ」
「ぐすん……」
フィーネは袖で目元をこすった。
なんだろう。
少しだけ同情してしまう。
火事とか。
事故とか。
家庭内の事情とか。
そういうやつかもしれない。
エルフって、相場としてはなにかしらしがらみがありそうだ。
「……何があったんだ?」
嫌な予感しかしなかった。
しかし俺の経験上。
嫌な予感はだいたい当たる。
―――――――――――――――
歩いて5分から10分後。
「ここがおうち~」
フィーネが指差した先には、小さな一軒家があった。
見たところ普通だった。
拍子抜けするほど普通だった。
「普通の家じゃねえか」
「いいでしょ?」
「じゃあな、帰れるだろ」
「帰れない」
「だからなんでだ」
フィーネは玄関を指差した。
「開かないの」
俺はドアノブを握った。
ガチャ。
奥に開くタイプのドアが開かない。
「ほんとだ………鍵か?」
「ううん、違うよぉ。カギは開けたよ~…」
「壊れた?」
「わからない」
「じゃあなんだよ」
「入れなくなったの」
「だからなんでなんだ………」
俺は力を込めた。
ぐぐぐぐぐ。
開かない。
たしかに開かない。
中から何かが引っかかっている感じがする。
「……まさか」
嫌な予感がした。
俺は近くの窓から中を覗き込む。
そして。
「……」
沈黙した。
酒瓶。
酒瓶。
酒瓶。
酒瓶。
酒瓶。
酒瓶。
酒瓶。
酒瓶。
酒瓶。
酒瓶。
酒瓶。
酒瓶。
酒瓶。
酒瓶。
酒瓶。
酒瓶。
酒瓶。
酒瓶。
酒瓶。
酒瓶。
家の中が酒瓶で埋まっていた。
「酒瓶でドア塞いでるだけじゃねえか!!」
思わず叫んだ。
「あ、ほんとだっ、てへっ」
「てへっじゃねえ!!」
何かのタイミングで玄関に酒瓶が崩れ入れなくなったのだろう。
どういう生活をしたらこうなる…。
いや、本当に。
マジでどういう生活をしたらこうなるんだよ……。
「飲んだあとぽぽぽっぽいって置いてたらぁ……」
「うん」
「増えた」
「増やした、だな、正確には」
「でもお酒美味しいし」
「飲み終わる度に片付けろ」
「やだ」
「なんで」
「次のを飲むから、あとちょっぴり残ってるのもある」
「片付けろ」
「飲むから」
「片付けろ」
「やだああああ!」
「頼むから会話しろ」
ダメだ。
話にならない。
俺は再び窓から中を見た。
よく見ると。
酒瓶の山の向こうにベッドが見える。
机もある。
椅子もある。
生活空間らしきものもある。
「一応、住んでたのか……」
「だから住んでるよぉ」
「どうやって出入りしてたんだ」
「窓」
「窓」
「窓」
「窓」
頭が痛くなってきた。
胃ではなく頭だ。
「で、その窓も今日ついに使えなくなったと…」
出入りしていたであろう隙間に、酒瓶がなだれ込んでいる。
「自分のお家から締め出されちゃいました……よよよ……」
「よよよじゃねえええ!ヤバい時点で片付けろ!」
「えー………めんどいよー………」
フィーネは悪びれもなく答えた。
この女エルフ、本当に駄目だ。
駄目すぎる。
「というか今日はどうするんだ………」
「んー?」
「家に入れないんだろ」
「うん」
「寝る場所は」
「ない」
「飯は」
「ない」
「お金は」
「あそこ!」
フィーネは部屋からチラっと見えている棚を指さす。
「そうか、一件落着だな。じゃあ俺は帰る」
「待ってぇ!?」
フィーネが俺の腕にしがみついた。
「離せ!」
「見捨てないでぇ!」
「知らん!」
「何があっても俺が助けてやるって言ってたじゃん!」
「言ってねえよ!?」
怖い。
色々怖い。
その時だった。
ズキッ。
「うっ」
胃が痛い。
まただ。
また加護だ。
放置するなと言っている。
「このクソ加護が……!」
「お?お??」
フィーネが期待に満ちた目を向けてきた。
やめろ。
その顔をするな。
嫌な予感しかしない。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
フィーネという生き物の方向性がだいぶ固まってきました。
次回もたぶんヒロの胃に優しくありません。




